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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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セスランディア大聖堂⑧

リリアンヌ視点



「…勝手をして、申し訳ありませんでした」


長い階段へ差し掛かった時に、ぽつりとアイラが口を開いた。



「!いいえ…!こちらこそ、ごめんなさい」


思わず、ぶんぶんと首を振った。



「アイラ様を巻き込んでしまって、ごめんなさい…!」


アイラは、私を護ってくれた。


すべて加護のちからによる協力だと、話を合わせてくれた。



「謝る必要はありません。私がそうしたかっただけです」

アイラは淡々と答えた。



「…アイラ様は、私を咎めないのですか…?」

リリアンヌは、おずおずと隣を見上げた。



「リリアンヌ殿下を?どうしてでしょうか」



「私が…その…白の使い手だということに、気付いていらっしゃるのですよね…?」



「…ええ。先ほどの件で、確信しました」

アイラは足元に視線を落とし、長い階段をゆっくりと進んだ。



「それならば…霊拝師(オランス)になるべきだと、咎めないのですか?」


話を合わせてくれたことは、本当に助かった。


けれど白のちからを持っているのに隠しているなんて、霊拝師からしたら許しがたい行為ではないのだろうか。



「私が白の使い手だと…スワハマ大教主に、報告しないのですか…?」


どうしてアイラが、内緒にしてくれるのか。


その理由が、分からない。




「そんなことをしたら…リリアンヌ殿下は、ここに閉じ込められてしまいます」



「…!」

リリアンヌは、はっと息を呑んだ。



「ここにいては…できることもできなくなってしまいます」


階段に目を向けるアイラの表情には、わずかに影が差していた。



「リリアンヌ殿下は四百年ぶりに精霊様を見つけ、加護を授かりました。きっと、何か大きなお役目を背負っていらっしゃるのでしょう」



「…あ、その…」



「無理にお話していただかなくて、結構です。それに、私はリリアンヌ殿下が白の使い手だということを、誰にも言う気はありません」



「…どうして…そこまでしてくださるのでしょうか」


どうしても、尋ねずにはいられない。



アイラとは、まだたった数回しか会っていない。


ちゃんと会話をしたのも、今が初めてだ。



それに――私は、アイラに対して嘘をついた。


それなのに、どうしてここまで協力してくれるのか。



「先ほど言ったことが、すべてです。リリアンヌ殿下は、何か大きなものを背負っていると私は感じ取りました」

アイラは、ゆっくりと顔をリリアンヌに向けた。



「それを、我々が邪魔するべきではないと。そう判断しました」


その目は、どこまでもまっすぐだった。



「……」


とても…綺麗だ。


綺麗で、まっすぐで――強い。



「…霊拝師たちは皆、純粋で良い子ばかりです」

アイラは、再び下りる階段へ視線を落とした。



「ですが…彼女たちは何の疑問も持たず、ありのままをスワハマ大教主や聖務官へ報告します」



「…はい」



「私は、後輩たちのことも護りたいのです。こんな言い方しかできず申し訳ないのですが…あまり、後輩たちには近づきすぎないでください」



「いいえっ…アイラ様のおっしゃりたいことは、よく分かります」


例えば、あのままクローやミュラに協力していたら。



二人はチャンに捕まり、根掘り葉掘り質問攻めにされていたかもしれない。


スワハマにも呼び出され、どうだったか報告しろと言われていたかもしれない。



「…アイラ様。本当に、ごめんなさい」


その嫌な役を、押しつけてしまった。



「気になさらないでください。私は、国一番の白の使い手なのですから」



「!」



「その立場は…意外と役に立つのですよ」

アイラは、ふっと優しく微笑んだ。



「アイラ様…」


なんて格好良いのだろう。


なんて、頼りになるのだろう。



話しているうちに、長い階段の麓に辿り着いた。


階段の下では、来た時と同じように馬車が待っていた。



「リリアンヌ殿下…おひとつだけ、約束してくださいませんか?」


馬車の前で、アイラが屈んで顔を近づけた。



「はい、なんでしょうか」



「いざという時は…そのちからを、貸してくれますか」

アイラは、真剣な表情を向けた。



「本当に民が困っている時は…その時だけは、どうか迷わずリリアンヌ殿下のその素晴らしい白のちからを使っていただけますか」



「もちろんです」

リリアンヌは即答した。



「そのための、ちからです」



「…また来週、お待ちしておりますね」

アイラは小さく微笑むと、そっと姿勢を正した。



「アランフォース副団長も、また」



「…ええ」


アランフォースは静かにアイラへ目礼すると、馬車の扉の前に立った。


リリアンヌは差し出された手を取り、馬車に乗り込んだ。



すぐに窓に寄ると、外にいるアイラへ顔を向けた。


アイラは小さく手を上げ、そのまま馬車が動き出すまで見送ってくれた。



遠ざかる姿を、リリアンヌはいつまでも目で追い続けた。



美しくて、優しくて――強くて、芯がある。


あんな大人に、なりたい。


あんなふうに、気高くいたい。



こんなに誰かを憧れることなんて、初めてだ。



「…良かったですね」



「…あ」


ふと落ちた声に、リリアンヌは窓から目を離した。



「…お話は、聞こえていましたか?」



「ええ…私は、耳が良いので。申し訳ありません」

アランフォースは、そっと頷いた。



「いいえ。アランフォース副団長になら、聞こえてもいいと思って話していました」



「随分と、心強い味方ができましたね」



「はい…!」

リリアンヌは、嬉しそうに頷いた。



「すごく…頼もしいです」


今朝まで、大聖堂へ通うことが不安で仕方なかったのに。


アイラが毎回待っていてくれると思うと、むしろ心が温かくなる。



「…なんだか悔しいですね」



「えっ…何がでしょうか…?」



「私の方が、先にあなたの協力者になったはずです」

アランフォースはわずかに眉を寄せ、静かに言った。



「今日は、私の時より嬉しそうに見えます」



「あっ、アランフォース副団長も、とっても頼りになります…!」

リリアンヌは、すぐに返した。



「…それではまるで、言わせたみたいではないですか」



「い、いいえ…!本当に!」


どうして悔しいのかは、よく分からないけれど――



「アランフォース副団長が一緒に大聖堂へ来てくださって、本当に嬉しいのです…!」


ちゃんと伝えなくては。



「傍にいてくださるだけで、その、本当に…」

言いながら、思わず顔を赤くした。



これではまるで、傍にいてほしいと言っているようなものだ。


副団長を相手に、言うようなことではない。




「存外…嬉しいものですね」


アランフォースの目が、ゆっくりと和らいだ。



「…もっと、私を頼ってください」



「…はい」

リリアンヌは顔を赤くしたまま、そっとアランフォースを見つめた。



“物語”では、絶対に見ることのできなかった表情――


この、優しい顔を。



「頼りにしています…アランフォース副団長」


できる限り、心に残しておきたかった。



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