セスランディア大聖堂③
リリアンヌ視点
「…な、なんでしょうか」
討伐の時も、そうだった。
アランフォースは、瞳を覗き込むようにじっと見つめてくる。
「大聖堂で、白のちからをお使いになるつもりでしょうか」
「…はい。できれば、加護のちからは使いたくありません」
リリアンヌは、小さく頷いた。
「精霊が消えてしまうから、ですか」
アランフォースは、まっすぐに目を向けたまま尋ねた。
「…はい」
「ですが、霊拝師に殿下が白のちからを持っていることを勘づかれる可能性がありますよ」
「…やっぱり、無理のある嘘なのでしょうか?」
「白のちからのことはよく分かりませんが…きっと、自分のものとは違うと分かるのでしょう」
「そう…ですよね…」
アランフォースいわく、アイラは、私が白のちからを使ったことに気付いている。
前回は話を合わせてくれたけれど、今回は分からない。
というより、どんな形で霊拝師を手伝うのかも分からない。
それならアランフォースの言う通り、白のちからは使わない方がいい。
――でも。
「…加護のちからを、まだ使ったことがないのです」
リリアンヌは、白状するように呟いた。
「だから…使い方が、まだ分からない」
結局、異形の存在を“弱体化”したのは白のちからだ。
スノウの加護によって、白のちからを底上げしてもらったからできた。
兵士たちを一気に治せたのも、そのおかげだ。
「…?ですが、異形の存在を押さえ込んだ時にそのちからを使ったでしょう」
アランフォースは、小さく首を傾げた。
「いいえ…あれは、白のちからによるものです」
アランフォースになら…正直に言っていいだろう。
「スノウのおかげで、自分のちからを底上げできたから押さえ込めました」
「…加護は、そんなこともできたのですね」
「…あの、このことは」
「分かっています、誰にも言いません」
言い切る前に、アランフォースが素早く言った。
「では、あの文官が言っていたことは、的外れとも言い切れないのですね」
「能力増幅のちからの話ですね」
リリアンヌは、こくりと頷いた。
「ちからの底上げとは別に、思い当たるところがありました」
「…加護のちからを使ったことがないのに、思い当たるのですか?」
アランフォースの声が、微かに低くなった。
「……」
しまった。
つい、口が滑った。
能力増幅のちからが思い当たったのは、“物語”の知識からだ。
「…スノウが、そういうちからだと言っている気がするのです」
リリアンヌは、そっと口を開いた。
「…それならば、殿下がアイラ殿におっしゃったことは、すべて嘘というわけではなかったのですか」
「はい…」
「……」
アランフォースは、探るようにリリアンヌを見つめた。
「……」
その視線に耐えられず、再び窓の外へ目を向けた。
もう、知らない景色だった。
嘘に嘘を重ねて、
どこまで話していいのか、分からなくなっている。
アランフォースに“物語”の内容をすべて伝えられたら、どれだけ楽か。
いっそのこと、“デューゼの森の悪夢”が起こることを話してしまおうか。
…話して、どうなる?
信じるとは言ってくれたけれど、
だからといって、事前に防げるわけではない。
それとも…
アランフォースなら、一緒にデューゼの森まで原因を探りに行ってくれるだろうか。
…それで、どうなる?
たとえ原因に辿り着けたとして――
最後の敵である精霊王オーリアを、倒せるとでもいうのか。
それに…アランフォースは、国王直属騎士団の副団長だ。
襟元に付ける三連のサファイアは、ウェイバーよりさらに二つも階級が上ということを表している。
騎士の中でも、選び抜かれた存在だ。
このままいけば父の跡を継ぎ、総長になるのだから当然だろう。
そんな人を…やっぱり、これ以上巻き込むわけにはいかない。
結局…できることは、変わらない。
とにかく、情報を集める。
少しでも異形の存在を倒せるように、白のちからを鍛えるしかない。
そういう意味で、今回大聖堂で白のちからを使えることは好機かもしれない。
使えば使うほど、ちからは鍛えられるのだから。
「…リリアンヌ殿下、着きました」
「…あ」
いつの間にか、馬車が止まっていた。
「どうぞ」
「…ありがとうございます」
アランフォースの手を借り、ゆっくりと馬車の外へ降り立った。




