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第一章Ⅱ(見えてきた現実と大きな勘違い)①

リリアンヌ視点



「ここだ」


ギタンが連れて来たのは、

抜け道近くの森を、第三城壁側へ進んだ先だった。



先ほどまでいた場所とは、まったく違う景色が広がっている。


緩やかな草原が続き、その周囲を、深い森が囲んでいた。

遠くには、町を護る高い城壁が静かにそびえている。



「こんなところに、病人や怪我人が来るの?」



「来るのは、貧民区の連中だけだな」



「そうなんだ…」

リリアンヌは辺りを見渡しながら、ギタンの後ろに続いた。



草原の中には、ぽつんと二軒の家が建っていた。



淡い白壁に、深い茶色の屋根。

傾斜の強い屋根には小さな窓が付き、

丸みを帯びた窓枠や、蔦の這う外壁が、どこか温かさを感じさせた。


低い木の柵に囲まれた庭には花が咲き、

端では、物干し竿に掛けられた布が風に揺れている。




ギタンは、木でできた低い門を開けると、手前の建物へと進んでいった。

ここが、薬療院なのだろうか。



カランカラン、と扉が小気味のよい鐘の音を鳴らした。



建物に入ると、壮年の女性がこちらに顔を向けた。


「お帰りなさい…あら、可愛らしいお嬢さんだこと」


柔らかい黄緑の、足首まである長衣に、白い前掛けを身につけている。

銀色の髪をひとつの三つ編みにして、胸元まで垂らしていた。


前掛けに、花柄の刺繍が入っているからだろうか。

とても家庭的で、優しそうに見えた。



「…こんにちは」

リリアンヌは帽子を外し、小さく頭を下げた。


すぐに女と見破られてしまった。




薬療院の中は、想像していたよりもずっと明るく、家庭的な空間だった。


入り口のすぐそばには、来客用の長椅子が扉の方を向いて置かれている。

その後ろには四人掛けの木製テーブルがあり、中央には小さな花が飾られていた。


天井近くには乾燥させた薬草が吊るされ、壁際には、収納棚がずらりと並んでいた。

棚の中には大小様々な瓶がいくつも置かれ、その合間には、本や道具が収められている。


テーブルの奥のゆるく仕切られた先には、調理場らしき場所が見えた。




「どうしたの?こんな子を連れて来て」



「こいつに直接聞いてくれ」

ギタンは答えながら、さりげなくマントで裂けた服を隠した。



「あら…ギタン、そのマントの切り口はどうしたの?…血も付いているわ」

女性の表情が、ゆっくりと曇った。


「あなたの血?怪我を見せて」




「もう、こいつに癒してもらった」



「え?」

女性は目を瞬かせながら、ギタンの指す方へ顔を向けた。



「…もしかして、霊拝師(オランス)様なのですか?」

視線を向けられたリリアンヌは、おずおずと尋ねた。




「もう引退しているわ。私のことは、シルヴィアと呼んで頂戴」



「あっ…ええと、私はリリィと言います」



「あなたも、白の使い手なの?」



「…は、はい」



「そうなの。私とお揃いね」



「…え?あ――」



「リリィ、焼き菓子でも食べる?」



「えっ」



「立っていないで、座りなさい。ああ、その前に手を洗ってきなさいな」

シルヴィアは棚まで進むと、中から重ねた布を取り出した。


「ギタン、傷は本当に平気なのね?」



「掠り傷だ」



「そう。それならリリィを井戸に連れて行ってあげて。あなたも着替えてきなさい」

そう言うと、取り出した布をギタンに手渡した。




「リリィ、行くぞ」



「…あ、うん」

リリアンヌは呆気にとられながらも、

ギタンに続き、入ってきたばかりの扉から外へ出た。




薬療院の入り口から少し脇へ逸れた一角に、小さな井戸が備え付けられていた。

周りには、木の盥や大きな甕が整然と並べられている。




「勝手にばらしちまって、すまなかったな」


上衣を脱いだギタンが、井戸水をバシャッと頭からかぶった。




「白の使い手だということを?」



「そうだ。だが、話を聞くなら言うのがてっとり早い」



「うん、そうだね」

リリアンヌは手を拭きながら、ギタンの後ろ姿をじっと見つめた。



腕や肩が、古傷だらけだ。

どうやらそれらの傷も、白のちからでは治せなかったらしい。


それに、すごく鍛えられている。

やっぱり騎士の人たちは、体のつくりが違う。



「大丈夫だ。シルヴィアは信用できる」

ギタンは体を拭き終わると、片手で器用に麻の上衣を頭からかぶった。



「…うん」


なんだかもう、シルヴィアの独特な雰囲気に惹かれていた。



「二人は、夫婦なの?」




「あ?何でそうなる」



「違うの?ギタンは、ここに住んでいるんじゃないの?」


棚からギタンの服が出てきたから、てっきり一緒に住んでいるのかと思った。



「俺の家は、菜園の奥にある小屋だ」

ギタンが指さしたのは、建物の裏側だった。


この二つ以外にも、まだ建物があるらしい。



「まあ、出かける時と寝る以外は、ほとんどこっちにいるな」



「……」


それって一体、どういう関係なのだろう。




「シルヴィアとは、ただの腐れ縁だ」

ギタンは血だらけの服と手拭いを雑に持つと、薬療院の扉に進んでいった。



「細かいことは、気にすんな」




「…うん」


ただの腐れ縁とは、どんな関係なのだろう。


余計、謎が深まってしまった。



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