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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第六章/動かす言葉
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刻銘の一声⑥

リリアンヌ視点



レックスは、じっとリリアンヌを見下ろしていた。



「……」


後ずさりそうになる足を、なんとか堪えた。



どうしよう。


元騎士という言葉は、聞こえてしまったのだろうか。


まさか、これからまた問いただされるなんてことが――



ふいに――手が伸びてきた。



「…!?」


くしゃりと、少し乱暴に頭を撫でられた。



「えっ…?」

リリアンヌは両手で頭を押さえ、ぽかんと見上げた。



「…さっきは言いすぎた」


レックスは、まだじっと見つめていた。



「あ…わ、私も言いすぎました…ごめんなさい」


怒りのままに、言い返してしまった。



こんなふうに声を荒げたのは、初めてだったかもしれない。


いや…討伐の時も、国王相手に言い返した。




「リリアンヌ。お前、ブライアンと結婚するか?」



「…へっ?」



「はぁ…?」


リリアンヌとブライアンが、同時に声を上げた。



「兄上、何を勝手なことを言っているんだ!?」

ロデオが、バンッとテーブルを叩いた。



「伯父上、冗談が過ぎます。ブライアンとリリィは、従兄妹同士です」

サイラスは、リリアンヌを隠すようにレックスとの間に割り込んだ。



「従兄妹なら問題ないだろ」

レックスは答えながら、ロデオを一瞥した。



「どうせ、お前のことだ。サイラスもリリアンヌも、何の縁談も進めていないんだろ」



「…っ」


ロデオが一瞬、言葉を詰まらせた。



「…兄上、リリアンヌはまだ十歳だ。そういう話は、せめて成人するまで待ってくれ」



「お前は、本当に悠長だな」



「何と言われようとも。それこそ、放っておいてくれ」


父の声は、ほとんど唸っているようだった。



「リリアンヌ。お前の周りは、鬱陶しい壁だらけだな」



「……」

リリアンヌは、そっとレックスから目を逸らした。



「…兄上」

ロデオが低く呼びかけた。



「…ちっ、分かった」


レックスは小さく舌打ちすると、リリアンヌたちの脇を通り過ぎた。



「今すぐにとは言わない。そういう目でブライアンを見てみろ」


片手を振りながら、エドガーと共に会議室を出ていった。



「…またな」


ブライアンはリリアンヌへ小さく手を振ると、レックスたちに続いた。


手を振り返したけれど、見ていたかは分からなかった。



「……」


そういう目も、何も。


ブライアンだって困惑している。



それにブライアンは、“物語”では違う人と結婚していた。



「…とんでもない空気だな」


壁際に立っていたルイージが、こほんと咳払いをした。



「…リリアンヌ殿下。私との授業は、ここまでです」



「!ルイージ宰相、大変お世話になりました」

リリアンヌは、はっとその場でお辞儀した。



「その…いろいろと、ありがとうございました」



「何か困ったことがありましたら、いつでも私のもとへいらしてください」



「…はい」


本当に、ルイージは優しい。



「それでは…また、どこかで」



「…!地下捜索に、ルイージ宰相はいらっしゃらないのですか?」


その言い方が寂しくて、思わず呼び止めてしまった。



「…恐らく行けないでしょう。ですが、大丈夫です」

扉の前で、ルイージが振り返った。



「きっと、すぐ会えます」



「本当に…ありがとうございました」


二年間も、ほぼ毎日一緒だったから――なんだか、実感が湧かない。



「…こちらこそ。とても楽しい時間でした」


ルイージは最後に小さく微笑むと、扉の向こう側へ去っていった。



「…リリィ。私はしばらく、エラドリオール邸に帰らない」



「お兄様。お傍にいてくださって、ありがとうございました」


リリアンヌは、今度は隣に立つ人物を見上げた。



「よく頑張ったな」


サイラスは優しく微笑むと、妹をぎゅっと抱きしめた。



「…お兄様、大好きです」


リリアンヌも、ぎゅっと抱きしめ返した。


兄と体を離すと、今度は父が目の前に屈んだ。



「私は、夜戻る。…あとで、ゆっくり話そう」



「はい、お父様。いろいろと、ありがとうございました」



「いいんだ。…また、あとでな」


ロデオは優しく娘の額にキスをすると、サイラスに続き、扉へ向かっていった。



「必ず、娘を屋敷まで送れよ」



「御意に」


扉の脇に立っていたアランフォースが、静かにロデオへ返した。



「…!」


そうだ。


これから、アランフォースと大聖堂へ向かうんだ。



会議室の中に、ふたりだけが残った。



「……」


言いたいことが、たくさんあるはずなのに。


言葉が出てこない。



「…行きましょう」


アランフォースは、扉を開けて待っていた。



「…はい」


リリアンヌは小さく頷くと、足早に扉をくぐった。



通り抜けたところで――足を止めて、振り返った。



「…あの、アランフォース副団長」



「なんでしょうか」



「大聖堂へは、馬車で向かうのでしょうか?」



「…?ええ、そうですが」



「…分かりました」


再び前を向き、廊下を進んでいった。



どことなくアランフォースが怒っているように感じるのは、気のせいだろうか。



余計なことは…


何も、言わない方がいいかもしれない。



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