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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第五章/見えない繋がり
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孤独の隙間③

リリアンヌ視点



森の中は、暗く静まり返っている。


落ち葉を踏む音が、カサ、カサとよく響いた。



ギタンはなぜか、まったく足音がしない。


右手には、護身用の木棒が握られている。


いつものマントを羽織っていないのは、真夜中だからだろうか。



左腕にぶら下げるランタンの灯りが、歩くたびにゆらゆらと揺れていた。



「…ギタン」


リリアンヌは、そっと駆け寄った。



「左腕の話、途中になっちゃった」


まだ、治していいか答えを貰っていない。



「駄目だ」


即答だった。



「…やっぱり、ボノさんの時のようになっちゃうのかな」


思わず、声が萎んだ。



「そうじゃねぇ」



「…?どういうこと?」



「お前が戻ってきたら、頼めるか」

ギタンは、ゆっくりと顔を向けた。



「…!」



「来年の一の月を無事に越えたら…そうしたら、頼めるか」



「…うん」


じわりと、目元が滲んだ。



嬉しい。


自分の話を信じてくれていることも、


帰ってくる理由を作ってくれることも。



「…ねぇ、ギタン」



「なんだ」



「手、繋いでもいい…?」



「……」


ギタンは、何も言わずに木棒を腰に差した。


そのまま――空いた右手を伸ばした。



「…!」


リリアンヌは、その手をぎゅっと握った。



「…温かい」


また、涙が滲んだ。



心が、落ち着く。


ゆっくりと、今後のことを考えられる。



置き手紙を…書いていこう。


家族全員に宛てた手紙を。



行き先は書かず、だけど自分の意志でいなくなったことは伝えないといけない。


もし私が一の月まで戻ってこなかったら、戦う準備をするようにとも伝えないと。


自分が王都を出て行ったと分かったら、さすがに信じてくれるだろうか。



母は…また病んでしまうだろうか。


滋養にいい献立は、できる限り料理人に伝えたつもりだ。



兄とは、数か月会っていない。


最後に一目、会いたかったけれど――



「……」


最後と思うと、会いたい人たちがどんどん頭に浮かんだ。



ブライアンの最後に見た表情が、気がかりだ。


アイラや仲良くなった霊拝師(オランス)たちとも、明日大聖堂に行かなければもう会えない。


最近は、フーリンたちも護衛につかない。



それに…


一番お礼を言いたかった人を、避けてしまった。




『あなたが笑えば、心が温まる』




――大丈夫。


あの優しい笑顔は、まだ心に残っている。



握る手に、わずかに力がこもった。



そこからは、言葉も交わさなかった。


やがて抜け道の穴の前に辿り着くと、ギタンはゆっくりと手を離した。



「ここの出口から屋敷までは、近いんだろうな」



「うん。所有地の中なの」



「…そうか」

ギタンはランタンを地面に置くと、リリアンヌの前にそっと屈んだ。



「いいか。抜け道を出たら、まっすぐ屋敷に入れ」



「うん、分かった」



「前も言ったが…もう、ひとりでこんなふうに来るのはやめろ」



「…約束を破って、ごめんなさい」



「本当に、気を付けろよ」



「うん。ありがとう」


最後に、ぎゅっと抱きしめ合った。


すぐに離れると――



「…じゃあね、ギタン」


リリアンヌは背を向け、


ひとり、暗い底へと飛び降りた。



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