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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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精霊祭②

リリアンヌ視点



「では、行ってきます。お母様、ニア」



「ええ、気を付けてね」


「行ってらっしゃい、お嬢様」


二人に見送られながら、家令と一緒に門まで向かった。



ランタン上げは、陽の暮れる寸前に行われる。



もう、陽が落ちかけている。


夕方にエラドリオール邸を出るなんて、少し不思議な感覚だ。



「…おや、珍しい方がいらっしゃいますね」


後ろを歩くステファンが、ぽつりと言った。



「え…?」

リリアンヌは、ゆっくりと顔を上げた。



「あ…!」


門の向こう側に、すでに馬車が待機している。


馬車の前には、黒い軍服に大剣を背負った騎士が立っていた。



「…ステファンは、アランフォース副団長を知っているの?」

リリアンヌは門へ目を向けたまま、こそりと尋ねた。



「もちろんです。彼は、有名人ですから」



「あのね…今日は、私を護衛してくださるの」


大聖堂へ行く時も護衛してくれるけれど、なんだか今日は、特別な気分だ。



「お嬢様が嬉しそうで、何よりです」



「!」

リリアンヌは、ぱっと振り返った。



「今日の日を、よほど楽しみにされていらっしゃったのですね」

ステファンは、ふっと優しい笑みを浮かべた。



「どうぞ、大切な時間を過ごしてきてくださいませ」



「……」


まさか、ステファンにまで母と同じようなことを言われるなんて。



「…お父様に、報告しなくていいからね?」



「分かっていますとも」

ステファンは再び微笑むと、門の前で足を止めた。



「それではお嬢様、行ってらっしゃいませ」



「はい、行ってきます…!」


リリアンヌは手を振り、門の外へ踏み出した。



「リリアンヌ殿下、今日はよろしくお願いします」



「アランフォース副団長、こちらこそよろしくお願いします…!」



「足元に気を付けて」



「あ、はい…」


アランフォースの手を借りながら、たどたどしく馬車へと乗り込んだ。



「よくお似合いですよ」



「ありがとうございます…でも、慣れなくて」

リリアンヌは答えながら、ゆっくりと腰掛けた。


座っていても、足元の靴が隠れている。


ここまで長い服を着るのは、初めてだ。



アランフォースが扉を閉めると、ゆっくりと馬車が動き出した。



「このまま大正門へ向かうのですか?」



「ええ、そうです。門の下で、ルイージ宰相がお待ちです」

アランフォースが短く答えた。



「もう、大聖堂でのお祈りは終わったのでしょうか?」



「ルイージ宰相は参加されていませんが、祈りは昼には終わっています」



「…何か、聞こえる」

リリアンヌは、はっと窓に目を向けた。



馬車の外から微かに、どん、どん、と何かを叩く音が聞こえてくる。


わっと騒ぐような声も、空耳ではないだろう。



「町の祭りの音ですね」



「こんなふうに…聞こえるのですね」


知らなかった。


町の声が、第二城壁内にあるエラドリオール邸まで届くなんて。



「馬車から降りたら、もっと聞こえますよ」



「アランフォース副団長は、お祭りに参加されたことはありますか?」


ふと、気になった。



「参加は、ありません。警護の任務で、当日に町へ行ったことはありますが」



「お祭りの様子は、どんな感じなのでしょうか」



「そうですね…まず、今のように、常に町のどこかで音楽が流れています」

アランフォースは窓の外へ視線を向け、ゆっくりと答えた。



「音楽に合わせ、町の者や踊り子たちが、広場ごとで踊っています」



「へぇぇ…!」


思わず、身を乗り出した。



「それから中央市場は、いつもよりずっと人で溢れ返っています」



「町で、一番大きな市場ですね」



「ええ、そうです。普段から賑わっていますが、祭りの日は、さらに露店が増えます」



「それは…とても楽しそう」

リリアンヌは、羨ましそうに窓の外を見つめた。



「…祭りは、お好きですか?」



「…行ったことがないので…分かりません」


つい、声が小さくなった。



せっかく質問してくれたのに。


楽しい話のひとつも返せなかった。



「精霊祭は、毎年開催されます」



「え?」

リリアンヌは、きょとんと正面に顔を向けた。



「いつか…必ず、参加できます」


アランフォースは、真剣な表情を向けていた。



「…はい」


必ず…参加できるだろうか。



父のように公務ではなく、参加客として。


前みたいに、お忍びで行けたら。



…でもギタンには、もうひとりで抜け道を使うなと言われてしまっている。



それでも、いつか…


町の人たちと同じように――



祭りを楽しめる日が、来るのだろうか。



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