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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第五章/見えない繋がり
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襲撃②

リリアンヌ視点



馬車が――ガタンッと止まった。



「…!」


勢いのまま、体がずるりとソファから滑り落ちた。



こんな止まり方は、初めてだ。



結構、しっかりと眠ってしまった。


もう、エラドリオール邸に着いたのだろうか。



「……」


扉が、開かない。


そういえば、いつもは必ず誰かが一緒だった。



…自力で扉を開ければいいのだろうか。


それとも、御者が来るのを待った方がいいのだろうか。



なんだろう…


やけに静かだ。


本当に、エラドリオール邸に着いたのか。



「……」

リリアンヌは、そっとカーテンを持ち上げた。



外の景色が見えた瞬間――



「…っ!」


さっと顔を引っ込め、身を屈めた。



「う…嘘…」


前方に――大きな血だまりが見えた。


守衛隊の兵たちが声も出さず、その周りを囲んでいた。



誰かが、誰かを斬った…?


いや…血だまりは馬のものかもしれない。



だとしても。


血だまりの前で黙っている兵士なんて、異常だ。



「…あ」


体が、小さく震えた。


怖い。



まさか、


これから私も――



音もなく――ゆっくりと扉が開けられた。


カーテンの下から、濃灰の軍服の足元が見えた。



「…っ」

リリアンヌはぎゅっと口を結び、身構えた。



――逃げなくては。



手がカーテンに掛かり、ぱっと開けられた。



その瞬間――


扉を開けた兵士に、思いきり体当たりした。



「…ってぇ!」


「うわっ」


押された兵士が、別の兵士を巻き込みながら後ろに倒れ込んだ。


リリアンヌは勢いのまま馬車から飛び出し、馬の方へ向かって駆けた。



「…!」


すぐに、はっとその足を止めた。



御者が、血だまりの中に倒れている。


もう、その目はどこも見ていない。



「そんな…」



――死んでいる。



「動くな」



「!」


リリアンヌは、びくりと体を強張らせた。



「えっ…」


御者に手を伸ばしたまま、びくともしない。


足も、動かない。



「早く縛れ。騒ぎになる」


背後で、カチャカチャと兵たちが動いている。



振り向きたいのに、振り向けない。


首を深く斬られた御者の姿だけが、ずっと目に映っている。



「…っ…」


ぎゅっと固く目を瞑った。




――バチバチィッ…!




耳元で、眩しい閃光と激しい音が轟いた。



「!?いてぇ!」


「あっちぃ!くそっ…」



「!?」


何かが、起きている。



「精霊をまず捕まえろ!」



「!」


体が動くようになったのと同時に、スノウが、ぽとりと地面に転がった。


落ちたスノウに、兵たちが一斉に手を伸ばした。



「…駄目!」


リリアンヌはその手より先に潜り込むと、スノウを素早く両手で拾い上げた。


そのまま地を強く蹴り、馬車の上まで跳ねた。



「くそっ、なんなんだよ!」


「大人しくしろ!」


下で叫ぶ兵士たちの声を無視し、リリアンヌは素早く辺りを見渡した。



とにかく、高い所へ。


目指すは、あの樹の上だ。



足にちからを溜め、短い助走をつけた。



――シュッ…!



「…あっ!」


右足に鋭い痛みを感じ、ぐらりと体勢を崩した。


スノウを抱えたまま、馬車の上から転げ落ちた。



「おい、親分…!傷つけたらマズイだろ!」



「…どうせ止血薬くらい持ってるだろ。いいから、早く縛れ!」


兵たちが、ばたばたと動き出した。



「…っつぅ…!」

リリアンヌはうつ伏せのまま、痛みに顔を歪めた。



右足の腱が、ずくずくと痛い。


斬られた。



意識が飛びそうだ。


治したいけど、今は絶対に白のちからを使えない。



体の下で、もぞりとスノウが動いた。



「スノウっ…お願い、逃げて…!」



「…ホ~!」


手の中からスノウが抜け出し――空高く飛んでいった。



「やべぇぞ、親分!」



「…くそ、飛んでるとうまく止められねぇんだよ」



「精霊も持っていく約束だ!」



「…本命は姫さんの方だ。早く連れて行くぞ」



「…ぅ…」


痛みで、起き上がることもできない。


涙で目が霞み、何も見えない。




何かに――巻き込まれた。




目隠しをされ、


猿ぐつわをつけられ、


手を、縛られた。



それ以上は、意識を保つことができなかった。



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