姿を現した者たち③
アランフォース視点
「わ、我々は、何も知りません…!」
男は肩を震わせ、怯えた目をこちらに向けた。
「知っていることを、すべて言え」
「ひぃっ…」
「早く、言え」
ロデオは縮こまる男の胸倉を掴み、鋭い目で迫った。
「本当に、何も知りません!ご主人様は今朝から出掛けて、一度も帰ってきておりません!」
「お許しください…!」
「我々は、ただの使用人です!」
「本当に、何も知らないのです…!」
広間に集められた使用人たちが、次々と声を上げた。
「…くそっ!」
「うぁっ…」
ロデオは、乱暴に使用人から手を放した。
「…彼らは、本当に知らないのでしょう。これ以上は時間の無駄です」
「っ…それなら、どうしろと言うんだ!」
ロデオは勢いのままに、今度はアランフォースの胸倉を掴んだ。
「リリィがいなくなってから、どれだけ時間が経ったと思っている!」
その体は、ぴくりとも動かなかった。
「…お前たちの主人は、離れや別荘を所有しているか」
アランフォースは胸倉を掴まれたまま、使用人たちへ目を向けた。
「別荘なら、川の都スーゼルにあります!」
使用人がすぐさま答えた。
「……」
王都でないなら、関係ない。
門は、封鎖している。
「ロデオ総長、アランフォース副団長。屋敷内すべての捜索が終わりました」
広間の奥から、部下が戻ってきた。
「どこにも、チャンの姿はありません」
「くそぉぉっ…!」
ロデオが、苛立ちのままに足を振り抜いた。
脇の棚が吹き飛び、ガシャーンッと壁に叩きつけられた。
「きゃああっ…」
「ひいっ…」
固まる使用人たちが、さらに縮こまった。
「……」
アランフォースは乱れた胸元を整えると、静かに屋敷の入り口へ向かった。
――考えろ。
首謀者は、文官チャン・ムムシカと判明した。
両親は死に、親族もいない天涯孤独の男だ。
チャンの生家は、町の北側にあった。
だが、そこにもチャンとリリアンヌの姿はなかった。
少なくとも、守衛隊兵四名が関与していることは分かっている。
北門の門番が殺されていたことも含めると、もっと多い人数が関わっていたはずだ。
かなり計画的だ。
それなら、こんな分かりやすい場所にいるわけがない。
…あの男が、首謀者。
常に、彼女を舐め回すように見ていた男が――
アランフォースの目が、すっと細くなった。
「……」
そっと頭を振り払い、屋敷の外へと進んでいった。
レックスからの続報は、まだない。
もう、陽も暮れてしまった。
――どこだ。
第二城壁の大正門も南門も、今日は一度も開いていない。
北門で死体が出たなら、そこから町の方へ逃走したと思ったが…
気になる点もある。
北門から出たところにあるこの通りには、衛兵を雇っている屋敷も多い。
その者たちが、誰も北門から出てきた守衛隊を目撃していない。
まさか、まだ第二城壁内にいるのか。
ふいに――見上げていた空に、小さな光が現れた。
「…!」
アランフォースは、素早く踏み出した。
光が、ふらふら揺れながら近づいてくる。
手を伸ばすと、くったりとその上に着地した。
「…スノウ」
彼女がよく呼んでいる名が、自然と口を衝いて出た。
「ホ~…」
スノウが、力なく鳴いた。
「…リリアンヌ殿下は、どこだ」
「……」
「知っているなら、今すぐ教えてくれないか」
「……」
「知らせるために、お前はここまで飛んできたのだろう?」
「……」
今にも目を閉じてしまいそうだ。
まさか、このまま消えてしまうのか。
「頼む。彼女を、助けたい」
アランフォースは、まっすぐに言葉を続けた。
「スノウ…!ちからを貸してくれないか」
「…ホ~!」
スノウが、ぱちりと目を開けた。
その瞬間――
アランフォースとスノウが、同時に白い光で包まれた。
「!」
これは――
「おい、何ごとだ…!?」
屋敷の中から、ロデオが飛び出した。
「!?その鳥は…!」
「ホ~」
スノウは小さく羽ばたき、アランフォースの肩に移った。
再び、ふわりと光が広がった。
「…!」
目の前とは違う景色が、ふいに頭の中に流れ込んだ。
廃墟のような館だ。
暗く、朽ちている。
景色が動き、館の中へ移った。
一階、二階、三階…
三階の廊下の奥にある扉の前で、二人の男が退屈そうに座っている。
景色は扉を通り抜け、暗い部屋の中を映し出した。
部屋の隅で、少女が体を小さく丸めて眠っている。
両手を縛られ、猿ぐつわまで巻かれている。
その少女の傍らには――下卑た笑みを浮かべる男が立っていた。
アランフォースの体から、一気に殺気が噴き出した。
「おい、アランフォース…!一体、なんなんだ」
『――こちら、国王直属騎士団リョーマ。ロデオ総長、アランフォース副団長に声を繋げています。いつものように、そちらの声は届きません』
答えるより先に、耳元に声が入ってきた。
「!リョーマか」
ロデオは、はっと耳に手を掛けた。
『捕らえた守衛隊兵により、チャン文官の行方が判明。場所は、第二城壁内一塔付近の森の中』
「…あ?その辺りは、エラドリオールの土地だぞ」
『旧公爵邸の廃墟を利用した模様。至急、そちらへ向かってください』
「くそっ…馬鹿にしやがって!」
ロデオの体が、怒りでめらめらと燃えた。
「アランフォース!今すぐにっ――」
言葉は、すぐに途切れた。
アランフォースは、とっくにいなくなっていた。




