表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
163/223

セスランディア大聖堂⑤

リリアンヌ視点



「あの高い位置に孤立して見える建物は、医療学校です。

あそこへは、本堂の脇から伸びる細い階段からしか行けません」


クローは、大聖堂の入り口から見える建物を丁寧に説明していった。



「あそこで、将来療師(メディクス)になる方たちが学んでいるのね」

リリアンヌは、クローの視線の先を追いながら言った。



「ええ、おっしゃる通りです。あの学校を卒業した者たちが、療師や薬師(メイディ)として各地の治療院や薬療院で働いています」



「医療学校の隣にある、あの小さな建物は?」



「あれは、学校に在籍する者たちの寮です。

ちなみに…本堂の奥に見えるあの三階建ての建物は、我々霊拝師(オランス)が生活している宿塔です。


クローは指し示す先を、本堂の左側から右側へ移した。



「さらにその隣の小さな建物には侍者(サーヴァ)が生活していて、我々を支えてくれています」



「…!」


侍者――


霊拝師の作った薬を、霊拝師以外に唯一扱える職業の人。



「リリアンヌ殿下、こちらへ」


クローが、長い階段をゆっくりと下りて先導した。



「この階段の脇に続く建物には、すべて典礼に関わる道具や書物が収められています。

今は静かですが、典礼の前後は、多くの聖職員が出入りします」



「てんれいって…ええと…宗教の行事のことでしょうか?」



「大変失礼しました。簡単にいうと、祈りや儀式をまとめた言葉です」



「たとえば、精霊祭のような?」


つい先ほど知ったばかりの行事を口にした。



「ええ。精霊祭は、重要な儀式のひとつです」



「精霊祭の時は、一か月前からこの辺りが騒がしくなるんです」


クローの言葉に、ミュラがこそりと付け足した。



「へぇぇ…」


国王も来るのだから、相当大きな儀式なのだろう。



「あの横にある長い建物は、書庫室です。宗教や精霊に関する書物が多く置かれています。

それから…その脇の小さな建物は、記録管理室といって、監査官たちが働いています」

クローは歩きながら、穏やかに案内を続けた。



「いろいろな建物があるのね…」


すべて覚えなくてはいけないとなると、かなり大変だ。



「ここには様々な施設があり、それらすべてを総称してセスランディア大聖堂と呼ぶのです」



「あ…なるほど」


騎士の住まう通りを騎士の塔と呼ぶことと、少し似ている。



「…あの、クロー。大聖堂には、どんな職業の方がいらっしゃるのかな」


ふと気になり、尋ねた。



辺りには、誰も人がいない。


本堂でも、数人すれ違った程度だ。



「聖職者以外でしたら、聖務部の文官が出入りを許されています。

それから、ここを護る騎士や兵士がいらっしゃいます」



「ん…?出入りを許されている…?」

リリアンヌは、小さく首を傾げた。



「セスランディア大聖堂は普段、許可がなければ国王以外は入ることができません」

クローは前を見たまま、淡々と答えた。



「自由に出入りが可能なのは、聖職者と聖守護騎士団の方々だけです。そうは言っても、我々霊拝師は外出の際は許可が必要ですが」



「……」


シルヴィアに聞いていた通りだ。


霊拝師は、簡単には外へ出られない。



「…霊拝師様は今、何名いらっしゃるのでしょうか?」


二十名くらいだとは聞いていたけれど。



「現在は、二十二名が在籍しています。男が八名、女が十四名。

引退した者も含めれば、三十名ほどになると思います」



「…三十人」


白の使い手は、二千万人が住むセスランディア王国に三十人しかいない。



「ただ、二十二名全員が大聖堂に揃うことはほぼないのです」



「えっ、そうなのですか?」



「はい。我々は、常に各地を巡礼しておりますから」



「巡礼して…各地で、傷病者を診ているの?」



「ええ、そうですよ。症状に合わせ、その場で薬を作ることもあります」

クローが説明を続けながら、足を止めた。



「最後が、こちらの建物…聖療院です」

そう言って、目の前の大きな建物を指した。



「薬を調合する場で、我々霊拝師は、主にここで働いています」



「聖療院…」

リリアンヌは、ゆっくりと建物を見上げた。



治療院でも、薬療院でもなく――聖療院。



白く高い壁に覆われている。


本堂くらい大きいのに、入り口の扉は小さく、閉鎖的だ。


どこか、軍事施設のようにも見えた。



「リリアンヌ殿下には、その…薬を作る手伝いをしていただけると、スワハマ大教主から伺っているのですが」

クローが、遠慮がちに尋ねた。



「…はい。どこまでお力になれるかは、分かりませんが」


そうか。


傷病人を診るのは、各地にある治療院や薬療院。


大聖堂に、傷病人が訪れることはない。


それなら自分にできるのは、薬を作ることくらいだ。



「では…さっそくですが、お願いします」


クローが聖療院の入り口に進んでいった。



「…あ」



「どうしましたか?」


小さく声を漏らしたリリアンヌに、ミュラがすかさず尋ねた。



「あっ…いいえ…ごめんなさい」


入り口前に立つ人たちを見て、思わず驚いてしまった。



白の軍装コートに、煌びやかな剣の鞘。


先ほど大聖堂前に立っていた兵たちとは、格好も体格も違う。



――聖守護騎士団(サークラグラディウス)だ。



聖療院の入り口を護る騎士たちの視線が、リリアンヌたちへ向けられた。



「リリアンヌ殿下、どうぞ」



「…ええ」


クローに促され、入り口の扉をくぐった。



視線は向けているけれど、止められはしない。


私が訪れることは、事前に騎士たちにも伝えられていたようだ。



「……」


ふと気になり、小さく後ろへ振り向いた。



白の騎士の間を、真っ黒な軍服を着たアランフォースが通り抜けた。



その一瞬だけ――ぴりっと空気が変わった気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ