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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第六章/動かす言葉
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刻銘の一声③

リリアンヌ視点



「その話を、お前は精霊王から聞いたというのか」

レックスは、小さくリリアンヌを睨みつけた。



「…そうです」


そういうことにした方が――話が早い。



「…それで。どうすれば封印は解かれない」



「…オーリア様のちからを強めることができれば、解かれないそうです」


信じて…くれているのだろうか。



「そのためには、精霊のちからが必要とのことでした。…精霊は、スノウ以外にもまだ存在するそうです」


ここからが、本題だ。



とにかく、慎重に――


余計なことを、言いすぎないように。



「私は、精霊王に協力したい。オーリア様のちからを強めるために、デューゼの森へ精霊をお返ししに行きたいのです」



「…肩の精霊の話をしているのか?」



「いいえ、違います」

リリアンヌはレックスを見つめたまま、ゆっくりと首を振った。



「オーリア様によれば――この王城の地下に、精霊がいるとのことです」



「…!」

レックスの眉が、ぴくりと動いた。



「王城に地下…?」

ブライアンが不思議そうに首を捻った。



「……」


王太子すらも知らない。


これも、また…禁忌の話だったのだろうか。



「…地下の存在も、精霊王から聞いたと言うのか」



「はい、そうです…」

リリアンヌは、慎重にレックスへ答えた。


本当に、自分だって地下のことを知らなかった。



「……」

レックスは黙り込み、テーブルを指で叩いた。



「…確かに、王城には地下が存在する」


しばらく間を置いて、再び口を開いた。



「何代も前に封印してから、ずっと使われていない」



「ふ、封印…?」


思わず、声が裏返った。


まさか、ここでも封印という言葉が出てくるとは。



「そう、封印だ。…何があるのかも分からねぇ」



「だから、精霊がいるのだろう」

すぐさまキリが返した。



「…仮にいるとして。それで、どうする」

レックスは、リリアンヌへ視線を向けた。



「ですから…デューゼの森へお返しに行きます。瘴気の封印が、解けないようにするために」



「……」


とん、とん、とテーブルを叩く音だけが響いた。



「…お前は、精霊に関する時だけ随分とはっきり話すな」



「…っ」

リリアンヌは、ぎくりと肩を揺らした。



「お前が、意味もなくこんなことを言うとも思えない」


睨む国王の目は、いつも通り鋭い。


だけど、声は静かなままだ。



「それに…エルフは」



「エルフは、嘘をつかない」


国王の言葉を、キリが継いだ。



「…突然エルフが現れたということは――事実なんだろうな」


レックスはテーブルを叩く手を止めると、腕を組んで椅子に深く座り込んだ。



「……」

リリアンヌは固唾を呑んで、じっと次の言葉を待った。



ふいに、国王のわずかな溜息が漏れた。



「…王城の地下を、捜索する」



「!」



「だが、お前は捜索に連れて行かない」


レックスの目が、すぐにリリアンヌへ向けられた。



「えっ…!?」



「仮に、精霊を見つけてもだ。お前を、デューゼの森には行かせない」



「あっ、おい、リリィ――」



「どうしてですか…!」


リリアンヌはロデオの手を振り解き、勢いよく立ち上がった。



「お前は昨日、狙われた。もう忘れたのか?」



「…陛下が、裁いてくださいました」



「だとしてもだ。火中に自ら飛び込むような真似はするな」



「何が危険なのですか…?」



「言っただろ。地下には何があるか分からない。デューゼの森は、行くだけで一か月もかかる」



「それは、分かっています。でも」



「余計なことをしようとするな。お前は、しばらく城で過ごせ」

レックスはにべにもなく言った。




「…私を…見張るのですか」


震える声が、静かに落ちた。



「違う。護る、だ」

レックスは、まっすぐにリリアンヌを見据えた。



しばらく、静かに睨み合った。


二人以外、口を開く者は誰もいなかった。



「…嫌です」


やがて、リリアンヌが先に口を開いた。



「今年中に精霊を見つけて、私が、デューゼの森に行きます」



「お前が動くことが、迷惑だと言っている。何人の護衛をつけることになるか、分かっているのか」



「…っ」


握った拳が、ぎりっと音を立てた。



この――分からず屋。



「…迷惑なら、護衛なんていりません」



「あ?」



「…少し落ち着け」

ロデオが横から、そっと手を伸ばした。



「護衛なんて、いりません。ひとりでもデューゼの森に行きます」

リリアンヌはレックスに目を向けたまま、きっぱりと言い切った。



「…お前は、何を言っている?」



「私は、自分で精霊を探して、オーリア様に会いに行きます」


もう、いい。


地下に行く方法だって、自分で探してみせる。



「だからもう、私を放っておいてください…!」


もう、いい。


結局、反対される。



結局――自分の言葉は、届かない。



「勘違いするなよ。お前の命は、お前だけのものじゃねぇ」



「…どうしてですか?」


どうして。


自分の命が、誰のものだと言うのか。



「私は…加護を授かっただけの、ただの子供でしょう…?」



「ただ…?おい、ふざけんな」

レックスは、わずかに語気を荒げた。



「お前は、加護持ち以前に王族だ。命の価値が違う」



「命の価値は…っ!誰だって同じです!」


被せるように、リリアンヌは鋭い声を上げた。



その声が反響し――しんと、静まった。



「…護られることが、そんなに気に食わないのか」



「違う…っ!」


どうして、分からないのだろう。



「もう…私のせいで誰かが死ぬのは、嫌なんです…!」


堪えていた涙が、ぽたりと落ちた。



御者が。


守衛隊たちが。


自分のせいで、死んだ。



どこも見ていない御者の目が、頭にこびりついて、離れない。



きっと、ずっと忘れられない。


二度と、忘れてはいけない。



誰かを巻き込むのは、もう嫌だ。


そうなるくらいなら、ひとりでいた方がずっといい。



「リリィ…!」

ロデオは娘を引き寄せ、強く抱きしめた。



「お前のせいではない…!お前は、何も悪くない!」



「私が…っ巻き込みました」


ぽたぽたと、父の肩に涙が落ちた。



「…リリィ。悪いのは、犯人どもだ。そこを間違えるな」

サイラスは、そっとリリアンヌの背をさすった。



「…ごめんなさい。お父様、お兄様」


深く息を吸い、涙を押しとどめた。



まだ、話は途中だ。


泣いている場合ではない。



ぐいっと目元を拭い、再び顔を上げた。



「…だから、城でじっとしていろと言っている」

レックスは静かに言った。



「…嫌です」


自分の方が、理屈に合わないことを言っているのは分かっている。



国王の言う通り――王族は、護られるべき存在だ。


自分の価値を知れと、散々、言い聞かされてきた。



それでも。


精霊探しも、デューゼの森へ行くのも、人にお願いして。


自分だけがここに閉じこもっているなんて、あり得ない。



それで何かあったら、


それこそ――絶対に、自分を許せない。



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