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第一章Ⅲ(広がっていく知識)①

リリアンヌ視点



「シルヴィア…こんにちは」


カランカラン…と、小さく鐘の音が鳴った。



「あら、リリィ。いらっしゃい」

椅子に腰掛けていたシルヴィアが、扉の方へ顔を向けた。



「みんなの様子は、どう?」

リリアンヌは扉を閉めると、シルヴィアの横まで近寄った。




「もう、すっかり元気よ」



「本当?良かった…」


また体調が悪くなっていたらどうしようと思ったけれど、

どうやら、杞憂に終わったみたいだ。



「…シルヴィア、何しているの?」


テーブルの上の様子が、昨日とはまったく違う。


瓶がいくつも並べられ、シルヴィアの前には薬草を載せた皿があった。




「これはね、薬を作っているの」



「…!」



「説明をしましょうか?」



「うん、お願いします!」

リリアンヌは隣の椅子によじ登ると、膝をついて身を乗り出した。



「これは、乳鉢に乳棒。乾燥させた薬草を混ぜて挽いて、薬を作っているのよ」

シルヴィアは乳棒を動かし、薬草を粉末にしていた。




「これ全部、薬草なの?」


並べられた瓶の中には、いろいろな種類の草や葉が乾燥した状態で入れられている。


見たことのない花や実を乾かしたものもあった。




「ええ、そう。薬草を組み合わせて、それぞれの効能に合わせた薬を作る。

昨日も言ったけれど、薬自体は薬師(メイディ)も作ることができるの」



霊拝師(オランス)が作る薬と、薬師が作る薬はどう違うの?」



「もちろん、白のちからが込められているかどうかよ」



「!薬草に、白のちからを込めることができるの?」

リリアンヌは、はっと顔を上げた。



「できるわ。例えば――私が今作っているものは、お腹の痛みに効く薬なのだけれど」

シルヴィアの挽く粉末が、ふわりと淡く光った。



「…これで、薬師が作った薬から、霊拝師の作った繋ぎ薬に変わったわ」




「つなぎやく?」



「繋ぐ、薬。特別な意味はないのよ」



「治りますようにって、願ったの?」



「え?」



「ええと…ちからを使う時って、願いを込める必要があると思ったのだけれど」


実際に、今まではそうだった。




「ああ…ええ、そう。ちからを使う時は、祈りを込めているわ」

シルヴィアは、間を置いて頷いた。


「だけど、治りますようにとは祈らない」




「…そうなの?」



「ええ。祈ったところで、治るような薬を作ることはできないから」



「……」

リリアンヌは、きゅっと口を結んだ。



「その代わり、痛みが和らぎますようにと祈るのよ」

シルヴィアは優しく続けた。


「飲んだ人が、少しでも癒されますように…そう祈るだけで充分なの」




「…癒されますように」



「今度お腹が痛くなった時に、ちからを使わず、まずここで作った薬を飲んでみなさい。どれほど効くか、分かるでしょう」



「…ね、シルヴィア。私も挽いてみていい?」



「ええ。だけどあなたには、まず座学の方が先ね」



「座学…?」

リリアンヌは、きょとんと目を瞬いた。




「リリィ。この国に霊拝師は、何人いると思う?」



「えっ…ええと、数十人…?」


咄嗟に、ニアに聞いたままを答えた。




「今は、二十人ほどだったはずよ」



「そうなんだね」


それが多いのか少ないのか、よく分からない。




「霊拝師は、実力によって四つの等級に分けられるの。

下から、初級(フォリア)中級(ペタルム)上級(フロース)、それから――最高位(エクセルシス)



「フォリア、ペタルム、フロース、エクセルシス…」


シルヴィアの言葉を繰り返し、必死で頭の中に入れた。




「セスランディア大聖堂へ入るとまず、誰もが一番下の等級に振り分けられる」



「初級、だね」



「そう。そして、ほとんどの霊拝師が初級のままなの」



「どうなると、中級に上がれるの?」



「体に触れず、一気に二人以上を癒すことができると上がれるわ。これができる使い手は、五人もいないの」



「…!」


触れずに癒す。


それは昨日、私がしたことだ。



「上級に上がるには、さらに三つの条件が必要になる」

シルヴィアは手元を動かしながら、ゆっくりと説明を続けた。


今は、粉末にした薬草を篩に掛けて、さらに細かくしている。

とても手際がいい。



「欠損した体の部位を、元に戻せること。病気を完治させること。そして、それを複数人へ同時に送れること」



「そんなことをできる人が、ひとりいるんだね」


私には、欠損した部位を戻すことはできなかった。




「ええ、アイラという上級霊拝師ね。彼女は、ここ何十年かで一番、最高位に近い存在と言われているの」



「…シルヴィア。昨日は…その、ごめんなさい」

リリアンヌは、気まずそうに目を伏せた。




「…?何の謝罪かしら」



「何も知らないくせに、最高位になりたいなんて…」


穴があったら、入りたいほど恥ずかしい。



「簡単になれるような言い方をして、本当にごめんなさい」




「いいえ。あなたに分かってほしいところは、そこなの」

シルヴィアは作業する手を止め、きっぱりと言った。




「…え?」



「あなたは、上級になる条件のうち、すでに二つを達成しているわ」



「でも…体の欠損を治すことは、できない」



「その唯一の上級霊拝師も、初めはできなかったわ」



「…鍛えれば、私もできるようになる?」

リリアンヌは、わずかに期待の込めた声で尋ねた。



「個人によって、限界は違うわ。鍛えてもできない者がほとんどよ。だけどあなたなら、間違いなくできるようになるでしょうね」

シルヴィアは顔を近づけ、囁くように答えた。



「――白のちからを使える環境にいれば、だけれど」



「…!」


静かな言葉に、思わず息を呑んだ。




「ここで教えられるのは、白のちからに関する知識と、薬の作り方くらい。だけど、それだけでは決してちからは鍛えられないわ」



「…うん」



「あなたは、まず自分の実力を知って、それがどれほど貴重なものかを理解しなさい」



「…ごめんなさい」

リリアンヌは、しゅんと肩を下げた。



「時が来たら、必ず霊拝師になりますから」



シルヴィアは、きっと怒っている。


人を癒すちからを持っていて、そのちからを隠そうとしているなんて。

元霊拝師からしたら、冒涜以外の何ものでもないだろう。



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