襲撃④
ロデオ視点
「複数犯でしょう」
血の海の中心で屈む黒い影が、静かに口を開いた。
「それはそうだが…なんだ、仲間割れか…?」
先ほど案内した者は、兵士ひとりが死んでいたという言い方をしていた。
混乱で、情報が錯綜したか。
「いえ…仲間割れというより、裏切り。不意打ちで、一気に襲ったのでしょう」
「何のためにだ?」
「そこまでは、まだ分かりません。現在、ここの勤務にあたっていた者たちの身元を確認させています」
「犯人どもは…!」
ロデオは、食いつくように尋ねた。
「…血の乾きからして、遠くまで逃げていないはずです」
アランフォースが、ゆっくりと死体から顔を上げた。
「すでに第二、第三城壁すべての門に厳戒態勢を敷きましたが」
静かに立ち上がると、器用に血を避けてロデオの横まで戻った。
「何か、気になることでもあるのでしょうか」
「……」
「ロデオ、なんだ」
いつの間にか、レックスとエドガーが階段を上がってきていた。
「…ついさっき、リリアンヌをエラドリオール邸へ馬車で戻した」
ロデオは顔を強張らせ、慎重に答えた。
「警護しろと、守衛隊兵を四人つけたが…」
もう、あれから二十分は過ぎている。
「おい、何考えてんだ。こんな状況で帰したのか」
レックスは眉を寄せ、鋭く言った。
「…兵士ひとりの変死を発見したと報告を受けていた」
複数犯など、予想していなかった。
身内に裏切者がいるかもしれないなど、思いつきもしなかった。
「…!」
アランフォースが、わずかに身じろぎした。
「それは…あり得ない」
先に、エドガーが静かに口を開いた。
「守衛隊には全員、複数犯が逃走していると通達しているはずです」
「…エラドリオール邸へ戻る」
ロデオは、すぐに階段へ足を向けた。
「ロデオ。国王直属騎士団にそこら中を回らせている。何人か拾ってから向かえ」
背中から、すぐに声が飛んできた。
「兄上は」
「ナイジェルが来たら一度城に戻る」
「分かった」
返事をしつつも、頭はもう、何も考えていなかった。
階段を下りる足元すら、覚束ない。
自分のせいだ。
いや…あの時は、すぐに引き返すべきだと思った。
落ち着け。
まだ、リリアンヌが巻き込まれたと決まったわけではない。
何かあれば、ついていった守衛隊兵が警笛を鳴らすだろう。
…ここまで案内した奴は。
混乱していたわけではないのか…?
自分に、嘘の報告を入れたのか…?
一体、何のために――
手を伸ばした扉が、バンッと開かれた。
「…!ロデオ総長、大変です!」
飛び込んできたのは、国王直属騎士団の騎士だった。
「どうした、リック」
後ろから下りてきていたレックスが、鋭く尋ねた。
「死んでいた守衛隊兵は皆、八塔当番の者ではありませんでした」
「あ?」
「もともと、第二城壁北東側の巡回担当だった者たちです」
リックは、息を整える間もなく続けた。
「エラドリオール邸から第一城壁の正門までを巡回する兵たちが、ここで殺されていました」
「なっ…なんだと…?」
頭が、ぐらりと揺れた。
それなら…
第一城壁の正門前にいた、兵どもは。
自分が、馬車の警護を任せた奴らは。
狙いは――
元から、リリアンヌだったのか。
「――ロデオ!」
「…!」
鋭い声に、はっと振り返った。
「急げ!」
レックスの指す先では、エドガーがこちらに向かって手を差し出していた。
転移する気だ。
「第一城壁の正門とエラドリオール邸前、どちらにしますか」
「…正門に戻せ」
ロデオは手の震えを抑え、エドガーの手に触れた。
その瞬間――
つい先ほど、娘の乗った馬車を見送った場所が目の前に広がった。




