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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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この国の禁忌②

リリアンヌ視点



「ようやくお会いできましたな、リリアンヌ殿下…!」


スワハマが、ぜぃ、ぜぃと荒い息を吐きながら、聖療院に現れた。



「…スワハマ大教主、お久しぶりです」

リリアンヌは入り口へ体を向け、その場でお辞儀した。



「話は、聞いていますぞ。不足していた薬が、安定して作れるようになったそうな」



「…はい。アイラ様のご協力のおかげです」



「まったく、ご謙遜を。これで恩が売れるというもの…」

スワハマは近づきながら、ゆっくりと視線をリリアンヌの後ろへ移した。



「…それで、なぜロデオ殿下が大聖堂へいらっしゃるのか。儂は、許可を出した覚えはないんですがな」



「私は、リリアンヌの護衛としてここへ来ている」

ロデオは、さらりと答えた。



「何か、問題でも?」



「王族を王族が護衛。ふんっ…なるほど。一生懸命頭を使った結果が、これですか」



「なんと言われようと、私は護衛だ」



「…それで、リリアンヌ殿下。精霊祭の日は、もちろん大聖堂へお越しいただけるのでしょうな」



「リリアンヌは、行かないぞ」



「はっ…本当によく喋る護衛だ」

スワハマは、じとりとロデオを睨みつけた。



「たった今、自分は護衛だと宣言されたのを、もうお忘れですかな」



「護衛であると同時に、リリアンヌの父親でもある。参加不参加を決めるのは、私だ」



「あなたには難しい話かもしれないですがな。精霊祭は、精霊のための祭りでしてね。主役が祈りの場に参加なさらないというのは、いかがなものか」



「そんなことは、関係ない。昨年まで何も問題なかっただろう。リリアンヌのことは気にするな」



「この、親馬鹿が…」



「あ?何か言ったか?」



「……」

リリアンヌは、ぎゅっと口を結んだ。



二人は、相当仲が悪いらしい。



スワハマの、父に対する物言いは聞いていても腹が立つ。


けれど、あの厳つい顔に睨まれても一歩も引かないところは、ある意味感心する。



今朝、父と客間へ向かうと、ルイージとアランフォースが待っていた。


だから、すぐ大聖堂へ行く日だと分かった。



父は、自分が護衛について行くとルイージに迫った。


ルイージはかなり渋っていたけれど、騒ぎを起こさないことを条件に、最後は交代を許可した。



少し…


ほんの、少しだけ。


アランフォースとの時間がなくなってしまったことが、残念だけれど。



でも、こうやってスワハマが現れた以上、父がいてくれて良かった。


ルイージもスワハマも、まるで相手側の動きを読んでいるみたいだ。


何か…お互い、探りを入れているのだろうか。



「リリアンヌ殿下。続きをやりましょうか」



「あっ…はい、アイラ様」


はっと、顔を上げた。



「先ほども説明した通り…解毒薬を作るには、このアタダラの花を必ず使用します」

アイラは手元に視線を落とし、淡々と言葉を続けた。



「体に溜まった毒素を排出する効能があるものですね」

リリアンヌは作業台の方へ向き直り、アイラが準備した皿の上へ視線を向けた。


鮮やかな黄色い花が、山盛りに置いてある。



「正解です。それから、血液を浄化する働きのあるアザサックの薬草と、このイジェシラルの花を少量、使用します」



「イジェシラルの花は…何の効能があるのでしょう」


どす黒い、紫色の花。


乾燥させてあるのに、ほんのりと甘い香りが漂っている。


どこか、まがまがしかった。



「それは、強烈な覚醒作用を引き起こす花です」



「きょっ、強烈…?」

リリアンヌはぎょっとして、イジェシラルの花から顔を離した。



「それくらいの量の匂いでは、害はありません」

アイラが、ふっと優しく微笑んだ。



「ですが多量に摂取すると心身に大きな影響を与えるので、取り扱いには注意が必要です」



「…はい」


最近、そういう薬草をよく扱う気がする。



「リリアンヌ殿下。これらの種類から、今日はどんな薬を作ろうとしているか分かりますか?」



「ええと…もしかして、睡眠薬を飲んだ時の解毒薬ですか…?」



「ええ、正解です。これから作るものは、睡眠薬を口にしてしまった場合の拮抗薬です」



「…拮抗薬」


そんな薬まで、必要だなんて。



「では、さっそく薬を作っていきましょうか」



「はい。…一回分はそれぞれ、このくらいでしょうか」



「ええ、お上手です。もう、配分については問題なさそうですね」


アイラは、薬草の効能を丁寧に説明してくれて、薬を作る配分まで教えてくれる。


シルヴィアといい、霊拝師(オランス)は皆、教え上手だ。


だいぶ、知識も身についてきた。



「おおっ…とうとう、ちからを使われますか」

スワハマが、アイラの後ろから顔を覗かせた。


どうやら、父との話は終わったらしい。



「アイラから、聞いておりますぞ。相当、ちからを送るのが上手になられたと」



「…ありがとうございます」

リリアンヌは前に顔を向けたまま、小さく答えた。



「スワハマ大教主。薬を作る作業は、かなりの集中力が必要となります」

アイラが、さっと口を挟んだ。



「この作業中の会話は、控えていただけますか」



「む…相分かった」

スワハマは、大人しく二人から数歩距離を空けた。


空いた場所に、ロデオがすかさず入り込んだ。



「…では、リリアンヌ殿下。お願いします」

アイラは、何事もなかったかのように乳棒を手に取った。



「はい。いつでも大丈夫です」

リリアンヌは、そっとアイラの背中に触れた。



二人の手先が、同時に白く光った。



「…おお…ほぅ、これが精霊の…」


後ろから呟く声を聞きながら、作業に神経を集中させた。



アイラは黙々と薬草を挽き、篩に掛けていった。


リリアンヌは背中に触れたまま、その作業に合わせて白のちからを送り続けた。



「…はい、ここまでです」


十分な量を細粉した頃、アイラが口を開いた。



「マコ、ハンナ。この後の作業をお願いしていいかしら」



「はい!」


傍に控えていた霊拝師たちが、元気よく返事をした。



「リリアンヌ殿下、今日もありがとうございました。この後は、いつものように書庫室へ行かれますか?」



「はい…!アイラ様には、お手数をおかけしてしまいますが」



「いいえ、問題ございませんよ。それでは、行きましょうか」



「書庫室へ?なぜだ?」



「リリアンヌ殿下は、大変勉強熱心でございます」

アイラは振り向き、スワハマに答えた。



「こうしてちからを貸してくださった後、書庫室へ向かわれ、書物をお読みになります。私も、分かる範囲で協力させていただいているのです」



「分かる範囲でだなんて…」

リリアンヌは、小さく首を振った。



「アイラ様は、いつでも丁寧に、いろいろなことを私に教えてくださいます」



「ふん…なるほど」


スワハマの目が、静かに細められた。



「…行きましょう、リリアンヌ殿下」



「はい…!ではスワハマ大教主、失礼します」

リリアンヌは小さくお辞儀すると、扉へ進むアイラに続いた。



それ以上、スワハマは何も言ってこなかった。



すごい。


アイラは、本当にすごい。



チャンの時も、そうだった。


アイラには、相手を黙らせる力がある。



それは自分の仕事に誇りを持っていて、邪魔する者を許さないからだ。


気高く、崇高な上級(フロース)霊拝師。



私も…何か、恩返しができればいいのだけれど――


助けてもらってばかりで、申し訳なかった。



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