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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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ひとすじの光②

届いた先に在るもの



体が――ひどく、重い。



頭が霞み、もう、目も見えない。


今、自分がどんな姿なのかも分からない。



手も足も、動かない。


感触もない。



苦しい。



苦しい。



それでも――このちからだけは、絶やしてはいけない。




「…ここに、いらっしゃいましたか」


五感のうち、唯一生きている耳だけが、声を捉えた。



「ああ…本当にお労しい…ちからが弱まり、こんなお姿になってしまわれた」


聞こえる声が、耳元に近づいた。



「もう、ちからはほとんど残っていないでしょう。

あなた様が封じていらっしゃるはずの瘴気も、“あれら”も、次々に逃げていく」


さく…さく…と、草を踏みしめる音が聞こえる。



「ここ――デューゼの森の西側にまで、瘴気が溢れてきている。

私がいるとはいえ…安全な場所とは言えなくなりました」


抱き上げられているというのに、揺れすら感じない。


何も、感じない。



「瘴気の封印が解け、この地に溢れ出るのも、時間の問題でしょう」


ただ――言葉だけが、心に浸透する。




「ですが…何も恐れることはありませんよ。私は何があっても、決してあなた様のお傍から離れないのですから」


語る声が、そっと恍惚を帯びた。



「もう、無理はしなくてよいのです。あのような奴らのために、あなた様が苦しむ必要などない。

たった数百年で世界をここまで壊した人間どもを…救う価値など、微塵もない」


今度は、怒りが滲んだ。



「ですから、安心してそのちからを解き放ってください。あなた様がどんなお姿になろうとも、私は愛し続けますから」


囁く声が、耳元から沈み込む。



「あなた様が創ったこの世界を…もう、手放しましょう――オーリア様」




――違う。



それは、駄目だ。


封印を解くことなど、できない。



“あの人”との、大事な約束のために。


決して、この世界を手放すことはできない。




「さ…着きました、オーリア様」


再び、声が離れた。



「ここでしたら、しばらく瘴気が届くこともありません。あと数年は、この場所から動かずとも問題ないでしょう」


何も、感じない。


どこに下ろされたのかも、分からない。



「あなた様のお声はもう、私に届きませんが…何を考えていらっしゃるかは、ちゃんと分かっております」


声の主が、今、どんな顔を浮かべているのかも分からない。



「人間どもに、あなた様の苦しみを存分に味わわせてやりましょう」


どんな感情を抱えているのかも――分からない。



「ふふっ…“その日”を迎えることが、楽しみで仕方ない。塵のごとく増えたあやつらが、どれほど逃げ惑うものか…」


真上から聞こえていた声が、少しずつ遠ざかった。



「人族だけではない。裏切り者のエルフも、無関心な獣人やドワーフも――」


遠ざかった声が小さくなり――


やがて、聞こえなくなった。




――違う。



そんなことを、考えてはいけない。


滅ぶ日が来ることを、望んではいけない。



そう、伝えたいが…


もう、その手段もない。



苦しい。


言葉が届かないことが、苦しい。




ふいに――頭の中に、合図が届いた。




また…これだ。



精霊を、感じる。


まだ、我々以外に存在している。



何かを伝えようとしているが、自分のちからが足りず、届かない。



助けを乞うているのだろうか。


救いを求めているのだろうか。



すぐにでも、ここへ連れて来てあげたいが…


もう、そんなちからも残っていない。



苦しい。


何もできないことが、苦しい。



苦しい――




突然――強烈な光が、胸に届いた。




「…!」


精霊を介して、どんどん光が入ってくる。


入ってきた光が体中に広がり、沁み渡る。



この、光は。


この、温かさは――




「……あ…」



“あの人”の――白のちからだ。



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