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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第四章/それぞれの光
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派閥の泥仕合①

リリアンヌ視点



「…お疲れ様でした」


会議室から出ると同時に、ルイージが小さく溜息をついた。



「あの…ルイージ宰相、申し訳ありませんでした」

リリアンヌは、小さく頭を下げた。


たくさん庇ってくれたのに、結局、大聖堂へ行くことは決まってしまった。



「…私には謝るのですね」

ふっ、とルイージが苦笑いをこぼした。



「まったく…本当に似た者同士だな」



「…?誰と、誰がですか?」



「…馬車まで送ります」

ルイージは答えず、そっと足を進ませた。



「…あなたを結局、スワハマ大教主に近づけさせてしまった」



「…勝手をして、ごめんなさい」


勝手に、協力すると言ってしまった。



「いえ…結局、彼は難癖をつけてあなたを大聖堂へ呼ぶ気でした。むしろ、週に一度で済んで本当に良かった」



「…スワハマ大教主は、どうしてここまで私にこだわるのでしょうか?」



「……」



「…名を売りたいからでしょうか」


予想していた言葉を、口にした。



「…いいえ、それだけが理由ではありません」



「では、何でしょうか?もしかして、政治に絡んで――」



「こんな廊下で、その話は厳禁です」


鋭く遮られた。



「…では、教えてください」

リリアンヌは、きゅっと眉を寄せた。



スワハマは、本当は何のために大聖堂へ来てほしいと思っているのか。


文官に近づいてはいけない理由も、分からないままだ。



「何も知らないままでは、嫌です」




「…まったく、王族という人種は…」

ルイージが、大きく溜息をついた。



初めて会った時より、ルイージは表情が豊かになった。


だいぶ遠慮がなくなった気がする。


というより…ずっと、溜息をつかれている気がする。



「…ついて来てください」



「……」


リリアンヌは、階段を上がっていくルイージを小走りで追いかけた。



ルイージは二階に着くと、今度は廊下を進んでいった。


同じような扉が、いくつも続いている。


今は、誰もいない。


文官たちは、本館の方へ行っているのだろうか。



「…お疲れとは思いますが」


不意にルイージが立ち止まり、並ぶ扉のひとつを開けた。



「どうぞ、こちらへ。私の執務室です」



「あ…お、お邪魔します…」

リリアンヌは、慎重に部屋の中へ足を踏み入れた。



想像より、こぢんまりとした部屋だ。


右手にひとつだけ扉があり、それ以外の壁には、本棚がぎっしり並んでいる。



手前にある丸テーブルと二脚の椅子は、来客用だろうか。


奥には大きな執務机があり、山積みの羊皮紙や書簡が、今にも崩れ落ちそうなほど置かれている。



「殿下、こちらへお座りください」


ルイージは丸テーブルの椅子を指すと、ひとりで右手の扉へ入っていった。



「……」

ゆっくりと椅子に腰掛けた。



護衛の二人は、扉の外で待機してくれているらしい。


後で、謝ろう。


彼らはきっと、自分を送り届ければ仕事は終わりだったはずだ。



「リリアンヌ殿下、コーヒー…南方の島の苦い飲み物なのですが、飲んだことはありますか?」


扉から出てきたルイージの手には、銀のコップが二つ握られていた。



「…はい。好きです」


前世で、だけれど。



「大したものではありませんが、どうぞ」



「いいえ…あの、ありがとうございます」


まさか、宰相自らコーヒーを淹れてくれるとは思わなかった。


従者や補佐は、いないのだろうか。




「さて…どこから話したものか」

ルイージはリリアンヌの前にコップを置くと、コーヒーをすすりながら腰を下ろした。



先ほどから、ルイージらしからぬ仕草ばかりだ。


肩の力を抜いてくれているみたいで、少し嬉しい。



「リリアンヌ殿下は、先代王について、どの程度知っていらっしゃるでしょうか」



「え…先代王…?」

リリアンヌは、きょとんと目を瞬かせた。



「ええと…テレガスタ・セスランディア。第三十九代目の、セスランディア王」


父ロデオと国王レックスの父親で、そして自分の祖父だ。



「十年前…聖セスラ暦868年に、崩御されたと習いました」


自分が生まれる二年前に、亡くなっている。



「死因は、ご存知ですか?」



「…はい。隣国タッセントとの戦争で、戦死されたのですよね…?」


そのことを、本を読んで知った。



「ええ。それにより、タッセントとは一年ほど休戦しています」



「その前後に、それぞれ二年間、タッセントとは戦争をしていますね」



「そうです。あなたが生まれた少し後に、停戦という形で一旦終結しています」



「はい。私が生まれた時はまだ、戦争中でした」


コーヒーをすするルイージに合わせ、こくりと一口飲んだ。


酸味の強い、目が覚めそうな味だった。



「その戦争と戦争の間に、陛下…レックス・セスランディアは、第四十代目の王の座に就きました」



「…はい」


それも、本の知識で知っている。


その話が、どう繋がるのだろうか。



「王座に就いて二年後、タッセントとの戦争から帰還すると、陛下は上層部を一掃しました」



「上層部…とは、高官たちのことでしょうか?」



「ええ。前もお話しましたが、ここにダイヤモンドが付いている者たちです」

ルイージが、とんと襟元を指さした。



「勝利へ導いた功績として、王弟ロデオは軍総長に、そして私は、いち文官から宰相となりました」



「…ん?」



「こう見えて…軍師として、戦争に参加していたのです」


首を傾げるリリアンヌに、ルイージが静かに答えた。



「あっ…え、そうなのですね」


それも、意外だけれど。



「ええと…停戦したのに、勝利したのですか?」



「簡単に言うと…向こうも忙しいだろうから、一時停戦としてやると、こちらから提案したのです」



「忙しい…?」



「向こうの先代王もまた、戦死しています。要は、お互い戦争どころではなくなってしまったというわけです」

ルイージは淡々と答えた。



「……」


…すごい話だ。


他人事のように聞いているけれど、


その戦争に、父も伯父も、目の前でコーヒーを飲む人物も参加している。



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