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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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セスランディア大聖堂⑦

リリアンヌ視点



「えっ…アイラ様が薬を作られるのですか?」

ミュラが、声を弾ませた。



「ええ…この場所を借りるわ」


アイラは作業台に近づくと、乾燥した薬草を手早く皿の上に並べていった。



「リリアンヌ殿下…今、この国では慢性的に痛み止めの薬が不足しています」



「…炎症や痛みを鎮める薬ですか?」

リリアンヌは、そっと口を開いた。



「その通りです。よくご存知ですね」



「……」


アイラが選んだのは、シルヴィアが静痛薬を作る時に使った薬草とまったく同じものだった。



「薬を飲んだだけで“完治”することは、まずあり得ません」



「…えっ?」



「ですが、こうして薬草へちからを送ることで、その効果を高めることができます」

アイラは手元を動かしながら、淡々と説明を続けた。



「……」


シルヴィアと、同じだ。



薬だけでは、完治させることはできない。


そこを間違えるなと、アイラは教えてくれている。



「さっそく、やっていきましょう」



「あっ…はい」

リリアンヌは、アイラの横に急いで並んだ。



「私はこれらの道具を使い、薬草を粉状にしていきます。その作業をしている間に白のちからを送りますので、どうぞちからをお貸しください」


アイラの手には、乳棒が握られている。


薬療院では石製のものが使われていたけれど、ここでは真鍮製だ。


台の上に置かれる乳鉢や篩の方には紋章が入っていて、かなり高価そうだった。



「では、リリアンヌ殿下。お願いできますか」



「…失礼します」


そっと、アイラの背中に触れた。



念じ間違えれば、また薬草を育ててしまうことになる。


薬草を粉状にさせる、と何度も頭に言い聞かせた。



「…行きます」


アイラの手先が――ふわりと白く光った。


それに合わせ、リリアンヌは白のちからを送った。



光が、一気に広がった。



「…!」


周りの者たちが、息を呑んだ。



――この薬を飲む人の痛みが、軽減されますように。



心で願いきると同時に、アイラが篩を手に取り、荒いものだけを乳鉢の中へ戻した。


乳棒を手に取り、また手先を白く光らせた。



――どうか、痛みを軽減して。



溢れる光が、再び広がった。


アイラは何も言わないまま、篩に掛けた薬草をひとつの皿にまとめていった。



今度は別の薬草が載った皿を持ち上げ、素早く乳鉢の中へ入れた。


また、白のちからを使う時だ。



――痛みが、和らぎますように。



篩を掛けて、荒い粉だけ乳鉢へ戻す。


白のちからを使うタイミングが、目を閉じていても分かった。



アイラの心臓辺りの光を、強く感じる。


自分の手先から溢れる光が、その光と混ざり、少しずつ小さくなっていく。



これは、シルヴィアとの時も感じた。


異形の存在(ゼノプーパ)と繋がった時にも、感じた。



この光は――(コル)だ。


この光があるうちは、まだまだちからが使えそうだ。



アイラが、何度目か分からない薬草の交換を行った。


その間も、心の中で願い続けた。


やがて――



「…終了です」


アイラの声と共に、二人の光がふっと消えた。



「ひゃぁっ…すごい…!」

ミュラが、感嘆の声を上げた。



「一週間分の薬の量が、出来上がってしまいました…」

クローが唖然としながら、台の上に視線を落とした。



アイラの手元には、粉になった薬が、各皿にこんもりと置かれていた。



「すごい…!」


「加護のちからとは、ここまで…」


周りで見守っていた侍者(サーヴァ)たちも、次々と声を上げた。




「…これが、能力増幅のちからだとぉ…?」



「!」


ねっとりとした声に、リリアンヌはびくりと体を震わせた。



「これは、どう見ても――」



「リリアンヌ殿下の加護のちからは、本物ですね」


チャンの言葉を打ち消すように、アイラがきっぱりと言った。



「私ひとりでは、こんなにも薬を作れませんでした」



「…アイラ様の、ご協力のおかげです」

リリアンヌはじっとアイラを見つめながら、慎重に答えた。



「…アイラ殿」



「はい、なんでしょうか。チャン文官」



「あんたは、自身のちからが強まった感覚があったのか?」



「ええ。しっかりと感じました」



「ふん…しっかりとねぇ…」

チャンは言いながら、粘りけのある視線でリリアンヌを見やった。



「プージさん…こちらの薬を、皆様で小分けして包んでくれますか」

アイラはチャンを無視し、侍者を呼んだ。



「はっ…ええ、それくらいお任せください」

呼ばれた侍者が、慌てて頷いた。



「クロー、ミュラ。包装が終わったら、記録をつけて、保管庫の方へ運んでおいてもらえるかしら」

アイラは、淀みなく指示を続けた。



「…それは、もちろんですが」

クローは、ちらりとリリアンヌに視線を向けた。



「今日私は、リリアンヌ殿下の案内を任されております」



「後は、私が引き継ぐわ」



「えっ」



「リリアンヌ殿下。週に一度、我々のお手伝いをしていただけるとスワハマ大教主より聞いております」

アイラは、リリアンヌへさっと体を向けた。



「私のちからが、一番効率よく薬を作ることができます。これからも、私にちからを貸してくださいますか?」



「…は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


アイラは――ずっと、強調している。


自分だけに加護のちからを使ってくれと、周りに強調してくれている。



「では、そのようにスワハマ大教主に伝えておきます。リリアンヌ殿下、お疲れでしょう。今日はもう、お帰りください」



「おい、アイラ殿!」

チャンが、むっと声を上げた。



「なんでしょうか。私も、これだけの量の薬を作った時は休ませてもらいますが」



「なんで、あんたが勝手に決めてんだ」



「スワハマ大教主もオドバ大院長も不在の時は、私が代理として任されております」



「…ちっ…峠を過ぎた年増が」



「チャン文官…!アイラ様に向かって、なんということをっ」



「相手にする必要はないわ、クロー」

アイラは静かに首を振ると、再びリリアンヌへ顔を向けた。



「リリアンヌ殿下、行きましょう」



「…あ、はい」

リリアンヌは呆然としながら、小さく頷いた。



「アイラ様、では、ブルック団長を」



「ミュラ、気にしないで。大聖堂内で護衛は要らないわ」


アイラはそう言うと、「どうぞ」と入り口を示した。



「馬車の前まで、お送りいたします」



「……」

リリアンヌは入り口に向かいながら、ちらりとチャンの方を振り返った。


アイラを睨んでいたけれど、もう何も言ってこなかった。



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