孤独の裏側①
ギタン視点
ギタンは、抜け道の穴から顔を上げると――
腰に差した木棒を、静かに抜いた。
「…おい、出てこい」
ゆっくりと振り返り、闇を睨みつけた。
誰も、何も言わない。
ただ、風が吹き抜けていく。
「ずっとリリィについていたんだろ。お前は、味方か?」
ギタンは構わず、闇に向かって尋ねた。
「敵なら、死んでもこの道は通さねぇぞ」
殺気に合わせ――辺りの葉が、ぶわりと舞った。
「――なぜ気付いた」
どこからともなく、声が聞こえた。
「俺は元騎士だ。舐めるな」
「……」
「それで…お前は、味方か?殺意は一切感じられないが」
「……」
返事は、ない。
「話を聞いていたなら、分かるだろ。あいつを苦しめてやるな」
「そんなことはしない」
声が素早く答えた。
「それなら、いい」
辺りに漂っていた殺気が、ふっと消えた。
「お前は、随分と強そうだな」
「……」
再び声が黙り込んだ。
「なあ…あいつを護ってやってくれねぇか」
ギタンは、静かに口を開いた。
「どこの誰かは知らねぇが、お前からは悪意も感じない」
「……」
「お前は、リリィを見守ってたんだろ?」
「……」
「頼む…あいつを、ひとりでどこかに行かせないでくれ」
闇に向かい、ギタンはまっすぐ続けた。
「あいつを、護ってくれ」
その言葉が――森に、そっと響いた。
しばらく、風の音だけが続いた。
抜ける風が、樹々を静かに揺らしていく。
「…約束しよう」
ふいに、声が返事をして――
気配が、消えた。
「……」
ギタンは木棒を腰に差し直すと、左腕にランタンを引っ掛けた。
「…あれは騎士じゃねぇな」
騎士のような力強い気配ではなかった。
城で何度か気配を感じた、王の使う駒でもない。
だが、とんでもなく強い。
相当うまく気配を消していた。
神経を尖らせなければ、気付けなかった。
一体、いつからリリィを見張っていたのか。
リリィが――
ロデオの娘が何を背負っているのか、まったく知らない。
初めて出会った時から、あいつは何かを抱えていた。
白の使い手でありながら、霊拝師になりたくない。
それでも、白のちからを鍛えたい。
まったく意味が分からなかったが…
今日、その理由が分かった気がした。
一の月に何があるかは知らないが、王都が危機に陥るのかもしれない。
あいつは、それを防ごうとしているのか。
たったひとりで、今まで抱えてきたのか。
誰も…頼れる者がいないのか。
近くに、誰も。
「……」
ギタンは、ぎりっと拳を握りしめた。
ロデオの大馬鹿野郎が。
もともと鈍い奴だったが、娘の抱えているものにも気付けないとは。
兄弟揃って、本当にしょうもない。
「…それは、俺もだな」
思わず、溜息が漏れた。
ついて行くと――迷わず言ってやれなかった。
くだらない信念を、捨てられなかった。
…情けない。
結局、人任せにすることしかできない。
今追いかけていった男が、何者かは分からない。
リリィも、あの強い男がついていることを知らない。
知っていたら、護衛を連れてきたと言うはずだ。
ただ、願うしかない。
自分より何倍も強そうなあの男が、心強い味方になってくれと。
あの子の抱えているものを――一緒に背負ってやってくれと。
「…頑張れよ」
ギタンは暗い底に言葉を落とすと、
ゆっくりと背を向けた。




