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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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精霊祭③

リリアンヌ視点



「リリアンヌ殿下、お待ちしておりました」


馬車から降りると、すぐにルイージが目の前までやって来た。



「ルイージ宰相、今日はよろしくお願いします」

リリアンヌは、その場で小さくお辞儀した。



「すごい声でしょう。ですが、もうすぐ町側の騒ぎも落ち着きますから」



「どうしてですか?」


声を張り上げるルイージに合わせ、いつもより大きな声を出した。


町側の喧騒が、授与式の時よりずっと大きい。



「まもなく、ランタン上げが始まるからです」



「あの、ルイージ宰相」



「なんでしょう」

ルイージはわずかに屈み、リリアンヌに耳を近づけた。



「あのっ…門の上で私は、何をすればいいのでしょう」


まだ、何の打ち合わせも終わっていない。



「これからランタン上げまで、どのような流れになっているのでしょうか?」



「あなたはランタンを受け取り、手を放すだけです。難しいことは、ありません」



「……」


授与式の時よりも、だいぶ大雑把な気がするのだけれど。



「あなたなら、大丈夫です。上に向かいましょう」

ルイージは姿勢を戻すと、大正門の上へ続く階段を指さした。



その階段から――数人の男たちが下りてきた。



「…!」


誰か分かった瞬間、小さく息を呑んだ。



「……」

ルイージは何も言わず、素早く道の端に避けた。


慌ててその横に並び、そっと目を伏せた。



下りてきた者のひとりが、目の前で足を止めた。



「リリアンヌ、そんなに畏まるな」



「…ブライアン様、お久しぶりです」

リリアンヌは、ゆっくりと顔を上げた。



「半年ぶりだな。元気か?」



「はい。この通り、元気です」



「そうか。…その格好、よく似合っている」

ブライアンは、ふっと優しく微笑んだ。



「ブライアン様も、とても素敵です」


半年ぶりの従兄は、息を呑むほど格好良かった。



自分と同じような祭服に、首にも腕にも金の宝飾を身につけている。


黄金色の髪と相まって、体中から光が溢れているように見えた。



「聞いたよ…君は今、とても忙しいようだな」



「…ブライアン様も、忙しそうです」



「僕は…大したことない。いつもと何も変わらない」

ブライアンは、小さく自嘲的な笑みをこぼした。



「…ブライアン様は、ランタン上げに参加されないのですか?」

リリアンヌは、ちらりとブライアンの背後に目を向けた。



一緒に下りてきた人たちは、全員、ブライアンと似た年頃だ。


同じように、祭服を着ている。



「ああ…長官たちへ挨拶をしに来ただけだ。僕はこれから、宴の方へ参加する」



「そうなのですね…とても忙しそうです」


今から参加する自分と違い、ブライアンは大聖堂の祈りから参加していたのだろう。


長官たちへ挨拶して、さらにこれから、宴に出なくてはいけないなんて。




「僕には…それくらいしかできないから」


小さな声が、町から聞こえる喧騒に掻き消された。



「…ブライアン様、今、何て――」



「リリアンヌ。あまり、無理するなよ」



「え…は、はい」


今度は、はっきり聞こえた。



「ブライアン様も、お体に気を付けてください」



「ああ、ありがとう。またな」



「…はい」



「すまない、待たせた」


背を向けたブライアンが、同行者たちと合流した。



「ブライアン殿下。あちらは、リリアンヌ殿下で…?」



「…ああ、そうだ」



「我々も、ぜひご挨拶を」



「いや、すぐに門の上へ行かなくてはいけないらしい。僕たちも早く行こう」



「…ええ、そうですね」


何人かが、ちらりとこちらに振り返った。



「……」



「…リリアンヌ殿下、行きましょう」



「…はい」


去っていくブライアンから目を離し、階段に進むルイージに続いた。



ブライアンとは、異形の存在(ゼノプーパ)討伐前の会議で話して以来だ。


その前は、五年近く会っていなかったけれど、


加護のちからを試すために付き合ってくれた一週間で、だいぶ仲良くなれた気がした。



気がしたのに――また、遠くなってしまった。



…従兄だけど、もともと遠い存在だった。


きっと、こちらの方が普通だ。


また、しばらく会うこともないだろう。



――だけど。




『こんな我儘を言ったのは、久しぶりだ』




花畑で見せてくれた笑顔と、正反対の表情ばかり浮かべるブライアンが――


影を差す王太子の顔が、頭から離れなかった。



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