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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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派閥の泥仕合②

リリアンヌ視点



「敵国の王を倒したのですから、一応、セスランディア側が戦勝しています。

勝利を持ち帰った陛下は、勢いのままに改革を行いました」

ルイージは、淡々と言葉を続けた。



「改革…ですか?」



「大きなところで言えば、奴隷制度の撤廃でしょうか」



「…!」


奴隷については、“物語”でも出てくる。



「それから…王都の市場を活性化させ、さらに、全国の通行税を一律化し、領同士の行き来を盛んにさせました」



「へぇ…それを、陛下は戦後すぐに行ったのですね」



「ええ、そうです。そして、それと逆のことを行ったのが先代王です」



「逆…?」


何が、逆なのか。



「奴隷制度を復活させたのも、貧富の格差を増幅させたのも、通行税を高騰させたのも、テレガスタ先代王の治世です」



「…な、なんで」


なんで、そんな愚かなことを。



「まさに、“愚王”。そう、国民たちから侮蔑されていました」


ルイージは顔色ひとつ変えず、静かにコーヒーをすすった。



「……」


まったく知らなかった。


先代王について、誰も詳しく教えてくれなかったから。



「テレガスタ先代王は…政治の一切を官僚たちに任せていました」


ルイージの目は、どこか遠くを見つめていた。



「要は、飾りの王です」



「……」

リリアンヌは、静かに喉を鳴らした。



教えてほしいと言ったのは自分だけれど――不敬どころの話ではない。


確かにこんな話は、廊下ではできない。



「飾りの王を操った筆頭が、スワハマでした」

ルイージは宙を見つめたまま、ゆっくりと続けた。



「筆頭…?大教主が、政治に口を出していたのですか?」


それは、聖職者としての域を超えているのではないだろうか。



「スワハマは、前宰相です。先代王の時代、ずっとその座に就いていました」



「ええっ…あ、あの方が、宰相…?」


うまく、想像ができない。



「それはもう、やりたい放題でしたよ。隣国へ戦争を仕掛けさせたのも、スワハマです。自分は、王都から一歩も出ないというくせに」

ルイージが、小さく侮蔑的な笑みを浮かべた。



「当時の他の高官たちも、似たようなものでした」



「……」


たった十年前の話だ。


それなのに、どうしても遠い世界の話を聞いている気分になってしまう。



「先ほど、上層部を一掃したと言いましたが…全員を追い出したわけではないのです」


コーヒーを一口飲んだルイージの顔は、いつも通りに見えた。



「ご存じの通り、スワハマは大教主としていまだに強い勢力を持っています。

それから、内務部、財務部の長官は、先代王の時代から変わっていません」



「…あの、質問してもいいですか?」

リリアンヌは、そろそろと手を挙げた。



「もちろんです。どうぞ」



「この国は、君主制なのですよね…?」



「ええ。あなたに、そう説明しましたね」



「それなのに…国王が、高官の方々を交代させられないのですか?」


君主が一切の政治を統治しているのなら、


レックスが、嫌だと思うのならば。


スワハマたちを追い出すことは、できないのだろうか。



「…理由もなく追放したら、内戦を仕掛けられる可能性もあります」

ルイージは、そっと口を開いた。



「えっ」



「それほど、フラディン侯爵…スワハマの一族は、南一帯に強い勢力を持っています」



「…あ」


そうか。


これは、王都だけの話ではない。



セスランディア王国内の話だ。



「それから…北には大きな領を統治している、パルミアという一族がいます」



「!」


パルミア一族――


その名は、よく知っている。



「詳細は省きますが…いろいろなことが重なり、パルミア一族は王都での勢いは落ちました。ですが、北では今も強い勢力を持っています」



「そう…なのですね」



「その二つの勢力を中心に、先代王の時に大きく力をつけた一族たちは、言うことを聞かない現王の存在を疎ましく思っています」



「うっ、疎ましいっ…?」


疎ましいも何も――国王だ。



「どうにか現王に退いてもらい、少しでも早く、ブライアン殿下に王座を継いでほしいと願っているのです」



「なっ…ど、どうしてですか…!?」


意味が、分からない。



セスランディア王家全員を追い出したいと思っているなら、ともかく。


レックスからブライアンへ変わったところで、一体、何が変わるというのか。



「ですから…ブライアン殿下なら、また操れると思っているのですよ」



「…!」



「ブライアン殿下は――そう、評価されているのです」

ルイージは目を伏せ、静かにコップへ視線を落とした。



「……」

リリアンヌは、ぎゅっと口を結んだ。



だから…


ブライアンは、あんなに遠い目をしていたのだろうか。


だから――あんなに、疲れきっていたのだろうか。




「…余計な話をしすぎました。こんなことまで、あなたに言う必要はありませんでしたね」



「絶対に…誰にも言いません」



「…そんなことは、いまさら心配していません」

ルイージが、ふっと小さく笑みを浮かべた。



「話を戻しましょう。先代王の時代に力を得た者たちを中心に、現王の改革に否定的な派閥があります。建前上は、旧きを重んじ、伝統に則る政治を良しとする者たちのことです」



「あ…はい」


さらに、政治の話になった。



「その中でも多くの派閥に分かれていますが…彼ら――一般に保守派と呼ばれる者たちは、情報を共有しています。

特に、中央官の大半は保守派です。

誰が何を話したか、誰と親しくしているか。その程度のことは、あっという間に広まるでしょう。

ですから、あなたには関わってほしくなかったのです」



「そうだったのですね…」


もしかして、それで以前、チャンが図書室の前で待ち伏せしていたのだろうか。


あの時も、誰かが知らせたのかもしれない。



「…騎士様は、どうなのでしょうか」


ふと、疑問が湧いた。



「王国騎士の方々も、貴族出身なのですよね?」



「彼らは騎士になる時、主である国王に忠誠を誓っています。ですから出身に関わらず、派閥とは無関係です」

ルイージがすぐに答えた。



「なるほど…ん…?」


そうなると、矛盾しているところがある。



「それなら、国内で戦争は起きないのではないですか?」



「どういうことです?」



「ええと…それぞれの領には、兵を指揮する騎士の方たちがいらっしゃるのですよね?」

リリアンヌは、首を傾げながら尋ねた。



「その通りです」



「それなら、いくら領主が内戦を企てても、騎士の方は協力しないのではないですか?」



「ああ…建前だけでしたら、そうなりますね」



「?」



「…あなたに中途半端な答えはいけませんね」

ルイージは、静かにモノクルの位置を直した。



「国王に忠誠を誓っても、一族繁栄のために動く騎士は多くいます」



「…それって、いいのですか?」



「もちろん、駄目ですよ。国王を裏切るようなことをしたら…表立って盾突けば、騎士の座も命も奪われます」



「…!」


ひゅっと息を呑んだ。



「ですから、表面上は国王に忠誠を誓っている。その実、一族の利益となるよう水面下で動いている、というところでしょうか」

ルイージは事もなげに答えた。



「……」


それって――


本当の意味で、国王の味方はいないのではないだろうか。



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