表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第六章/動かす言葉
221/223

届き始めたもの③

リリアンヌ視点



書庫室を出ると、アイラは、長い階段の前まで見送りに来てくれた。



アイラは手を上げ、階段を下りていくふたりを見守った。


リリアンヌは何度も振り返り、見えなくなるまで手を振った。



「…失礼します」


階段を下りきったところで、行きと同じように抱えてもらった。


長い坂道を、アランフォースは軽々と下っていく。



「…アランフォース副団長。ごめんなさい」

リリアンヌは、静かに口を開いた。



「…何の謝罪でしょうか」



「護衛をいらないなんて言って、ごめんなさい」



「……」


アランフォースの手が、ぴくりと動いた。



「怒りの感情に任せて、とても失礼なことを言いました。本当に、ごめんなさい」


今まで、何度も護衛してくれたのに。


そんな人の前で私は、騎士の存在意義を否定するような言葉を使ってしまった。



「…リリアンヌ殿下のおっしゃりたかったことは、分かります」

アランフォースは前を見たまま、淡々と答えた。



「誰かを巻き込むくらいなら、ひとりの方がいいと。そういう意味での発言だったのでしょう?」



「…はい」



「……」


ふいに――アランフォースが、足を止めた。



「…?」



「…デューゼの森へ、本当にひとりで行くつもりだったのではないですか」

アランフォースは、ゆっくりとリリアンヌに顔を向けた。



「…え」


ぎくりと肩が揺れた。



「週に一度とはいえ、一年以上リリアンヌ殿下と行動を共にしてきました。それくらい、分かります」



「……」


何か、言わないと。


黙っていたら、認めたようなものだ。



だけど…何も言葉が出てこない。



「そんなことをされたら…私は、追いかけますよ」



「…え?」



「あなたをひとりで、どこへも行かせません」


アランフォースは、貫くように言い切った。



「……」


どうして、そこまで――



喉まで出かけた言葉を、ぐっと飲み込んだ。


つい先ほど、自分を卑下するなと言われたばかりだ。



「…アランフォース副団長は、国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)の副団長でしょう?」

リリアンヌは目を伏せ、そっと答えた。



「…国王のための騎士様です。そんなこと、陛下が許しません」


つい、拗ねたような声が出てしまった。



恥ずかしい。


大聖堂での出来事を国王に報告されていたことを、まだ根に持ってしまっている。


それが、アランフォースの仕事だというのに。



「陛下へ報告を入れていたのは、私ではありませんよ」



「えっ…?」

リリアンヌは、どきりと顔を上げた。



「ちなみに、アイラ殿でもありません。私から言えるのは、ここまでです」



「…え…で、でも」


それなら一体、報告していたのは誰だというのか。


書庫室には、いつもアランフォースとアイラしかいなかったのに。



「…まだ私を信用なさっていないのですか?」


アランフォースの目が、すっと細められた。



「…信用しています!」


咄嗟に、ぶんぶんと首を振った。



しまった。


今度こそ本当に、アランフォースを怒らせてしまった。



「そうでしょうか。図書室の時は、とてもそのような表情には見えませんでしたが」



「と、図書室の時…?」


王城の図書室の話だろうか。



「私と、目を合わせてくれませんでしたね」



「…!」



「陛下やアイラ殿には尋ねるのに、私には、何も聞いてくれない」



「…あ、あの」



「確かに私は言葉足らずですが、あなたには誠実に応えてきたはずです」



「……」


これは、まさか。


アランフォースはまさか、自分と同じように――



「ですが…あなたには届いていなかったようですね」

アランフォースはふいと視線を逸らすと、再び歩き出した。



坂道が終わり、整備された道へと戻ってきた。


周りには、人けもない。


静かに、三時を知らせる鐘が響いた。



「…届いて、います」


ぽつりと、言葉が落ちた。



「アランフォース副団長の言葉は、全部、届いています」



「……」


アランフォースは、前を向いたままだった。



「…私が、もしひとりで王都を出ていたら…本当に追いかけてきてくれたのですか?」

リリアンヌは、囁くように尋ねた。



「…当然です」



「アランフォース副団長なら…また、私を見つけてくれそう」



「…それはスノウが力を貸してくれたからです」



「スノウは、私の気持ちをよく知っています」


ちらりと、肩に視線を向けた。



「スノウがアランフォース副団長のところへ助けを求めたことが、嬉しい」



「…嬉しい?」



「はい。私がアランフォース副団長のことを一番信頼していると分かってくれていることが、とても嬉しかったのです」

リリアンヌは、小さく笑みを浮かべた。



「それに、アランフォース副団長が一緒なら…どこへでも行けそう」


言葉足らずは――自分の方だ。



届かないと勝手に決めつけて、何も言ってこなかった。


そのことが、周りを傷つけていることにも気付けなかった。



「…どこへでもは、大袈裟な気もしますが」


静かな声が、耳に入ってきた。



「…いえ、分かりませんね。殿下は、想像以上に行動的ですから」



「…まだ、見張り塔から飛び降りたことを言っていますか?」


むっと、つい頬が膨らんだ。



「違いますが」

ふっと、アランフォースが笑みをこぼした。



「ですが…あれは、一生忘れないでしょうね」



「…はい」

リリアンヌは、小さく頷いた。



初めてアランフォースと出会って、スノウを見つけた日。


絶対に、忘れることはない。



それきり、会話は途切れた。


もう道は平坦なのに、抱え上げられたままだ。



巡回している守衛隊たちが、こちらを二度見している。


恥ずかしかったけれど、下りる理由もなかった。



あっという間に、エラドリオール邸の前まで戻ってきた。


ふたりが近づくと、門番が静かに門を開けた。



門を通り過ぎたところで、アランフォースは、リリアンヌをゆっくりと下ろした。



「アランフォース副団長、ここまでありがとうございました」

リリアンヌは、深々とお辞儀した。



「……」


アランフォースは、じっと見下ろしたままだった。



「…あの」



「…もう、ひとりでどこかへ行こうとしないでください」



「…はい」


しっかりと頷いた。



「あ…でも、私はもう大聖堂へ行かなくなります」


はたと、いまさらながら気付いた。



「…アランフォース副団長の護衛が、終わってしまいます」


登城もしないことになった。


アランフォースと会う機会が、なくなってしまう。



「…まずは、地下捜索でお会いできます」



「あっ…アランフォース副団長も行かれるのですね?」



「当たり前です」



「そう…ですね」


国王が行くと言っていたのだから、


もちろん、エドガーもアランフォースも行くはずだ。




「あなたが行くのですから、行きます」



「!」



「陛下は、関係ありません」


アランフォースの見つめる顔は、どこか拗ねていた。



「…はい。ありがとうございます」


関係ないわけは、ないけれど。


新たなアランフォースの一面を見れた気がして、少し嬉しい。



「…では、行きます。ありがとうございました」


リリアンヌは再びお辞儀して、屋敷の方へ足を向けた。



前庭を歩いていると、屋敷の入り口からステファンが出てきた。


扉を開けて、待ってくれている。



「お嬢様、お帰りなさいませ」



「ただいま、ステファン」


扉をくぐりながら、もう一度門の方へ振り返った。



閉められた門の向こうから、まだアランフォースが見守ってくれていた。


リリアンヌはそっと笑みを浮かべ、小さく手を振った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ