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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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派閥の泥仕合④

レックス視点



「随分と遅かったな」

レックスは、顔も上げずに口を開いた。



「…リリアンヌ殿下と話していてな。…お前、本当に祝宴に戻らなかったのか」


机の前に立ったルイージが、呆れたように溜息をついた。



「要らねぇだろ。出たところで、話題はひとつだ」



「そういう問題じゃないだろ…」

ルイージはもう一度溜息をつくと、真剣な表情を向けた。



「…レックス、話がある」



「……」

レックスは羽ペンを動かしたまま、小さく左手を上げた。


扉の脇に立つエドガーとアランフォースが、静かに執務室を出ていった。



「それで、なんだ」



「なんだ、じゃないだろう。スワハマをどうする気だ」

ルイージが食い気味に言った。



「あれも馬鹿じゃない。リリアンヌに直接何かすることはねぇだろ」



「それならお前は、何を企んでると思っているんだ」



「一族の名を売りたいだけだろ。霊拝師(オランス)とリリアンヌは、自分のものだとな」



「あの欲望の塊が、それで終わるか」



「…そもそも、リリアンヌが勝手に協力するって言ったことの方が問題だろ」

レックスは、乱暴に羽ペンを置いた。



「…お前、怒ってるのか?」

ルイージは、訝しげに眉を寄せた。



「リリアンヌ殿下が協力すると言わなければ、スワハマは、いつまでも彼女が傷つく言葉を言い続けた」



「……」



「レックス、お前が止めてやれば良かっただろう」



「…ちっ、随分とリリアンヌの肩を持つな」



「当たり前だろう。リリアンヌ殿下は、まだ八歳だ」



「あれに年齢は関係ねぇ。あいつは、何か知っている」



「だからと言って、俺は絶対、彼女にちからを使わないからな」



「あ?」

レックスは、ようやく顔を上げた。



「“語らせのちから”をリリアンヌ殿下に使えと、俺に命令するなよ」


ルイージの目は、本気だった。




「…あれは、知りようのないことを口にした」


加護のちからを使いすぎると精霊が消滅することは、真セスランディア王国記に出てくる。


あの本は、絶対に自分以外が読むことのできない場所にある。


ロデオもブライアンも、その存在すら知らないはずだ。



それなら、なぜ知っているのか。


ルイージのちからを使えば、一発で自白する。



「それでも俺は、絶対に使わない。彼女は、罪を犯したわけじゃない」

ルイージは、きっぱりと言い切った。



「…ちっ」

レックスは深く椅子に座り込むと、肘置きを、とん、とん、と指で叩いた。



こいつまで篭絡されたか。



ロデオやサイラスはともかく、


堅物のアランフォースや騎士どもを、次々と懐柔させた。



あの気弱なブライアンが、初めて俺の目を見て意見した。


リリアンヌが行くなら自分も討伐に行きたいと、初めて訴えた。



貸してやった男どもが、揃いも揃ってリリアンヌに肩入れする。



一体、何だって言うんだ。


あいつは一体、何者なんだ。



気味悪く笑う異形の存在(ゼノプーパ)を目の当たりにして――


いつものように、怒りを感じた。



八つ当たりもあった。


なぜそんな面倒なものを拾ったのかと、


なぜ何もできないのに、のこのこ付いてきたのかと。



異形の存在へ当たれない分、リリアンヌへ当たった自覚はある。


涙のひとつでも見せれば、二度と討伐に連れてくる気はなかった。




『真実を知っているのに、どうして精霊のせいにできるのですか…!』


『私に、異形の存在の討伐を任せてください』




あの、瞳――


泣きそうだった表情から、突然強い怒りが放たれた。



どうやったら、あの単純馬鹿の男から、あんな娘が生まれてくる。


兄の方は、呆れるほど父親似だというのに。



八歳らしからぬ言動、


自分に言い返す度胸。


すべてのことを諦めているような、憂いを帯びた瞳。



明るい表情など、大正門の上で一瞬見せただけだった。




「……」

レックスは、ぴくりと指を動かした。



…リリアンヌが笑おうが泣こうが、どうでもいい。



あれは、俺の求めていた“光”になり得る存在だ。


そのために、今回のような分かりやすい成果がさらに欲しい。



想像を超えたものだと分かったちからを使いたくないと言うなら、いつも通り使えと命令すればいい。



――いつも通りに。



「……」


なぜ、あんなにも下を向いている。



もっと胸を張ればいい。


もっと、“光”らしくあればいい。



何を、あんなに心配している。



「それで、どうするんだ」


ルイージが、どんっと机に両手をついた。



「…まだいたのか」


こいつがいることを、すっかり忘れていた。



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