精霊祭①
リリアンヌ視点
「よく似合っているわ。素敵よ、リリアンヌ」
「ありがとうございます、お母様。ドレスを着ると思っていたので…驚きました」
リリアンヌは、まじまじと身に着けている衣装に視線を落とした。
「それは、祭服と言うの。宗教の儀式がある時、関係者は皆、そういう衣装を着るのよ」
アヴェリーンが優しく答えた。
「そうだったのですね。では、お父様も着ているのでしょうか」
「ええ。今日は一日中、祭服を着ているはずよ」
「それは…お父様にも、お会いしたかったな」
リリアンヌは、残念そうに呟いた。
精霊祭、当日――
何時間もかけて、母の部屋で着付けをしてもらった。
霊拝師たちが着ている衣装を、さらに豪華にしたものだ。
綺麗な刺繍が入った白い長衣に、足元まで隠れる濃緑の羽織もの。
「お嬢様、耳飾りも着けないとですよぉ」
ニアが、大振りの耳飾りを持って近づいた。
「ええ?まだ装飾品を着けるの?」
首元にも腕にも、すでに大きな金の装飾品を着けていて、少し重たい。
「それにももちろん、意味があるのよ」
アヴェリーンがすかさず言った。
「大きな装飾品を着けることに、意味があるのですか?」
「ええ、そうよ。上げるランタンは死者の魂に、光る宝飾は見守る精霊に見立てているの」
「へぇぇ…」
リリアンヌは、ちらりと窓辺へ目を向けた。
本物の精霊は、今日もほんのり光っている。
「…今回もついて行ってあげられなくて、ごめんなさいね」
アヴェリーンが、小さく溜息をついた。
「あなたには、心細い思いをさせてしまっているわ」
「!いいえ、お母様…!本当に、大丈夫です」
体調が優れない母は、今日の行事には参加しない。
残念だけれど、無理だけはしてほしくない。
「スノウもいるし、それに…」
それに、今日の護衛は――
「あら…あなたのそんな表情、初めて見たわ」
「へっ」
「まるで、これから好きな人にでも会うみたいだわ」
「…!」
思いきり首を振り、母の言葉を否定した。
一体自分は、どんな表情をしてしまったのだろう。
「ああ、お嬢様ぁっ!そんな強く振ったら、耳飾りが取れちゃいますよぉ」
「あっ…ごめん、ニア」
「ふふっ…あなたが楽しそうなら、良かった」
「え、ええと…ランタン上げが、楽しみで」
「最近のあなたは…我慢しているような顔ばかりしていたから」
「えっ…?」
リリアンヌは、ぱっとアヴェリーンに顔を向けた。
「毎日登城して、週に一度大聖堂へ行って…大変な思いをしているのでしょう?」
「…大変な思い?」
「そうでしょう?あなたも、あの人も、何も言わないけれど…」
アヴェリーンは、ふっと表情を曇らせた。
「あなたの取り巻く環境は、一変してしまった。それがどれほど苦痛なことか、私は知っているわ」
「お母様、違います…!」
咄嗟に、母の方へ身を乗り出した。
「確かに環境は一変してしまったけれど、それを嫌とは思っていません」
まさか――
母の体調が悪くなってしまったのは、私のせいなのだろうか。
ちゃんと、伝えていなかったから。
「…無理をしなくていいのよ」
「いいえっ…多くのことを学べるから、とても勉強になるのです」
確かに、最初は怖かった。
だけどいろいろな人たちのおかげで、今は本当に、嫌なことなど何もない。
「最近は、王城へ行くのが楽しみになってきたの」
「…本当に、不思議ね」
アヴェリーンはそっと手を伸ばすと、娘の頬を優しく包んだ。
「…?」
リリアンヌは、戸惑うように母を見上げた。
「あなたは一体、誰の背を見て育ったのかしら」
「……」
「そんなに聞き分けの良い子にならなくて、いいのよ」
「その…心配をかけてしまって、ごめんなさい」
「いいえ…最近は確かに、あなたの明るい表情が戻ってきたわね」
アヴェリーンは、くすっと優しく微笑んだ。
「あなたが楽しいのなら、それでいいの」
「…はい」
母は…
私が我慢しているように見えたから、つらかったのだろうか。
笑っていれば、安心してくれるのだろうか。
「…もう、時間ね。あなたは行かないと」
「あ…はい」
「入り口まで送るわ」
アヴェリーンは頬から手を離すと、娘の前に差し出した。
「ありがとうございます…スノウ、行こう」
「ホ~」
リリアンヌはスノウを肩に乗せ、母の手をそっと握った。
足を踏み出し――
「あ…!」
裾を思いきり踏み、よろりと躓いた。
「衣装は、後ろに流して。羽織ものは、引きずってしまって大丈夫よ」
アヴェリーンが優しく助言した。
「…こうですか?」
「ええ、上手よ。手で持つと、逆に危ないから…そう、そうやって歩いて」
「お嬢様、お上手ですよ~。今日は、走っては駄目ですからね」
「……」
それを、母の前で言わないでほしかった。




