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第一章Ⅱ(見えてきた現実と大きな勘違い)⑤

リリアンヌ視点



ギタンは薬療院の裏口から、もうひとつの建物へ進んでいった。



孤児院の一階は、大きな広間になっていた。

中央に大きな丸テーブルがあり、優に十人の子供が座れそうだ。


壁際の棚には、人形や絵本が置いてある。

どれも、種類ごとにきちんと整頓されていた。


子供の姿は、ひとりもなかった。



「――れ、サム…!」


「兄ちゃぁん…!」


ギタンの進む階段の先から、悲痛な声が聞こえてきた。



「……」

リリアンヌは固く口を結び、ゆっくりと階段を上がった。



サムと呼ばれる子は、一体、どれほど重症なのだろう。



風邪…ではないのだろう。


この世界の病気が、何も分からない。

エラドリオール邸では、誰かが体調を崩すなんてことがなかったから。


重い病が、町で流行っているのだろうか…



「リリィ」

二階に着いたところで、ギタンはリリアンヌの前に屈んだ。



「念のため、これを口に巻いておけ」




「…はい」


ギタンが渡したのは、長い布だった。



「…これから見るものは、お前にはきついかもしれない」

ギタンは、布を口に巻くリリアンヌを見つめながら静かに言った。


「いいか、これだけは言っておく」



「…なあに?」

リリアンヌは、不安そうにギタンを見つめ返した。




「助けられなくても、お前のせいじゃない」



「…!」



「…それだけは、絶対に間違えるな」

ギタンは立ち上がると、声が飛び交う部屋の扉を開けた。




「サム、サム…!」


「つらいんだな…!ここにいるからな!」


扉を開けた瞬間、先ほどの少年とは違う声が耳を打った。



部屋の中には、六つの二段ベッドが、左右の壁際に分かれて置かれている。


一番奥の二段ベッドの下で、

シルヴィアやメルたちが、こちらに背を向けて屈んでいた。




「…っ、ぐぁっ…!」


苦しそうな声が部屋に響いた。



「…!」

リリアンヌは、びくりと足を止めた。



「サムの様子は」

ギタンは、まっすぐにシルヴィアの横まで移動した。



「…この通りよ」


ふと見えたシルヴィアの横顔には、汗で髪が張り付いていた。

肩を大きく上下させて、呼吸も荒い。



「ぐぅぅっ…!」


ギタンとシルヴィアの間から、ベッドに横たわる子が見えた。


メルよりずっと大きい男の子だ。



「サム!」


「頑張れ、サム…!」


ベッドを囲む二人の男の子と、歳が近そうだ。




「がぁぁっ…!っ…!」

サムは、苦しそうに胸を押さえて暴れていた。


何度も体をのけ反らせ、ベッドから落ちてしまいそうだった。



「サム、俺の声が聞こえるか」

ギタンが右手を伸ばし、サムの体を押さえた。




「…く、くるしっ…!」



「…もう一度」

シルヴィアはサムの胸に手を置き、指先を白く光らせた。


一瞬だけサムの胸元に光が広がり、ふっと消えた。




「あっ…落ち着いた!」

覗く男の子のひとりが、身を乗り出した。



「…は、はっ、はっ…」

サムが、短い呼吸を繰り返した。




「シルヴィア…!サム、暴れなくなったよ!」


「もう、大丈夫ってこと!?」

男の子たちは、同時にシルヴィアへ顔を向けた。




「……」



「…ミーゴの時と同じだな」



「…ええ、そうね」

シルヴィアは、悲しそうな声でギタンの言葉に頷いた。


「あの子も…最期は、短い呼吸を繰り返していたわ」



「…兄ちゃん、どうなっちゃうの?」

メルが、声を震わせた。


「せいれいに、連れて行かれちゃうのっ…!?」




「…精霊になる時が、近づいているの」

シルヴィアは、静かに答えた。


「だから…私たちは、祈ってあげましょう」




「いのる…?なんで?」



「…これ以上苦しまないように、祈るのよ」




「サム…お前まで」


「…またかよ」


男の子二人は、そっと顔を俯けた。




「……」


短く荒かった息遣いが、ふつりと途切れた。


胸を押さえていたサムの手が、力なく垂れた。




「ほら…あなたたち、泣かないで。ちゃんと、サムにいってらっしゃいと言って送りましょう」



「うぐっ…」

男の子たちが涙を拭い、顔を上げた。




シルヴィアは両手を胸の前で組み、静かに口を開いた。


「…サムが、安らかに逝けるよう――」




「…いかせない!」


シルヴィアとギタンの間から伸びた小さな手が――


力なく垂れるサムの手を、力強く掴んだ。




「リリィ…!」

シルヴィアが止める前に、サムの体から白い光が溢れた。




――この子が、治りますように。

苦しまないよう、完璧に。


病気のすべてが、取り除けますように。




サムの体から溢れた光がさらに広がり、部屋中を満たした。



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