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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第五章/見えない繋がり
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焦りと孤独①

リリアンヌ視点



「…そう、そこで綱を引く。はい、お上手です」


女性の調教師は、満足そうに頷いた。



「降りる時は、周りと足元を確認することを忘れずに。高さがありますので、十分に気を付けてください」



「はい、ベルタ先生」


リリアンヌは大きく足を開き、軽やかに地面へ飛び降りた。



「お嬢様、素晴らしいです。もう、おひとりで馬にも乗れてしまいましたね」



「ありがとうございます。この子が、大人しくて良い子だから」


よしよし、と馬の額を優しく撫でた。



「確かにその馬は教育用に躾られておりますが、大きさとしては平均的です。馬に乗れる十歳のご令嬢は、恐らくお嬢様くらいでしょう」



「…他の馬にも、乗れるかな」



「お嬢様なら、すぐに他の馬でも乗ることができると思いますよ」

ベルタは、優しく微笑んで答えた。



「…駆けることもできるようになりますか?」



「ええ。来年の今頃には、湖の周りを駆けることもできるようになっているでしょう」



「…来年」



「お嬢様、来週はポニーに戻って、障害物を使ってみましょうか」



「あっ…はい、お願いします」



「では、今日はここまで。お疲れ様でした」



「はい、ベルタ先生。今日もありがとうございました」


リリアンヌはベルタへお辞儀すると、すぐに馬場の入り口へ向かった。



馬場の外で待つ侍女が、門を開けて待っていた。



「お嬢様、お疲れ様です」



「ニア、お待たせ…!」



「すっかり、お上手になりましたね。まさか馬まで乗れるようになるなんて、びっくりですよぉ」

ニアは門を閉めると、そのまま屋敷へ向かった。



「う~ん…でも、やっとかな」

リリアンヌは首を傾げながら、ニアと並び歩いた。



「ポニーから初めて、たった一年で馬へ乗れるようになったのに、何を言っているのでしょう」



「そう…だね」



「最近のお嬢様は、本当にいろいろとなさりますね」



「ええ?乗馬と護身術は、一年以上前から習っているじゃない」



「また図書室にも通い詰めるようになってしまいましたし、奥様がご快復なさっても、まだ料理人のところへ顔を見せているじゃないですか」



「それは…また何かあった時のために、体に良さそうな献立を一緒に考えてもらっただけ」



「あれだけ苦手だったお裁縫の授業も、最近は随分熱心ですし。お部屋で、自習までなさっているでしょう?」



「最近は…楽しいの」



「まったく…お嬢様ほど忙しくされている令嬢を、他に知りませんよ」



「…ね、ニア!夕食前に、先に入浴してもいいかな?」

リリアンヌは、ぶつぶつ呟く侍女にかぶせるように言った。



「もちろんですよ。今日は、大浴場の方に行きますか?」



「そうだね。ゆっくりお湯に浸かりたいな」



「本当にお嬢様は、お風呂が好きですねぇ」


ニアはくすっと笑いながら、屋敷に繋がる扉を開けた。



「お帰りなさいませ、お嬢様。お待ちしておりました」


扉をくぐった瞬間、家令がお辞儀して出迎えた。



「ステファン、ただいま。待っていたって…どうしたの?」



「お嬢様に頼まれていた一式が、届きましたよ」



「…そう!」

リリアンヌは、ぱっと顔を綻ばせた。



「後ほど、お嬢様の部屋まで運ばせておきます」



「ありがとう、ステファン…!」



「とんでもございません。私は、ただ手配を進めただけです」



「いいえ。仕立て屋も紹介してくれたし、それに、何度も対応してくれたもの」



「それくらい…家令として、当然でございます」



「あと、お父様に秘密にしてくれてありがとう」

リリアンヌは、嬉しそうに付け足した。



「お父様が知ったら…きっと、心配してしまうから」



「…ええ、そうですね」

ステファンは、小さく笑って答えた。



「お嬢様、良かったですねぇ。楽しみにされていましたからね」



「うん…!ニアも、付き合ってくれてありがとう」



「お風呂から出たら、さっそく試着してみましょうか」



「そうだね。あっ…ステファン、本当にありがとう」


リリアンヌはもう一度礼を言うと、足を弾ませてニアと廊下を進んでいった。




「…申し訳ありません、お嬢様」


家令の小さな声は、届かなかった。



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