ひとすじの光①
リリアンヌ視点
「お嬢様ぁ~!そろそろ灯りを消しますよぉ?」
「ん…もう少し…」
リリアンヌは答えながら、カリカリとペンを走らせた。
「明日も早いのですから、夜更かしは禁物ですよ」
再び、後ろからニアの声が飛んできた。
「夜更かしって…まだ、十時だもの」
「お嬢様が眠らないと、私も休めません」
「!それは、駄目」
その言葉に、すぐに羽ペンを置いた。
「…うん、全部書けたかな」
本を持ち上げ、さっと目を通した。
今日の出来事は、思いつく限り書けたはずだ。
スノウを見つけてから、日記をつけるようになった。
こうやって残しておけば、後で何か思い出す手掛かりになるかもしれない。
ただ、毎日書くことが多すぎて、一か月でもう一冊目が終わってしまいそうだ。
「ニア、お待たせしてごめんなさい」
リリアンヌは日記帳を引き出しの中へ入れると、ベッドへ駆け込んだ。
「ランタンの灯り、頼んでいいかな」
「はい、もちろんですよ」
ふっと、灯りが消えた。
「それではお嬢様、お休みなさい」
扉が閉められ、さらに部屋の中が薄暗くなった。
枕元にいるスノウだけが、ほんのり淡く光った。
「…スノウ、お待たせ。おいで」
「ホ~」
リリアンヌはスノウを引き寄せると、白い光を浮かばせた。
日課になったことが、もうひとつ。
スノウに毎日、白のちからを送っている。
元気な状態で送ることに、意味があるかは分からない。
けれどスノウは、いつでも嬉しそうに白のちからを受け取る。
「ホ~…!」
スノウが、ばさりと羽を広げて揺らした。
「…ふふっ」
リリアンヌは寝そべり、愛おしそうに見つめた。
今のは、ありがとうの羽ばたきだ。
前より、スノウが何を考えているのか分かるようになった。
感情は特によく分かるし、何かを求めている時も察せるようになった。
だから――気が付いた。
スノウは、ずっと訴え続けている。
もっと加護のちからを使ってくれ、と。
「…だって」
だって、怖くて仕方ない。
試しに使ってみて、加減を間違えてしまったら?
それで“物語”と同じように、スノウが消えてしまったら?
そんなの…絶対に耐えられない。
もう、スノウと離れることなんて考えられない。
「『精霊の加護を授かった者は国に尽くし、有事の際は必ず参加すべし』――か」
とんでもない法律があったものだ。
まるで、精霊は国のものだと言っているようだ。
そんな法を、誰も疑問に思わなかったのだろうか。
「…可哀想」
リリアンヌは手を伸ばし、うとうとする精霊を優しく撫でた。
初代セスランディア王が亡くなってから、精霊が滅びたとされるその時まで。
四百年もの間、精霊狩りが行われ続けてきた。
ずっと人々に傷つけられて、追われて。
それでも、精霊たちは加護を授けてくれたというのに――
人間によって、消えていってしまった。
なんて残酷で、自分勝手。
精霊は、人間のためにいるわけではない。
『お前の肩にいるのは――異形の存在と、同じだ』
「……」
あの時は、勢いのままに国王の言葉を否定したけれど…
異形の存在の正体が何なのかは、“物語”でははっきりと描かれていない。
三体だけ、正体の分かっている異形の存在が出てくる。
そのうちの二体が、精霊王オーリアと、側近ヌシカだ。
二年後――精霊王は、瘴気に飲み込まれて異形の存在になってしまう。
“デューゼの森の悪夢”は、そこから始まった。
デューゼの森で――今、精霊王は何を思っているのだろうか。
もう、取り返しのつかないくらい深く人間を憎んでいるのだろうか。
精霊を虐げてきた人間を――滅ぼすべきだと、思っているのだろうか。
「ホ~…」
スノウが、眠そうに一鳴きした。
「…ごめん。寝ようか」
リリアンヌはスノウから手を離し、そっと布団に潜り込んだ。
せめて…私と、スノウだけは。
ここだけでも、精霊と人間が共生できれば。
祈り、
願い――
目を閉じた。




