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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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セスランディア大聖堂②

リリアンヌ視点



いつも父に送ってもらっていた客間まで、護衛に見守られながら向かった。


客間の前に着くと、ウェイバーとゲイソンは扉の脇で足を止めた。



「…失礼します、リリアンヌです」

リリアンヌは小さくノックして、ゆっくりと扉を開けた。



「おはようございます、リリアンヌ殿下」



「!」


すでに、ソファでルイージが待っていた。


扉を閉め、急いでソファまで駆けた。



「おはようございます、ルイージ宰相。遅くなってしまって、申し訳ありません」



「え?…ああ、いえ。あなたは、いつも通りです」



「ええと…今日は、何のお話を――?」


気配を感じた気がして、ぱっと振り返った。



「…えっ!」

リリアンヌは、びくりと肩を強張らせた。



「……」


壁際に控えていた騎士――アランフォースが、静かに目礼した。



「リリアンヌ殿下。今日はさっそく、セスランディア大聖堂へ行っていただきます」



「は…え…?」


ルイージの言葉に、思わず間の抜けた声が出た。



「着いて早々恐縮ですが、これから馬車で向かっていただけますでしょうか」



「え…ええと…ウェイバーたちは?」



「ウェイバー…?…ああ、護衛の方たちですね。大聖堂へ向かわれる日はアランフォース副団長と交代だと、事情を知っています」



「…ほ、本当に」


本当に、アランフォースが護衛をしてくれるなんて。



「本日は、大聖堂からそのままご帰宅ください。屋敷まで、アランフォース副団長がお送りします」



「…大聖堂へ行ったら、何をすればいいのでしょうか?」


はっと気付き、アランフォースからルイージに視線を移した。



「誰に、声を掛ければいいのでしょうか」



「本日リリアンヌ殿下が向かわれることは、もう大聖堂へ知らせを入れています。入り口で案内の者が待っているはずです」



「…わ、分かりました」



「私もついて行ければ良かったのですが…申し訳ありません」



「いいえ…ルイージ宰相、いろいろと手配していただいて、ありがとうございます」


自分で行くと決めた。


心細いけれど、そこまでお世話になるわけにはいかない。



「どうか…気を付けて行ってきてください」

ルイージが、そっと立ち上がった。



「それでは、また明日」


それだけ言うと、すぐに扉へ向かい、客間を後にした。



「……」



「…殿下、行きましょう」



「あ…あの、アランフォース副団長。今日は、お手数をおかけします」

リリアンヌは、はっと言葉を返した。



「その…昨日ぶりですね」



「…ええ、昨日はお疲れ様でした」

アランフォースは、短く答えた。



「…アランフォース副団長も、お疲れ様でした」


昨日もずっと一緒だったけれど、ちゃんと話すのは討伐以来だ。


なんだか、気恥ずかしい。



「ええと…馬車に乗ればいいのでしょうか?」


だけど、今はとにかく、大聖堂へ向かわなければ。



「ええ、どうぞ」

アランフォースが、音もなく扉を開けた。



「…ありがとうございます」

リリアンヌは、小走りで扉へ向かった。



扉の外側には、もう誰もいなかった。


ウェイバーたちは、ルイージと共に行ってしまったようだ。



「……」


恐る恐る、廊下を進んだ。



すぐ後ろから、アランフォースがついて来ている。


他の護衛たちと同じはずなのに、なぜだろう。


すごく不思議な感覚だ。



足を進ませているうちに、あっという間に入り口まで戻ってきた。


先ほど降りたばかりの馬車の前に、御者が短い階段を付けて待っていた。



「お気を付けて」



「はい。ありがとうございます」


アランフォースの手を取り、再び馬車へ乗り込んだ。



すぐにアランフォースも乗り込み、


大剣を背中から外して、静かにソファの脇へ立て掛けた。



馬車がゆっくり動き出し、大剣が微かに揺れた。



「……」


なんだか、落ち着かない。


ウェイバーたちとは、また違う緊張感だ。



「…セスランディア大聖堂までは、どれくらいかかるのでしょうか」

リリアンヌは、そっと口を開いた。



「ここから二十分ほどです」

アランフォースが素早く答えた。



「アランフォース副団長は、大聖堂へ行かれたことがあるのですか?」


あまり、話しかけない方がいいのだろうか。


でも、沈黙に耐えられそうにない。



「ええ。陛下と共に、何度か。年に一度は、必ず行きます」



「必ず?どうしてですか?」



「精霊祭では、セスランディア大聖堂での祈りから始まりますから」



「精霊祭…?そんな祭りがあるのですか?」

リリアンヌは、わずかに身を乗り出した。



「ええ、毎年五の月に行われる大きな祭りです」



「どんな祭りなのですか?」



「うまく説明できませんが…死者を弔う、一種の行事のようなものです」



「そうなのですね…」


想像していた祭りと、少し違うようだ。



「…申し訳ありません。祭りの詳細は、ルイージ宰相にでも聞いてみてください」



「あっ…いいえ、教えてくださってありがとうございます」


アランフォースを困らせてしまった。



「ホ~」



「!」


スノウが肩から離れ、窓際の縁に移動した。



「窓際が、お気に入りなんだね」



「ホ~」


窓の外の景色は、まだ第一城壁内のものだった。



「……」

リリアンヌはそのまま、ぼうっと窓の外へ目を向けた。



王都で、どんな行事があるのかも知らなかった。


貧民区へ行っていた時も、そんな話を聞いたことがない。



いや…貧民区へ行き始めたのは、六歳の十の月。


行けなくなってしまったのは、七歳の四の月。


ちょうど、精霊祭を逃してしまった。



今は――八歳の、十の月。


白のちからがあると分かってから、二年経った。



一の月になれば、九歳となる。


そうしたらあと二年で、この国は異形の存在(ゼノプーパ)の大群に襲われることになる。



もう…あと、二年しかない。


もっと、情報が欲しい。



異形の存在のことだけじゃない。


デューゼの森のことも。


精霊王オーリアのことも――



「…!」


視線を感じ、はっと顔を正面に向けた。



「……」


アランフォースが、じっとこちらを見つめていた。



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