表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第六章/動かす言葉
219/222

届き始めたもの①

リリアンヌ視点



入り口前には、王家の紋章が入った馬車が止まっていた。


きっと、ルイージが指示を出してくれていたのだろう。



「……」

リリアンヌは、ゆっくりと馬車へ近づいた。


待機していた御者はこちらに気付くと、一礼して御者台へ向かっていった。



アランフォースが途中で前に出て、馬車の段差に足を掛けた。


手を差し出し、支えようとしてくれている。



その手に向かって、右手を伸ばし――


途中で、ぴたりと止まった。



アランフォースが、ゆっくりと顔を上げた。



「…あ…」


リリアンヌは真っ青になり、馬車を見つめていた。


伸ばしたままの手が、微かに震えた。



「…!」

アランフォースは、はっと馬車から離れ、すぐにリリアンヌの前に跪いた。



「気が回らず、申し訳ありませんでした。一度、戻りましょう」



「…だ、大丈夫です」



「大丈夫ではないでしょう。真っ青です」



「…っ」

リリアンヌは、ぎゅっと目を瞑った。



馬車に乗って、


また襲われたら。


また、御者が殺されてしまったら。



そう考えたら――どうしても、これ以上進めなかった。



「…エラドリオール邸へ戻られますか?」


気遣わしげな声が、耳に届いた。



「…それは」


今は――帰れない。


こんな顔で母に会ったら、また心配をかけてしまう。



「…大聖堂までは、歩いて向かえますか?」



「大聖堂まで、坂道が続きます。殿下のその靴では、難しいでしょう」



「そう…ですか」


侍女たちに用意してもらった靴は、いつもよりヒールが高めだった。



「…私が抱えてお連れします」



「えっ…」


はっと、顔を上げた。



「私がお抱えしてもよろしければ、大聖堂まで向かうことは可能です」


アランフォースの表情は、真剣だった。



「…い、いいえ」

リリアンヌは、小さく首を振った。



「ご迷惑は、かけられません。歩いて、屋敷へ帰ります」


歩いているうちに、きっと顔色も戻る。


早く帰って、部屋にさえ入ってしまえば――



「…殿下の望むことを、おっしゃってください」


静かな声が、そっと思考を遮った。



「先ほど、そう話したばかりでしょう」



「…で、でも」



「お好きに、やりたいことをおっしゃってください」

アランフォースは、覗き込むように顔を寄せた。



「そのために、私がいます」



「…アイラ様に、お礼を言いに行きたいです」

リリアンヌは、ゆっくりと答えた。



「お願い…できますか…?」



「もちろんです」



「…!」


アランフォースは、すぐにリリアンヌを片手で抱え上げた。



「…は」


様子を見にきた御者が、目を丸くしてふたりを見上げた。



「すまない、馬車は使わないことになった」



「は…はい、分かりました…」



「…ごめんなさい」


リリアンヌはアランフォースの肩から顔を出し、小さな声で謝った。



「いいえ、お気を付けて行ってらっしゃいませ」


御者に見送られながら、王城を後にした。



アランフォースは、正門の方に向かって黙々と歩き続けた。


二年ぶりに抱えられている。


前と…目線の高さが変わった気がする。


私が、大きくなったから。



じっと見ていると、ぱちりと間近に目が合った。



「…昨日は助けていただいて、ありがとうございました」


見入っていたことを誤魔化すように、口を開いた。



「…いいえ。助けたのは、キリ殿です」

アランフォースは、ふいと視線を正面に戻した。



「チャン文官から、護ってくださいました」



「護れていないでしょう」



「…あの、アランフォース副団長」



「なんでしょうか」



「怒って…いますか?」



「……」

アランフォースは、ゆっくりと顔をリリアンヌに向けた。



「…気のせいだったら、ごめんなさい」


声に、どこか棘を感じるからだろうか。


そう、聞こえているだけかもしれないけれど。



「でも…その、いつもと違う気がして」



「……」

アランフォースは何も答えず、再び顔を正面へ戻した。



「……」

リリアンヌは口を結び、そっと目を伏せた。



昨日は、あれだけ心配してくれたのに――


それなのに、王城にいたくないと言ったことを呆れているのだろうか。



あんな目に遭っても、懲りずにデューゼの森へ行こうとしている。


何を考えているんだと、怒っているのだろうか。



…そういえば。


スノウは昨日、どうしてアランフォースの肩にいたのだろう。



オーリアは、スノウは助けを呼びに行ったと言っていた。


本来は、父や兄のもとへ行かないだろうか。


もしくは、ここ最近、ずっと護衛してくれていたウェイバーやゲイソンのもとに。



確かにアランフォースは週に一度、大聖堂まで護衛してくれていたけれど。


今年の精霊祭は父と一緒にいたから、昨年のようにふたりで聖樹へ行くこともなかった。


一緒にいた時間は、他の人たちよりも少ない。



それでもスノウは、アランフォースへ助けを求めた。



アランフォースと一緒にスノウを見つけたことを、


スノウも覚えていたのだろうか――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ