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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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セスランディア大聖堂①

リリアンヌ視点



「おはようございます、リリアンヌ殿下」


エラドリオール邸の門の前で、昨日と同じ護衛たちが待っていた。



「おはようございます、ウェイバー…様、ゲイソン様」

リリアンヌは、二人に向かってお辞儀した。



「よく…我々の名をご存知で」

ウェイバーが、小さく目を瞬いた。



「ですが、敬称は不要です」



「…はい」


兄に歳の近そうなフーリンたちなら、ともかく。


父に歳が近そうな騎士を呼び捨てにするのは、少し抵抗がある。



「殿下、どうぞ」



「ありがとうございます…ゲイソン」


ゲイソンの手を取り、馬車へ乗り込んだ。


すぐに護衛たちも腰を下ろし、馬車が動き出した。



「……」


そういえば…家族のいない馬車に乗るのは、昨日の帰りが初めてだった。


昨日はいろいろ考えていたから気にならなかったけれど…


少しだけ、緊張する。



「…強面二人との馬車は、不安でしょう」



「えっ」



「娘にすら怖がられる顔です。笑顔のひとつでも、作れればいいのですが」

ウェイバーが、表情を変えずに言った。



「無理でしょうが…どうか、緊張なさらないでください」



「…ウェイバーには、娘さんがいらっしゃるのですか?」


騎士たちにも家族がいるのだと、なぜか驚いた。



「リリアンヌ殿下と、同じ年の娘がいます」



「へぇ…!いつか、会えるかな」



「…もしお会いできる機会があるとしたら、成人してからでしょう」

間を置いて、ウェイバーが静かに答えた。



「娘さんは、王都に住んでいるのですか?」



「ええ。町に家を構え、家族全員で住んでおります」



「町の方に?騎士様は、騎士の塔に住まなくていいの?」



「騎士塔通りにある家は、仮住まいのようなものです。帰れる時は、町にある家へ帰ります」



「仮住まいにしているのは既婚の騎士だけで、独り身は皆、騎士の塔で生活しています」

ゲイソンが、ウェイバーの言葉に付け足すように言った。



「あの…国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)では、どれくらいの方が結婚されているのですか?」


ふと、気になってしまった。



「…今は半分くらいか?」



「いや…三十もいないだろう」



「そんなものか…?」



「ここ数年で、一気に若返ったからな」


ウェイバーとゲイソンが、素早く囁き合った。



「…変な質問をしてしまって、ごめんなさい」


また、答えにくいことを聞いてしまった。



「ああ…いいえ、すぐに答えられず、お恥ずかしい。あまり、個人的な話を同僚としないのです」

ウェイバーが、小さく苦笑した。



「騎士団の皆様で、お酒を飲んだりはしないのですか?」


そういう場で、個人的な話をするものだと思っていたけれど。



「いや…ないですね」

ゲイソンがふっと笑みをこぼした。



「酒好きな奴は多いですが、非番の時にまで顔を合わせて飲みたいと思いません」



「遠征でどこか泊まる時も、一緒に飲んだりしないの?」



「ああ…まあ、そういう時くらいでしょうか」



「いや、最近の若い奴らは、訓練後に町で集まって飲んでいるらしい」

ウェイバーが首を振った。



「町までわざわざ飲みに行っているのか?元気だな…」

ゲイソンが、小さく眉を寄せた。



「まだ十代だ。元気なんて、いくらでもあり余っているだろう」



「はあ…信じられん。年寄りには真似できないな」



「二人だって、まだ若いのに」


思わず、あはっと笑みがこぼれた。



「年寄りって年齢では、ないでしょう?」



「若い、ですか」

ウェイバーが、困ったように微笑んだ。



「我々は、とっくに三十を超えています。あなたの御父上と同年代ですよ」



「でも、二人よりも年上の騎士様だっているのでしょう?」



「そうですね、上は四十九歳までいます」



「五十歳で、引退なのだっけ?」



「ええ、私はまだ十五年ほどあります。生きていればの話ですが」

ウェイバーが、何気なく答えた。



「…生きていれば」



「…申し訳ありません。少し、余計な話をしすぎました」



「いいえっ…たくさん教えてくださって、ありがとう」

リリアンヌは、慌てて首を振った。


しまった。


つい、反応してしまった。



そのまま、再び静かな室内に戻った。


馬車はゆっくり進み続け、第一城壁の正門を通過した。


王城が近づくにつれ、さらに速度が落ちた。



「リリアンヌ殿下…我々が勤務中に私語を交わしたことは、どうかご内密に願います」

ふいにゲイソンが口を開いた。



「ええと…お父様にということ?」


誰に、内密にすればいいのだろうか。



「いいえ、同僚たちにです。…示しがつきませんから」



「分かりました…」

リリアンヌは、ちらりと二人の襟元へ視線を向けた。



ウェイバーは、サファイアひとつ。


ゲイソンは、アメシストの三連だ。


ということは、フーリンたちより、二つも三つも階級が上だ。



「…でも、三人だけの時は、また話しかけてもいい?」



「我々と話などして…面白いですか?」

ウェイバーが、再び苦笑を浮かべた。



「はい。とっても」


いろいろ教えてくれる二人と、もっと話したい。




「…強いな」



「…え?」



「さ…着きました」


ウェイバーはさっと立ち上がると、扉を開けてリリアンヌへ手を伸ばした。



「…ありがとうございます」


最後、何と言ったのだろう。



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