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第一章Ⅱ(見えてきた現実と大きな勘違い)②

リリアンヌ視点



「リリィ。ぽかぽか茶は、お好きかしら?」


部屋に戻ると、シルヴィアが奥の調理場から盆を持ってやって来た。




「ぽ、ぽかぽか茶?」



「レモンを蜂蜜に浸けて、お湯で溶いただけの飲み物なのだけれど。あなたには、少し薄いかもしれないわ」

シルヴィアは木でできたコップをテーブルに置くと、「座って」と椅子を引いた。



「…ありがとう」

リリアンヌは、椅子によじ登るようにして腰掛けた。




「それから、これはえんどう豆の焼き菓子。さっき焼き上がったのよ」



「わ…すごい量」


目の前に、焼き菓子が山盛りに載った皿が置かれた。




「お腹は空いていない?パンもあるけれど、食べる?」



「…ふふっ」

思わず、笑みがこぼれた。



こうして世話を焼いてもらうのが、なんだか懐かしい。


前世を思い出したような感覚に、胸がじんわりと温まった。




「あら、本当に可愛らしいお嬢さんだこと」

シルヴィアはくすっと微笑むと、リリアンヌの前にそっと腰掛けた。




「シルヴィア、いろいろありがとう。パンは大丈夫」



「そう?それなら、お菓子をどうぞ」



「うん、ありがとう」


ほんのり緑がかった、丸い焼き菓子だ。


手に取ると、まだ少し温かかった。



「いただきます」



「ふふ…いい挨拶ね」



「あ…ええと」

リリアンヌは、誤魔化すように焼き菓子を口に運んだ。


前世のことを思い出していたせいで、つい食前の言葉を口にしてしまった。



「…!美味しい!」


えんどう豆の優しい甘みが、口の中にふわりと広がった。




「お口に合って良かったわ。まだたくさんあるからね」



「ぽかぽか茶も、美味しいです」



「そう、それは良かった。子供たちは、もっと蜂蜜を混ぜないと飲めないのだけれど」



「子供たち…?」



「ここは、孤児院も兼ねているの。あなたくらいの歳の子たちがいるわ」



「あっ、そうなの…?」


そのわりには、とても静かだ。



「もうひとつの建物にいるの?」



「ええ、そうよ」

シルヴィアは答えると、そっと表情を曇らせた。


「あの子たちに、祝福があればいいのだけれど…」



「…?」

リリアンヌは、不思議そうに首を傾げた。


シルヴィアの言葉の意味が分からなかった。




「おい、リリィ。お前は、ここへ何しに来たか覚えているか?」

隣にどかりと座っていたギタンが、口を開いた。




「あ…ええと」


そうだった。


尋ねたいことは、いっぱいある。

だけどその前に、今の状況をどう説明するべきか――



「白の使い手ということには、最近気付いたのかしら?霊拝師(オランス)に関することなら、それなりに答えられると思うわ」

シルヴィアが先に切り出した。




「こいつはな、霊拝師になりたくないんだと」



「え?」



「…今はまだ、なれない」

リリアンヌは、ギタンの言葉を気まずそうに訂正した。


なりたくないわけではない。

まだ、時間が欲しい。




「まだなれない…?どうしてかしら」



「あの、シルヴィア…さん」



「シルヴィアでいいわ」



「シルヴィア。…霊拝師になったら、もう家族には会えないの?」



「いいえ、そんなことないわ」

シルヴィアはすぐに答えた。


「確かに、霊拝師になったら、初めの一年はセスランディア大聖堂から出ることはできないの。それは今も変わらないはずよ」



「一年も…?」

リリアンヌは、わずかに眉をひそめた。




「でも、その後は二年に一度、長い休みを貰えるの。皆、そこで実家に帰っていたわ。ただし、護衛付きだけれどね」



「…騎士様の護衛?」



「ええ、そう。霊拝師を護る騎士団が、大聖堂にいるのよ」



「じゃあ…例えば今みたいに、ひとりで歩き回ることはできなくなるの?」



「そうねぇ…そうだったかもしれないわ」

シルヴィアは曖昧に答えた。


「でもさすがに、家の中まで入ってくるようなことはなかったわ」




「…そう」


護衛がつくのなら、こっそり抜け道を使うことはできないだろう。


それに、一年も家族に会えないのは、やっぱりつらい。




「霊拝師として働くのは、五十歳までと決まっているの」



「…あ、え?そうなの?」

リリアンヌは、はっと顔を上げた。


「そうしたら、その後は自由?」



「好きなように生きられる、という意味なら難しいわね。安全のためにも、護衛なしでどこかへ行くことは引退後もできないわ」

シルヴィアが静かに答えた。


「指導役として、引き続き大聖堂に残る者がほとんどかしら。あとは稀に、王都に住む貴族や、他領の領主様に雇われることもあるわ」




「何がそんなに危険なの…?」


病気や怪我を治すはずの使い手が、どうして危険な目に遭うのだろうか。




「白の使い手は、狙われやすいの…いろいろな意味でね」

シルヴィアが、悲しそうに微笑んだ。




「…いろいろな意味?」



「病気や怪我を癒せるちからというのは、不思議だと思わない?」



「あ…ええと、思います」

リリアンヌは、素直に頷いた。


だけどそれは、特別なちからを持つ者(アニマソムニア)全員に当てはまることだ。




「白の使い手はある意味、相手の命を握っていると言っても過言ではないわ」

シルヴィアは穏やかな表情のまま、静かに続けた。



「そんな存在を、不用意に町へ出してご覧なさい…そのちからを求めて、奪い合いが起きてしまうかもしれないわね」




「……」

リリアンヌは、困ったように口を噤んだ。


まだ、よく分からなかった。



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