焦りと孤独②
リリアンヌ視点
「…本当にすごい」
リリアンヌは、ベッドの上でマントを高く持ち上げた。
特注のマント――
見た目は重厚なのに、持ち上げたら羽のように軽い。
頭巾は大きく深いから、スノウを隠すことだってできる。
なんといっても、見た目が好きだ。
夜に紛れるような、漆黒。
だけど、裏生地は落ち着いた紅色だ。
それから、白の上衣と茶色のズボン。
一見普通の服に見えるけれど、丈夫な生地で作られている。
あとは、かなり無理を言って作ってもらった革の靴。
たくさん歩いても足を痛めないよう、工夫してもらった。
褒賞金を使って誂えた、旅用の衣装――
数か月前に頼んで、ようやく出来上がった。
ステファンには、また討伐があった時のために欲しいからと仲介をお願いした。
その理由でも、父はきっと渋るだろう。
だから、父が遠征に行っている隙に仕立て屋を呼んだ。
とっくに遠征から戻ってはきているけれど、こうやって内密に受け取ることもできた。
デューゼの森へ行くと決めてから、一年が経った。
予想よりずっと時間がかかってしまったけれど、やっと準備が整ってきた。
“デューゼの森の悪夢”まで、あと、たった半年しかない。
森までは、馬に乗っても王都から三十日以上かかる。
これは“物語”の知識だけれど、きっとその遠さは現実も変わらない。
歩けば、倍以上はかかるだろう。
だからこそ無理を言って、馬の乗り方を教わった。
理想は、旅の途中でポニーを買えることだ。
褒賞金は、まだまだ余っている。
本当は、大きな背嚢も欲しかったけれど…
こればかりは、仕方ない。
ステファンに背嚢を頼めば、さすがに勘づかれてしまう。
だから、自力で鞄を作った。
こつこつと仕立てた、歪な肩掛け鞄。
これで、最低限の持ち物は入る。
荷物は、王都を発って、次の町へ行くまでの分だけで十分だ。
そこで、いろいろと買い足せばいい。
あとは――地図だ。
デューゼの森へは、とにかく北へ進めば辿り着く。
でも、道中に大きな山脈も通るから、地図は必須だ。
大陸や王領の地図は図書室にあったけれど、国全体の地図はなぜかなかった。
だけど、これももうすぐ解決するだろう。
「……」
マントを握る手に、ぎゅっと力が入った。
不安しかない。
いきなり北の果てまで、ひとりで目指すなんて。
城下町もろくに知らないのに、他の町で買い物をしようとしている。
もしかしたら、何日も野宿する羽目になるかもしれない。
食べるものが手に入らなくて、飢えに苦しむかもしれない。
だけど動かなければ、
異形の存在の大群が攻めてくる未来は、変わらない。
本当は…大人がひとり、一緒にいてくれれば心強いけれど。
どの町へ行っても、子供ひとりは目立つだろう。
…ギタンに頼んだら、ついて来てくれるだろうか。
いや…それは駄目だ。
ギタンには、シルヴィアたちと一緒にいてもらいたい。
他には――
『何でも力になると、約束したはずです』
『私を信用して、頼ってください』
「……」
巻き込まないと、心に決めた。
だけど、もし…
もし、相談したら。
アランフォースは、王都から出るために協力してくれるだろうか。




