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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第六章/動かす言葉
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刻銘の一声⑤

リリアンヌ視点



「私は…その言葉を、ずっと言ってやれなかった」

ロデオは、そっと娘の肩に手を伸ばした。



「…絶対にリリアンヌを護り切るな?」



「必ず護る。命に替えても」

キリは、きっぱりと答えた。



「……」


ロデオは小さく息を吐き――



「…分かった」


頷いた。



「…兄上」


今度は、まっすぐにレックスへ顔を向けた。



「私は、娘の望むことをやらせてやりたい」



「…!」


サイラスもリリアンヌも、はっと顔を上げた。



「今まで娘を護るために、ずっと娘自身に我慢をさせてきた。キリ殿の言う通り、意思を尊重させるべきだ。エルフが傍にいてくれるなら、これ以上の護衛はないだろう」



「…はっ」


レックスは腕を組んだまま、小さく鼻を鳴らした。



「エルフの説教は、効いたな」



「……」

リリアンヌはそっと目元を拭い、成り行きを見守った。



「…リリアンヌ」



「…はい」



「王城地下の捜索を、許可する」



「…!」



「ただし、俺も行く」

レックスが、すかさず付け足した。



「仮にデューゼの森へ行くことになったとしても、同じだ」



「兄上…!」



「伯父上!」


ロデオとサイラスが同時に声を上げた。



「待ってくれ、行くなら私だ。今度こそ、私が娘に付き添う!」



「いいえ。父上、私が行きます。王都から出ることが駄目だと言うのならば、従騎士を辞めます」



「冷静になれ、馬鹿ども」

レックスは、順に二人を睨みつけた。



「お前らはリリアンヌのために生きているのか?違うよな。王族としての仕事は何だ?」



「……」


二人同時に、ぐっと口を噤んだ。



「王族として、お前らが見本にならなくてどうする」



「…お前がよく言うよ」

ルイージが、苦々しげに何か呟いた。




「…おじうえ」


ぽとりと、言葉がこぼれた。



「なんだ」

レックスは、すぐにリリアンヌへ顔を向けた。



「!?あっ…い、いいえっ…お兄様が、そう呼んでいたので…」


驚いて、つい呟いてしまった。


まさか、返事をされてしまうとは。



「お前もそう呼べばいい」



「……」


呼べるわけがない。



「リリアンヌ。お前はもう、王城に来なくていい」



「え…?」



「違うな…お前が来たい時に来ればいい」

レックスが言い直した。



「大聖堂にはまだ通うか?」



「…通わなくていいのですか?」



「俺からスワハマに断っておく。…あいつは謹慎中か。ルイージ、オドバに伝えておけ」



「了解」



「……」


協力の話も、なくなったのだろうか。


事態が急変しすぎて、ついていけない。



「王城地下の捜索までは、時間をくれないか」

レックスは構わず言葉を続けた。



「…どのくらいでしょうか?」


もうあまり、時間はない。



「そうだな…一か月。それまでに準備を進める」



「分かりました」

リリアンヌは素直に頷いた。



「他に、何か希望はあるか」



「え…」



「ついでだ。頼みごとがあれば全部言っておけ」



「…あの、最後に大聖堂へ行きたいです」


それならば――



「お世話になった方たちへ、ご挨拶したいです」



「分かった。この後アランフォースを貸すから、行ってこい」

レックスはあっさりと頷いた。



「…はい、ありがとうございます」


また…随分と急な話だ。



「地下捜索の日が決まったら知らせる」



「はい」

リリアンヌは姿勢を正し、座ったまま深く頭を下げた。



「陛下…このたびはご決断いただき、ありがとうございました」


国王自身が、捜索に協力してくれるのならば。


それほど心強いことはない。



「違うだろ」



「へっ…」

リリアンヌは顔を上げ、きょとんと目を瞬いた。


何が、違うのだろう。



「陛下、じゃないだろ」



「……」


まさか。



「…ありがとうございます、伯父上」



「それでいい」


そう言うと、ふいと目を逸らした。



「……」


先ほどあんな言い争ったのが、嘘のようだ。



「おい、エルフ」

レックスはそのまま、キリに目を向けた。



「お前、住むところはどうしている」



「町に宿を借りている」



「それは不便だろ。ロデオ、お前のところに住まわせろ」



「それは、もちろんだ」

ロデオは即答した。



「キリ殿、それでいいか」



「どこでもいい」

キリも即答した。



「決まりだな。話は終わりだ」

レックスが、がたりと腰を上げた。


それに倣い、ルイージとブライアンも立ち上がった。



ブライアンがなぜ来ていたのかは、最後まで分からずじまいだった。



「キリ殿」


ルイージは、まっすぐにキリのもとまで進んだ。



「これから町へ向かいますか?」



「荷物を取ってくる」

キリが短く答えた。



「では各門番に、あなたが通ることを伝えておきます。…お願いですから、必ず門を通って入ってきてください」



「……」


今度は、返事をしなかった。



「……」


もしかして――キリは、私の使った抜け道から来たのではなかろうか。


あの道のことだけは、言わないで…



リリアンヌは急いで立ち上がると、たたっ…とキリに近づいた。



「…キリ様、あの」



「キリでいい」



「…キリ。その…本当にありがとうございます。とても助かります」



「これで何があっても、君がひとりでデューゼの森へ行くことはない」



「…はい。心強いです」


やっぱり、ギタンとの会話は聞かれていたようだ。



「あの元騎士と――」



「!?わぁぁっ…!」

リリアンヌは間髪入れず、キリの言葉を大声で遮った。



全員の目がこちらに向けられた。



「…あ、あの、またあとで。…また屋敷で、話しましょう」



「…分かった」

キリは小さく頷くと、まっすぐに扉へ向かっていった。



「……」


結局、墓穴を掘ってしまった。



どうしよう。


父に、何か勘づかれてしまっただろうか。



リリアンヌは、恐る恐る振り返った。



「…!」


喉が、ひゅっと鳴った。



真後ろに、レックスが立っていた。



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