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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第五章/見えない繋がり
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焦りと孤独⑤

リリアンヌ視点



使用人が、大きな紙を抱えて客間へ入ってきた。



「失礼します。リリアンヌ殿下、こういうものでよろしいでしょうか」



「ええ、こういうのが良かったの…!すごい、こんな紙もあるのね」

リリアンヌは、嬉しそうに渡された紙を広げた。



地図を書き写すのに良さそうな、薄い紙。


自分で頼んでおきながら、まさかあるとは思わなかった。



「ありがとう、バルバラ」



「とんでもございません。それから、こちらが鉛筆です。折れやすいので、数本借りてきました」



「何から何まで、本当にありがとう」


地図と紙を抱えたまま、鉛筆の入った箱をバルバラから受け取った。



「これから、図書室に行ってきます」



「リリアンヌ殿下…本当に、昼食は召し上がらなくてよろしいのですか?」



「大丈夫。帰ったら食べるから」


リリアンヌはそう言って、すぐに扉の脇に立つ護衛たちのもとへ近づいた。



「ウェイバー、ゲイソン。今日は、お手数をおかけしてごめんなさい」



「……」

ウェイバーは小さく頷くと、音もなく扉を開けた。



「ありがとう」


扉をくぐり、早足に廊下を進んでいった。



人前で、二人はあまり声を出さない。


その代わり、馬車の中ではたくさん話してくれる。


後でまた、護衛の時間を延ばしてしまったことをちゃんと謝ろう。



模写に、どれくらい時間がかかるか分からない。


遅くなったら、仕事帰りの父と同じ時間になってしまうかもしれない。



そんなことになったら、根掘り葉掘り問いただされるだろう。


誕生日の祝いに羅針盤を欲しいと言った時も、何度も理由を尋ねられた。



でも…それでも、羅針盤は手に入れた。


昨年の、半年遅れの誕生日祝いとして貰ったランタンと合わせれば、迷うことはないだろう。



ランタンは…少しばかり、豪奢な飾り付けのものになってしまった。


精霊祭で見たランタンが忘れられないと言って、貰ったものだから仕方ない。


父はきっと、部屋に飾る用だと思っていたはずだ。



残る問題は、地図だけだった。


模写するのは、王都より北側だけでいい。


北側の領さえ分かれば、デューゼの森までは辿り着けるはずだ。



必要になれば、各地で周辺の地図を買えばいいし、


おおよその現在地を知れれば、それでいいのだから。



図書室の二階に辿り着くと、リリアンヌはすぐにソファに腰掛けた。


テーブルに地図を広げ、その上から紙を重ねた。



「…あれ」


紙は薄いけれど、地図が透けない。



「…う~ん」


仕方ない。


地図を見ながら描くしかない。



テーブルとソファの間へ滑り下り、地図の前に屈み込んだ。


鉛筆を取り出して、地図とわずかにずらした紙に、薄く曲線を入れていった。



絵は、苦手だけれど…


見ながらなら、なんとかなるだろう。



「う…」


北端の地形を真似て描いただけなのに、歪な形に仕上がってしまった。


…まだ、なんとかなる。



さらに身を乗り出し、地図と紙を何度も見比べた。


そのまま北側に森の記号を描き込み、一気にデューゼの森を仕上げた。



ここが――ベルルム砦。


この砦を通らないと、必ず森へ行けないのだろうか。



この何も描かれていない砦の西側には、何があるのだろう。


開けた地が続くだけなのなら、街道を逸れて、西側から侵入できないだろうか。


それとも、ここも全部、兵たちが護っているのだろうか。



それなら…パルミア領の西にある、ヒカーザ領から行けるだろうか。


でも、ヒカーザ領はかなり離れている。


相当な迂回路になってしまいそうだ。



そもそも…


まず一番の問題は、王都の北側に広がる“ザンビア山脈”を越えることだ。



ザンビア山脈は、セスランディアを二つに分断するように、中央に連なっている。


北側の領へ行くには、必ずこの山脈を越えなくてはいけない。



先ほどルイージから、山脈には三つの関所があると聞いた。


一番早くて安全な道は、王領から三日ほどで行ける、中央ザンビア砦を通ることだ。


けれど、子供ひとりの旅人を通してくれるとは思えない。



危険を冒してでも、関所を避けて山を越えるしかない。


ここまでは、馬を使わない方がいいかもしれない。


慣れない山道を、もっと慣れない馬に乗って行くことは難しそうだ。



…そんなことは、王都を出てから考えればいい。


まずは、地図を仕上げることだ。



パルミア領、ヒカーザ領、ロドロスト領――



「……」


どんどん、地図の形とずれてくる。


ロドロスト領は、こんなに大きくないのに。



ロドロスト領から、二つの領を挟んだ東側にアッシカル領がある。


なるほど…このさらに東が、タッセント国…


タッセントとの境界にある川が、また複雑だ…



……




……




……




「何している」



「ひゃあ…っ」


歪な曲線が、ぴんっと跳ねた。



「…!」


顔を上げ――ひゅっと息を呑んだ。



「なぜ、地図を書き写している」


正面に座る国王が、じっと手元を見つめていた。



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