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第一章Ⅱ(見えてきた現実と大きな勘違い)④

リリアンヌ視点



「兄ちゃんの体が、ふるえてるの!」

少年は、わっと泣きながらシルヴィアの足元に飛び込んだ。


「今までで、一番ひどいんだ…!」




「大変だわ…すぐに行きましょう」



「…あの」



「リリィ、話の途中でごめんなさいね。申し訳ないけれど、今日はここまで」



「…何があったの?」

リリアンヌは慎重に尋ねた。




「子供たちの間でだけ、病気が流行っているの…だから、あなたは近づいてはいけないわ」



「病気…!?」



「そう。…流行り病の一種ね」


シルヴィアの声は、微かに震えていた。




「…?でも、白の――」



「リリィ、そこまでだ」



「…わっ!」


椅子ごとぐるりと向きを変えられ、目の前に屈むギタンが現れた。




「シルヴィア、メル。早くサムのところへ行ってやれ」



「…ええ、そうね。行きましょう、メル」



「うん…!」

メルは目元を拭うと、シルヴィアと共に調理場の奥へ去っていった。




「…私も」



「シルヴィアの言葉を聞いただろ。これは、子供にだけうつる病だ。無闇に近づくな」

ギタンは、椅子から降りようとするリリアンヌをそっと押し戻した。



「でも…白のちからなら治せるでしょう?」

リリアンヌは、困惑したように眉を下げた。



何か、変だ。

ずっと、会話がどこか噛み合っていない気がする。



白のちからなら、病気を治せるはずなのに。

その使い手が、ここにはいるのに。



どうして、病気で苦しんでいる子がいるのだろう。




「お前は、大きく勘違いしている」

ギタンは視線を外さず、静かに言い聞かせた。



「白の使い手だからって、必ず病気や怪我を治せるわけじゃねぇ」




「…どういうこと?」



「さっき、お前が自分で言っていただろ。霊拝師(オランス)は、実力ごとに等級で分けられている」



「…うん」



「病気を治すなんて芸当ができるのは、上級(フロース)霊拝師以上だけだ」



「…え?」




「病気を完璧に治せる奴は――この国に今、ひとりしかいねぇ」


低い声が、重く部屋に落ちた。




「…そんな」


白の使い手の話をしている時に覚えた、違和感――



病気や怪我を、誰も“治す”とは言わなかった。


“癒す”という言葉を使っていた。




「…薬」

リリアンヌは、はっと呟いた。




「あ?」



「ここは、たくさん薬があるでしょう…?薬を飲めば、治らないの?」



「薬は、症状を和らげるものだ。そうやって、霊拝師が訪れるまで繋いでいる」



「でもっ…霊拝師の治療費は、高いって」



「治療費、じゃねぇ。施術料、だ」

ギタンが素早く訂正した。


「お前の言う通りだ。霊拝師の施術料は高い。誰もが診てもらえるわけじゃねぇ」




「じゃあ…診てもらえない人は、どうなるの?」



「診てもらえないのが普通だ。よほど重い病気じゃなければ、霊拝師の作った薬も買わない。それほど俺たち平民にとって、白のちからは遠いものだ」



「……」

リリアンヌは青ざめたまま、ゆっくりと俯いた。



なんて失礼なことを、

シルヴィアに言ってしまったのだろう。



何も知らないくせに、最高位霊拝師になりたいだなんて。

病気の子がいるなら、白のちからを使えばいいじゃない、だなんて。


それこそ――無知な貴族の考えだ。



シルヴィアは、使っても治せないから、苦しそうな顔をしていたのに。

前世でだって、薬を飲めば病気がすぐに治るなんてことはあり得なかった。


どこか、白のちからを魔法のように捉えていた。



恥ずかしい。

知ったふりをしていた自分が、すごく恥ずかしい。




「…おい、リリィ。聞け」



「…あ」

リリアンヌは、ゆっくりと顔を上げた。



「お前は、俺の大怪我を治してみせた」

ギタンは、じっとリリアンヌを見つめて続けた。



「もしかしたら…お前なら、子供らの病気を治せるかもしれない」



「…!」

リリアンヌの瞳に、力が宿った。




「白のちからを、鍛えたいと言ったな」



「うん…!」



「ここの子供らのために、お前はそのちからを使う気はあるか」



「もちろん!」


言葉の意味を考える前に、リリアンヌは勢いよく頷いた。



自分のちからがどれほどのものか、まだ分からない。

怪我は治せたけれど、病気にはもしかしたら効かないかもしれない。



だけど、そこに苦しんでいる人がいるのなら。

じっとしていることは、できない。




「…ついて来い」

ギタンは立ち上がると、調理場の方へ進んでいった。



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