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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第六章/動かす言葉
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刻銘の一声②

リリアンヌ視点



「説明は以上となりますが…」

ルイージは、ちらりと端に座るキリに目を向けた。



「エルフ殿。いい加減、口を開く気になったでしょうか」



「……」


キリは正面を見たまま、黙り込んでいた。



「あ…え…?」



「エルフ殿からも話を聞きたかったのですが、あなたが来てからだとおっしゃるものでして」


目を瞬かせるリリアンヌに、ルイージがさっと言い添えた。



「リリアンヌ殿下。他に質問がなければ、彼から話を聞きたいのですがいかがでしょう」



「…ええと」

リリアンヌは父に肩を支えられたまま、ゆっくりとキリの方へ顔を向けた。



「…改めてご挨拶させていただきます。私は、リリアンヌ・エラドリオールと申します。昨夜は助けていただき、本当にありがとうございました」



「私は、風の里エルフ族のキリだ」

キリがすぐに口を開いた。



「精霊の加護を授かった者を手助けするため、里から出てきた」



「…手助け?」


何の手助けだろうか。



「我々風の里エルフは、長年、精霊王オーリアに協力して精霊を探してきた。

君も探していると思い、ここに来た」



「…あ?」



「精霊王だと?」



「何の話だ?」


キリの言葉に、それぞれが小さく声を上げた。



「そうだったのですね」



「…待て、話が見えねぇ。飛びすぎだろ」


頷くリリアンヌに、即座にレックスが口を挟んだ。



「あ…」


それは、そうだ。


まだ、夢の中で精霊王と会った話をしていない。



風の里エルフ族――


オーリアが話していた、精霊を見つけることのできる一族。


“物語”で、その過去について語られている。



かつてエルフは、精霊王や精霊たちと共にデューゼの森で暮らしていた。


けれど精霊狩りが行われたことで、精霊は消えていき、多くのエルフも命を落としてしまった。



四百年前、とうとう森から精霊がいなくなってしまった時に、精霊王とエルフは違う道を歩むことを決めた。


精霊王は、瘴気を封じるためにデューゼの森に残り、


エルフは、精霊王から授かった“見つけるちから”と“風のちから”を使い、まだ残る精霊を探すことにした。



だけど、エルフは精霊を見つけることができなかった。



いつしかエルフは精霊を探すことをやめ、風の里へこもるようになってしまった。


そして物語でキリは、“デューゼの森の悪夢”が起こったのは、自分たちが精霊を探すことをやめてしまったせいだと思い込み、


残ったエルフと共に精霊を探しながら、やがて王都へやって来る。


そこで、大怪我を負った十八歳の“リリアンヌ”と出会うのだけれど――



何が、目の前の彼の運命を変えたのだろうか。



「…キリ殿。順番にお話いただけますか」


黙り込んだリリアンヌに代わり、ルイージが口を開いた。



「あなたは昨夜、なぜあの廃墟にリリアンヌ殿下がいらっしゃると分かったのでしょうか」



「私のちからで見つけた。ここ数日、彼女を見ていた」



「えっ」

リリアンヌは、小さく声を上げた。


まったく気付かなかった。



「…数日?」


数日ということは――


屋敷を抜け出したのも、まさか見られていたのだろうか。



「リリアンヌ殿下は、常に王城か第二城壁内にいらっしゃいます」

ルイージは気にせず、さらにキリへ尋ねた。



「城下町から第二城壁へ入るには、門番のいるいずれかの門を通らなくてはいけなかったはずですが…どうやって入ったのでしょうか」



「エルフに城壁は意味がない。ちからを使い、越えた」

キリは、平然と答えた。



「……」


場が、しんと静まり返った。



さらりと、とんでもないことを言ってしまった。


不法侵入どころの話ではない。


国防に関わる、大問題だ。


…人のことは、一切、言えないけれど。



「聞き捨てならない話ですが…一度、置いておきましょう」

ルイージは小さく息を吐くと、鋭い目をキリに向けた。



「それでは、あなたはリリアンヌ殿下が襲われているところを見たうえで、廃墟まで追いかけて行ったということでしょうか」


いつもより、ずっと強い口調だった。



「…違う。昨日は町にいた」


キリが、初めて言葉を詰まらせた。



「彼女を見つけた時、すでに廃墟にいた。縛られて捕まっていたように見えたから、周りの者を粛清した」



「…そうですか。昨夜の経緯は分かりました。それで、リリアンヌ殿下を観察していた理由は何でしょうか」



「精霊の加護を授かった者がどういう人物なのか、見定めていた」



「見定めたことで、助けると決めたのでしょうか」



「護ると、約束したからだ」



「…?」


ルイージの眉が、訝しげに寄った。



「……」

リリアンヌは、そわりと二人を見比べた。



――まずい。


このまま質問が続けば、いつかは私が屋敷を抜け出した話になってしまうかもしれない。


ギタンとの話を聞かれていたら、もっとまずい。



「あ、あの、キリ…様。先ほどの、精霊を探すという話ですが」


おずおずと、口を開いた。



「おっしゃる通り、私も精霊を探しています」



「おい、それは初耳だ」


すぐに、中央の席から鋭い声が飛んだ。



「…初めて言いました。昨日、決めたことです」

リリアンヌは表情を引き締め、まっすぐにレックスへ顔を向けた。



「陛下。昨日捕まっていた時に、私は、夢の中で精霊王オーリアとお会いしました」



「…あ?」

レックスが、露骨に眉をしかめた。



「リリィ…精霊王が夢に出てきたって…?それならそれは、夢の話だろう?」

ロデオが肩を揺すり、優しく囁いた。



「……」


違う。


そうじゃない。


どう言えば、信じてもらえるだろうか。



「精霊王は、精霊と加護を持つ者のもとへ会いに来ることができる」



「!その通りです。まだちからが弱くて、夢の中でしたが」


キリの言葉に、リリアンヌは急いで同意した。



「…夢の話じゃねぇのか?」


国王は、ずっと眉をひそめている。



ルイージもブライアンも、似たような表情だ。


自分を挟む父も兄も、きっと同じような顔をしていることだろう。



「…夢ではなくて、本当の話です。ここにスノウがいるように、精霊王もこの世に存在します」

リリアンヌは、ゆっくりと言葉を続けた。



「オーリア様は現在、デューゼの森で瘴気を封印しています」



「…封印?」

レックスが、ぴくりと反応した。



「…はい。オーリア様が封印しているから、森から瘴気が出ることはありません」


ついこの間――国王と、デューゼの森について話したばかりだ。



「…お前はずっと、あの森について調べていた」



「でっ、ですから…私が調べていたのは、精霊に関することすべてです」


今は、探り合いはいらない。



「……」

レックスはじっとリリアンヌを見つめたまま、口を閉じた。



「…オーリア様は、ちからが弱まって封印が解けかけているとお話してくださいました」


こんな話――自分とキリ以外には、とても現実的ではないだろう。


精霊すらも、つい二年前に見つかったばかりだ。



それでも…とにかく、伝えるしかない。



「このままでは、瘴気の封印が解けてしまう可能性があります。

もし瘴気が溢れ出たら、そこから異形の存在(ゼノプーパ)が――」



「おい…!」

レックスが、素早くテーブルを叩いた。



「…!」

リリアンヌは小さく体を震わせ、言葉を止めた。



「兄上…!何だと言うんだ!」

ロデオが、すかさず割って入った。



「……」


しまった。


今のは、私が悪い。



瘴気のあるところから、異形の存在が生まれる。


これは、国王しか知らない話のはずだ。



「そんな当たり前の話を、人族は知らないのか?」



「…あ」


違う。


エルフ族は皆、知っている。



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