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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第五章/見えない繋がり
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焦りと孤独④

リリアンヌ視点



「デューゼの森はこの通り、かなり広大です。国土の十分の一を覆っています」



「…デューゼの森のさらに北側に、山脈もありますね」

リリアンヌは、山が描かれている部分を慎重になぞった。



「それは、“北の大山脈”ですね。大変険しい山で、登ることは不可能と言われています」

ルイージはすぐに答えた。



「…言われている?」



「ええ。そもそもこの山脈はデューゼの森を越えないと行くことはできませんから、麓へ着くことも不可能です」



「…どうしてでしょうか?」



「デューゼの森は、不可侵領域となっているからです」



「えっ」



「これはセスランディアだけでなく、各国共通の取り決めです。誰も、デューゼの森へ入ってはいけない」



「ど、どうしてデューゼの森へ入ってはいけないのですか?」



「…デューゼの森は、瘴気が溢れているからです」

ルイージは、ゆっくりと地図から顔を上げた。



「入れば瘴気に飲み込まれ、いずれ“虚ろ人”になります。

まあ…法律で定められていなくても、そんな場所へ足を踏み入れる者などいるとは思えませんが」



「デューゼの森が、瘴気で溢れている…?」


どうしてだろう。


今はまだ、精霊王によって瘴気は封印されているはずなのに――



「…何か気になることでも?」



「あ…い、いいえ。ごめんなさい」


しまった。


食いつきすぎてしまっただろうか。



「…デューゼの森はどの領にも属していませんが、パルミア領の最北端にある“ベルルム砦”で現地兵が森を護っています」

ルイージは、再び地図に視線を落とした。



「…森を、護っているのですか?」



「ええ。瘴気で溢れているとはいえ、デューゼの森は、精霊の住まう神聖な場所とされていますから」



「そう…ですか」


その話は、この間アイラから聞いて知った。


けれど不可侵領域だということも、瘴気で溢れている話もしていなかった。


知らなかったのだろうか…



「ただ、護ると言ってもデューゼの森へ近づくこともできませんから、実際は瘴気が溢れ出ないか、異形の存在(ゼノプーパ)が現れないかを監視する役割を担っています」



「…異形の存在が現れたことはあるのですか?」

リリアンヌは、ぱっと顔を上げた。



「いいえ。デューゼの森付近では、過去一度も確認されていません」



「……」


それならやっぱり、オーリアが封印しているのだろうか。



「…殿下、話を進めてもいいでしょうか」



「…あの、ルイージ宰相」

リリアンヌは、決意の込めた目を向けた。



「この地図をお借りすることはできますか?」



「……」

ルイージは何も言わず、じっとリリアンヌを見つめ返した。



「その…王族として、国内の地理を把握したいなと思ったのですが」


我ながら、無理のある理由だ。



「…お貸しすることは構いませんが、王城から持ち出すことはできませんよ」



「えっ」



「ここまで詳しい地理が書かれた国内全体の地図は、国家機密にあたります。

王族といえども、エラドリオール邸に持ち帰ることはできません」



「…たとえば、模写することも駄目でしょうか?」



「模写…?あなたがですか?」

ルイージは、そっと眉を寄せた。



「はい。…山や川の形を、模して書くだけでもいいのです」



「…それくらいなら構いませんが」



「では、今日の午後だけ貸してください。それから、図書室へ行く許可をください。模写し終わったら、必ずお返しします」

リリアンヌは、意気込むように言い切った。



「…理由を教えてはくださらないのですか?」



「ですから、王族として地理や他領のことを学びたいからです」



「…俺にはお手上げだな」

ルイージは目を伏せ、小さく溜息をついた。



「え…?ごめんなさい、何ておっしゃいましたか?」



「…いいでしょう。図書室へ使いの者を置いておきます。地図は、その者に返却してください」



「…!ありがとうございます!」

リリアンヌは、そっと安堵の表情を浮かべた。



良かった。


これで、地図問題も解決だ。



「…国内情勢の話をしていたはずですが。趣旨を戻してもいいでしょうか」



「はい。ごめんなさい」


鋭い声に、すぐに表情を引き締めた。



あまりにもデューゼの森について尋ねてしまった。


怪しまれないよう、他にもたくさん質問しよう。



実際、ひとりで北を目指すのなら、知らなければならないことはまだまだある。



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