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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第五章/見えない繋がり
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姿を現した者たち④

リリアンヌ視点



目を覚ますと同時に――足に激痛が走った。



「っ…つぅ…」


まだ、治しては駄目だ。


状況が、何も分からない。



「…っ!」


駄目だ、痛すぎる。


せめて、痛みだけでも――



白のちからを使うと、すっと楽になった。



「……」

リリアンヌは、ゆっくりと顔を上げた。



目隠しがずれている。


頭を軽く振ると、はらりと外れた。



暗い部屋の中だ。


扉の下から漏れ出る灯りのおかげで、かろうじて室内の様子が見えた。



部屋の中には、何もない。


窓もない。


埃っぽい敷き物の上に寝かされていたようだ。



手は縛られているけれど、足は自由だ。


猿ぐつわを噛まされ、口を開けない。



部屋の中には――今、誰もいない。



「……」


そっと上体を起こした。



服は、着ている。


靴は脱がされ、右足には包帯が巻かれている。


包帯は、血で染まっていた。



リリアンヌは敷き物の上でもぞりと動くと、両膝をついたまま扉の方へにじり寄った。



「――本当に、ここは安全なんだろうな」


扉の向こう側から、こもった声が聞こえた。



「さっさと町を出ちまえば良かったんだ。親分は、何を考えてんだ」



「馬鹿だな。もう、とっくに閉鎖されてるっての」


また、別の男の声が聞こえた。



「今頃、騎士どもは血眼になって町を探してんだろうな…ふへへっ…」



「笑いごとじゃねぇよ。こんな城から近い場所、すぐ見つかるって」



「だから、それも親分は考えてんだよ。俺らが入隊してから一年間、一度もここは見つかんなかったんだぞ」



「それで、ほとぼりが冷めるまでここで生活しろってか?いくら酒があっても、やってらんねぇぜ」



「そうか?糞みたいな兵の生活よりは、遥かにましだろ」



「まあ、それはそうだな。はぁ…早く金貰って、遊び行きてぇよ」



「とんでもねぇ大金が貰えるらしいからな。なんせ、俺ら二十人が一生遊んで暮らせる金だ」



「はっ…貴族様の金の使い方は、よく分かんねぇな」



「……」

リリアンヌは、そっと眉を寄せた。



やっぱり、自分を襲ったのはあの兵たちだ。


貴族に雇われて、二十人が守衛隊に一年間も潜伏していた…?



一体、何のために?



「…よく加護持ちを拉致できたよな」


見張りが、ぽつりと呟いた。



「親分の“止めるちから”がなければ、俺たちの努力が無駄になるところだったぜ」



「姫さんがぴょんぴょん跳ねてたのも、加護のちからなのか?」



「さあ…知らねぇけど、精霊にやられた傷がまだ痛ぇよ」



「あ~あ、爛れちまってんじゃねぇか。あの男、俺らにも薬くれねぇかな」



「いや、無理だろ。あの気持ち悪い男は、姫さんのことしか見えてねぇよ」



「姫さんも、可哀想にな。綺麗な顔立ちしているからって、狙われてさ」



「…!」


狙われたのは、私だ。



気持ち悪い男――


すぐに、ひとりの文官が頭に浮かんだ。



「…おい、噂をしたら、変態が戻ってきたぜ」



「ちっ…見張り、もういらねぇだろ」


見張りの男たちが、素早く言葉を交わした。



「お前ら、どけ」


扉のすぐ向こうから、聞き覚えのある声がした。



「!」


まずい――



リリアンヌは這うように体を引きずり、再び敷き物の上に寝転がった。



ゆっくりと、扉が開けられた。



「まだ…眠っていらっしゃいますね」


ぎし…ぎし…と、音を立てながら近づいてくる。



「お可哀想に…それほど、痛みも深かったのでしょう」


目の前で、ぴたりと軋む音が止まった。



「き、綺麗な寝顔だ…」


はぁ、はぁ、と荒い息遣いが、耳元に届いた。



「……」


目を閉じていても、誰か分かる。



――チャンだ。



ここ最近、まったく姿を見なかったのに。


どうして、彼が。



霊拝師(オランス)の止血薬をお持ちしました。これで、しっかり止血できますよ」


不意に、右足が持ち上げられた。


勢いで、ドレスが膝までめくれた。



「ああ、可哀想にぃ…僕は、あなたを傷つける気などなかったんですよ。あの馬鹿どもが…傷跡が残ったら、どうするつもりだ」


しゅる、しゅる…と、包帯が解かれていく。



「…ああ、綺麗な御足だぁ…」

チャンは、リリアンヌのふくらはぎをなぞるように触れた。



「…!」


一気に、全身に鳥肌が立った。



「…傷を残したままの方が、殿下はどこにも逃げないか」


はたと、チャンの手が止まった。



「そうだ。それがいい。僕が、殿下を護ってあげればいいのだから」



「…気持ちわりぃ奴」


「…おっぱじめる気じゃねぇよな。勘弁してくれ」


わずかに開いている扉から、見張りたちの声が聞こえた。



「そうだ、そうだ…もう僕のものなのだから、殿下なんて他人行儀な呼び方はいけないなぁ」


チャンは、周囲をまったく気にしていなかった。



「り、リリアンヌ…あ、あははぁ…」


手が伸び、そっとリリアンヌの頬に触れた。



「リリアンヌ。僕が、君の救世主になってあげるからねぇ」


荒い息遣いが――唇に触れるほど近づいた。



――本当に、まずい。



このままでは、駄目だ。


逃げなければ。



一瞬で足を治して、それから――



「おいっ…何か叫び声がしたぞ!」


見張りが、鋭い声を上げた。



遠くの方で、ガシャーン、ガタンと派手な音が聞こえる。


その合間に、怒号も混ざっていた。



何かが、起きている。



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