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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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精霊祭⑤

リリアンヌ視点



国王の到着を知らせる喇叭が、辺りに鳴り響いた。


小さな騒めきが、しんと消えた。



「皆、思う存分騒いだか」


国王の声が、静まり返った町に響いた。



「皆の声は死者に届き、死者は愉楽のなか、聖樹のもとへ向かうことだろう」


褒章授与式の時より、静かで優しい声だ。



「さらに今年は…我々には、精霊がついている」

レックスはそう言って、ゆっくりと振り返った。



視線を向けられたリリアンヌは、裾を踏まないよう壇上へ上がった。


差し出された手を取ると、レックスは自然にその肩を抱き寄せた。



「…!」


目に入った景色に、一瞬で心を奪われた。



町の人々が、手にランタンを持っている。


蝋燭の灯火が、淡くちらちらと揺れている。



大正門の下の広場が、


広場から続く大通りが――



城下町中が、揺れる光で溢れていた。



「安らかに死者が旅立てるよう、皆――祈り、願え」


拍手も、歓声もない。


ただ、真剣にこちらを見ている。



静かな空気が、町を包んでいた。



「その場で後ろを向け」



「はい…」


レックスに合わせ、ゆっくりと王城側へ振り返った。



「どうぞ」


脇に控えていた従者が、ランタンを差し出した。



「…ありがとうございます」


ほんのり、温かい。



「祈りを込めて飛ばせ」

レックスは耳元で囁き、肩から手を離した。



「……」

リリアンヌは目を閉じ、ランタンを額へ近づけた。


祈り――



“デューゼの森の悪夢”を、防ぎたい。


けれど、スノウともずっと一緒にいたい。



家族も、知り合ってきた人たちも、町の人たちも。


誰にも、悲しい思いをしてほしくない。



精霊たちが聞いているのなら…


皆を、


スノウを、


救う方法を、私に教えて――



願い終えると同時に、そっとランタンから手を放した。



ランタンが、ゆっくり、上へ上へと昇っていく。



不思議だ。


ちゃんと、聖樹の方に向かっている。



「ホ~…!」



「あっ…」


スノウがふわりと羽ばたき、肩から離れた。


リリアンヌの周りを小さく飛ぶと、そのままランタンの方へ向かっていった。



おおっ…と、観衆から騒めきが起きた。



スノウはランタンを先導するように、どんどん遠ざかっていく。



「……」

リリアンヌは、ぎゅっと強く口を結んだ。



まるで、ランタンと遊んでいるようだ。


なぜか、それが寂しかった。



「あ…」


見上げていた空が、いくつものランタンで埋め尽くされた。


町の人たちも放ったようだ。



夕暮れと夜が混ざった空に、蝋燭が溶けていく。


スノウについて行くように、ゆっくりゆっくり、すべてのランタンが聖樹へ流れていく。



涙が、静かにこぼれ落ちた。



無性に、悲しい。


死者の魂に見立てたランタンは――



私には、消えてしまった精霊たちのように見えた。



苦しい、つらい、と死んでしまい、


人々を恨み、呪った。



だけど、ここでは。


どの光も、優しく楽しそうに、ちらちらと揺れている。



ここだけは。


精霊たちも、楽しんでくれているのだろうか。



スノウのように、まだ、人を愛してくれているのだろうか。



「…!」


ふと、視線が合った。



隣に並ぶ国王も、騎士や長官たちも皆、飛んでいくランタンへ目を向けている。



アランフォースだけが、こちらを見ていた。


灰色の瞳が、優しく、自分を見守っている。



それが――胸が締めつけられるほど、切なかった。




「…下りるぞ」



「あっ…はい」


差し出された手に、はっと手を伸ばした。


どうやら、これで役目は終わりらしい。



「まさか、本当に精霊を飛ばすとは思わなかった」



「…指示をしたわけではありません」


つい、不貞腐れた声が出てしまった。



「お前の驚き方を見れば、分かる」

レックスはリリアンヌの手を持ったまま、聖樹の方へ目を向けた。



「…不思議なもんだな」



「はい…」


ここからは王城や城壁に隠れ、聖樹を見ることはできない。


スノウの姿も、もう見えなかった。



「あの…スノウ…精霊を迎えに行ってもいいでしょうか?」

リリアンヌは、躊躇いがちにレックスへ尋ねた。



「聖樹に行ったのか」



「はい…恐らくですが」



「聖樹に迎えに行くということか?」



「…駄目でしょうか?」


聖樹のある一帯は、立ち入り禁止区域だ。


もう二度と、あんな危険な思いをして忍び込みたくない。


貰えるものなら…許可が欲しい。



「…今日は精霊の日だ。良いだろう」



「…!ありがとうございます…!」


思わず緩みそうになる口元を、必死で引き締めた。



「…アランフォースを必ず連れて行けよ。他の馬車より、先に向かえ」

レックスはじろりと見下ろしながら、ゆっくりとリリアンヌの手を離した。



「はい…!陛下、ありがとうございます!」

リリアンヌは勢いよくお辞儀すると、すぐに階段の方へ向かった。



他の馬車より、先に行かなくてはいけない。


まだ、長官たちもこの場にいる。


今なら、一番乗りだ。



「リリアンヌ殿下、ゆっくり下りてください。転びます」


後ろから、アランフォースがさっと声を飛ばした。



「大丈夫…!」


踝まで裾を持ち上げ、たたたっ…と階段を駆け下りた。



聖樹へ、行ける。


あの場所が、大好きだ。


今行けば、上がったランタンを聖樹のもとで見ることができるだろうか。



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