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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第五章/見えない繋がり
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焦りと孤独③

リリアンヌ視点



「おはようございます、リリアンヌ殿下。遅くなって申し訳ございません」


大きな羊皮紙を抱えたルイージが、客間に入ってきた。



「今日は殿下のご要望通り、この国の情勢について学びましょう」



「…おはようございます、ルイージ宰相。今日もよろしくお願いします」

リリアンヌは羊皮紙に目を向けながら、ゆっくりとお辞儀した。



「情勢と一概に言っても、いくらでも説明すべきことはあります。

思いつく限り話をしますので、気になることがあったら質問してください」



「分かりました」



「それでは…さっそくですが、こちらをご覧ください」

ルイージが、大きな羊皮紙をテーブルの上へ広げた。



「これが、セスランディア王国全体が描かれた地図です」



「…!」


“物語”で出てくる地図と、まるきり一緒だ。



「ここまで詳しく書かれた国内地図は、まず王城にしかありません」



「どうしてですか?」



「必要とする者が、ほとんどいないからです」

ルイージがあっさりと答えた。



「現地に行けば、その周辺の地図は売っています。ですから、このように国全体が描かれた地図を使う機会は滅多にありません」



「でも…とても分かりやすいのに」

リリアンヌは、そっと地図の上部へ目を向けた。


北側には、しっかりとデューゼの森も描かれている。



「さて…どこから話したものか…」

ルイージはモノクルを押し上げると、地図の中央を指さした。



「まず王領は、国内の中心に位置します。ここが王都レイセントです」



「王都よりも、レイセント湖の方が大きいのですね」


慌てて視線を戻し、ルイージの指を追った。



「ええ。ご存知かとは思いますが、レイセント湖の東側には、あなたの叔父上、ダナン長官が治めているユゲラドリル領があります」



「ここですね」



「そうです。この点線の内側が、ユゲラドリル領です。このように、この地図には五十五の領が描かれています」



「セスランディアには、五十五の領があるのですね…」


そのことも、初めて知った。



「…他国と隣接している領は、随分と領土が広いですね」

リリアンヌは、徐々に地図の中央から北側へ視線を向けた。



「いわゆる、辺境伯と呼ばれる地方長官たちが治めている土地です。

北東にあるアッシカル領は、タッセント国と接していることもあり、王領に匹敵する兵力を持っています」

ルイージは、ちらりとその視線を追いながら答えた。



「アッシカル領の長官とは、あなたも昨年の精霊祭でお会いしていますね」



「はい、マシュー長官ですね。後から、王都まで三週間近くかかると知って、とても驚きました」



「それほどまでに、精霊に興味があったのでしょう。あそこもまた、信心深い者が多い領ですから」

ルイージは言いながら、北東から西に大きく指をずらした。



「それから、ここ――西のドーガ国に接するツァガ領もまた、大きな領です」



「…宝石の町アルジャがあるところですね」


西側の話になってしまった。



「よくご存じですね。アルジャまでは、王都から一週間ほどで行けます。

その行きやすさから、川の都スーゼルに次ぐ人気観光地となっています」



「一週間で、行きやすいのですね…」


どうしても、長旅に感じてしまう。



「それから…ツァガ領には、異種族を受け入れている村があることで有名です」



「…!」


思わず、はっと顔を上げた。


その話を、知っている。



「リリアンヌ殿下は、この国にどんな種族がいるかご存知ですか?」



「えっ…はい…人族と、エルフ族と、獣人族です」


この国に、ドワーフ族はいない。



「そうですね。ですが、エルフ族も獣人族も、現在はその姿を国内で見ることはあり得ません」



「あり得ない…?」

リリアンヌは、不思議そうに首を傾げた。



「まず先に、エルフ族ですが…彼らは、セスランディアのどこかに隠れ住んでいると言われています」



「はい。それは、聞いたことがあります」


“物語”でだけれど。



「最後に彼らを見かけたのは、四百年前とも五百年前とも言われています。

それ以降、誰も彼らの姿を見ていません」



「そう…ですね」


彼らが隠れてしまった理由も、いる場所も――よく知っている。



「それから獣人族についてですが、彼らはつい十年前まで、王都に何百人と住んでいました」



「…そうなのですね」



「それが…とある理由により、今はひとつの村でまとまって暮らしています。

その村が、先ほど話したツァガ領の中にあります」



「…はい」


そのとある理由も…知っている。



「前に、あなたにフラディン一族の話をしましたね」



「えっ?…はい、よく覚えています」

リリアンヌは、戸惑いながら頷いた。



スワハマ大教主の一族。


南一帯で、強い勢力を持っている一族のことだ。



「フラディン侯爵領は、王領の真南に位置します」

ルイージは、とん、と地図の南側を指さした。


王領や辺境伯領に次ぐ、大きな領だ。



「王領から繋がる街道は、フラディン領にある南の大都市ピラーリエで、東西南三方向に分かれます」



「それは…とても重要な場所ですね」



「ええ。王都へ続く南の交易路の中心地となっていますから、それはもう、目覚ましい勢いです」

ルイージは地図に視線を落としたまま、淡々と答えた。



「同じように、北側の重要な交易路の中心地となっている町が――ここ、北の大都市ポータスです」



「…あ」


一気に、話が北へ移った。



「どうしました?」



「あっ…ええと…ここはパルミア領なのですね」



「そうです。パルミア一族の話も、以前あなたにしましたね。北で勢いのある、“精霊の目を持つ一族”です」



「…そう呼ばれているのですね」



「鑑定士を多く輩出していることから、そう呼ばれるようになりました。

ここもまた、ホウレンベルク領に負けず大変信心深い領です」

ルイージは、パルミア領を指しながら説明を続けた。



「その一番の理由が、パルミア領は、デューゼの森への入り口となっているからです」



「…!」


リリアンヌは、大きく息を呑んだ。


話が繋がった。



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