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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第六章/動かす言葉
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刻銘の一声①

リリアンヌ視点



「あの…お兄様」


リリアンヌは、手を引くサイラスをそっと見上げた。



「なんだ?」



「玉座の間へ行くのではないのですか?」


兄は、玉座の間とは反対方向に廊下を進んでいっている。



「…玉座の間は、使えない」

サイラスは、前を見たまま静かに答えた。



「玉座の間が、使えない?」


国王と話すのに、どうして使えないのだろう。



「これから向かうのは、会議室だ。まあ…皆で座って話すためだ」



「…はい」


よく分からないけれど…


きっと、これ以上聞いても理由は教えてくれない。



それより。


まだ、どう話すか決めていない。



何もまとまっていないまま――会議室に着いてしまった。



「失礼します」


サイラスはノックをすると、すぐに会議室の扉を開けた。



一番奥には、もう国王が座っていた。


その後ろには、いつものようにエドガーとアランフォースが並んで立っている。



国王の左右には、父とルイージが向かい合って腰掛けている。


ルイージの隣には、なぜかブライアンもいる。



さらに父から何席も離れて、キリが座っていた。



「リリィ…!体調は大丈夫か?」

ロデオが素早く立ち上がった。



「はい。もう、十分元気です」



「元気ではないだろう…ここへおいで」



「はい」



「リリィ、慌てなくていい。ほら…座れ」



「…はい」


父と兄に手を借り、二人の間に腰掛けた。



全員から見られている気がする。


気まずさで、顔が上げられない。



「…リリアンヌ。まず、お前に謝らなくてはいけない」



「えっ?」


はっと、中央の席へ顔を向けた。



「守衛隊は…いや、兵も文官も、すべて俺の管轄だ」


レックスが、真剣な表情を向けていた。



「怖い思いをさせて、すまなかった」



「…!?」


国王が――謝罪している。



「なぜ攫われたのか、お前は聞く権利がある。…聞くか?」



「できれば、全部聞きたいです…」

リリアンヌは、戸惑いながら頷いた。


てっきりまた、いろいろ尋ねられると思ったのに。



「…説明は、私から」

そっと、ルイージが口を開いた。



「まず…今回の首謀者は、聖務部に所属する二等中央官チャン・ムムシカです。…チャンはご存じですね?」



「…はい」



「…つらければ、途中で話を止めてくださっても結構です」

ルイージはモノクルを押し上げると、静かに言葉を続けた。



「チャンは、あなたを攫うために今回の騒動を起こしました」



「……」


それは…見張りの男たちも言っていたことだ。



「二年前――リリアンヌ殿下が精霊を見つけた時に、チャンは、あなたが苦しんでいると思い込んだ。そしてあなたを助けるため…苦しみから解放するために攫おうとしたと自白しました」



「…っ」

リリアンヌは、ぎゅっと眉を寄せた。


どうして、そんな考えに至ったのだろう。



「関わった者は、全員で二十名。一年前に、スワハマ大教主の推薦で守衛隊へ入隊した者たちです。その正体は、山賊の一団でした」



「…!?スワハマ大教主も関わっているのですか?」



「…いいえ。彼は、今回巻き込まれただけです」

ルイージが間を置いて首を振った。



「チャンに騙され、推薦状を書いた。それにより山賊たちは、本来行われるべき素性調査を免れていました」



「…?」


スワハマが部下に騙された…?


そんなこと、あり得るのだろうか。



「納得いかないでしょうが…スワハマ大教主が嘘をついていないことは、間違いありません」



「…はい」


ルイージが前に、何でも自白させることができるちからを持つ者がいるという話をしていた。


例に出したくらいなのだから、きっと実在するのだろう。


そういうちからを持つ人に確認したのかもしれない。



「ですが、スワハマ大教主は無闇に推薦状を書いたことにより、半年間の謹慎処分となりました」



「……」


その罰が重いのか軽いのか、分からない。



「守衛隊に潜り込んでいた山賊たちはまず、エラドリオール邸付近の巡回担当だった兵たちを殺害しました」



「…えっ!?」

リリアンヌは、ぎくりと肩を揺らした。



「…そうしてロデオ総長を引きつけ、あなたから離した。さらに、第二城壁内から逃走したと見せかけるために、北門で勤務していた兵たちも手に掛けました」



「…そんな」


御者だけじゃ、なかった。


自分ひとりを攫うためだけに、何人もの人が殺されてしまった。



体が、微かに震えた。



「…もう、やめよう」

ロデオは娘の肩を抱き寄せ、優しくさすった。



「い、いいえ…」

リリアンヌは、そっと顔を上げた。



「ほ、他に、巻き込まれた方は…」



「…あなたが乗っていた馬車の、御者です」

ルイージが、静かに答えた。



「…っ」


小さく、呻く声が漏れた。



一体…


私は、どれだけの人を巻き込めば済むのだろう。



それなのに…自分自身は、たくさんの人に助けてもらって。



「…話を続けますか?」



「……」

リリアンヌは、無言で頷いた。



「リリアンヌ殿下が連れて行かれた場所は、第二城壁内の廃墟でした。

何年も使われず、守衛隊の巡回路からも外れていることにチャンは目を付けたようです」

再び、ルイージが説明を続けた。



「実行犯の守衛隊兵――山賊団の二十名は全員、その廃墟で死亡が確認されています」

その視線が、一瞬だけサイラスに移った。



「…?」


全員を強調した気がしたけれど、どうしてだろう。



「…そして、チャンのことですが」

ルイージは、すぐにまたリリアンヌに目を向けた。



「彼は、死罪となりました。今朝方、刑に処されました」



「…!」


ひゅっと、喉が鳴った。



もう、処刑された…


あまりにも、早い。



誰も、何も言わない。


それなら、これが普通なのだろうか。



「彼は、天涯孤独の独り身です。血族関係者が誰もいないため、他に処罰対象者はいません」



「……」


もし親族が生きていたら、


彼らも処罰されたのだろうか。



もう――チャンは、この世にいない。


たくさんの人を巻き込んだ、あの文官は――



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