待ち受ける洗礼③
リリアンヌ視点
向かった先は、本館にあるものより小さな会議室だった。
四角い形にテーブルが配置され、二十人ほどは座れそうだ。
一番奥までレックスが進み、どかりと腰掛けた。
その後ろに、エドガーとアランフォースが静かに立った。
スワハマは、レックスから見て右側の列に、
ルイージは、リリアンヌと並び左側の列に座った。
チャンは、スワハマの横で立ったままだ。
ウェイバーとゲイソンは、会議室に入ってこなかった。
「…それで、チャン。分かることがあるから言ったんだろうな」
重たい空気の中、レックスが口を開いた。
「ええ、もちろんです」
チャンは、真面目な顔で頷いた。
「リリアンヌ殿下の加護がどんなちからなのか、思い当たるものがございます」
「言ってみろ」
「恐らく、能力増幅のちから」
「…!」
リリアンヌは、ぴくりと反応した。
「お前の言う能力増幅のちからとは、何だ」
レックスが質問を重ねた。
「特別なちからを持つ者のちからを、限界以上に引き出すのです。ご自身だけでなく、他者も含めて」
「……」
そう…だろうか。
私もそう思ったけれど、試した時は、何も反応しなかった。
「過去に、該当した者がいたのか」
「六百年以上前の話です。“鋼の騎士ディーキン”という者が、そのちからを持っていました」
国王の質問に、チャンはすらすらと答えた。
「ディーキンは、攻撃の類のちからを持つ者に協力し、当時のタッセント国を打ち負かしたと記載がありました」
「“特別なちからを持つ者”にしか、使えないのか」
「そこまで記載はありませんでしたが、恐らくそうでしょう」
「……」
レックスは頬杖をついたまま、黙り込んだ。
「能力増幅のちからは、もう試しています」
ルイージが、静かに口を挟んだ。
「類似したちから――能力向上、体力の増幅、そういったものすべて試しましたが、該当しませんでした」
「ひとつのちからに特化した能力増幅のちから、という可能性もあります」
チャンはルイージに答えながら、真面目な顔をリリアンヌに向けた。
「リリアンヌ殿下の加護のちからは、白のちからにだけ反応するのではないでしょうか」
「…あ」
思わず、声を漏らした。
自分が咄嗟についた嘘は、本当かもしれない。
“マドカ”は、加護によって白のちからが底上げされた。
さらに、そのちからをスノウが増幅させた――
だから、異形の存在の大群を消し去ることができた。
そう考えると、しっくりくる気がする。
「…それだと、異形の存在のちからを封じた辻褄が合わない」
黙っていたレックスが、口を開いた。
「……」
リリアンヌは、そっと目を伏せた。
辻褄は――合う。
あの時私は、白のちからしか使っていなかったのだから。
絶対に、それを言うことはできないけれど。
「精霊の加護のちからに関しては残っている文献も少なく、明らかになっていないことも多くあります」
チャンは、淡々と言葉を続けた。
「精霊が、二つ以上のちからを持っている可能性もあります。また、別のちからなのかもしれません」
「……」
そうすると今度は、シリル先生の話と辻褄が合わなくなってしまう。
鑑定は、共有の類のちからひとつだとされたのだから。
「リリアンヌ」
「…はい」
ゆっくりと顔を上げた。
「お前は、ちからの使い方を知っていた」
レックスは、鋭い目をまっすぐにリリアンヌへ向けた。
「お前が知っていることを言え」
「…あの時は、とにかく必死でした」
用意していた言葉を、ぽつりと口にした。
「スノウ…精霊が、使い方を教えてくれたような気がしたのです」
「精霊の考えていることが分かると言ったな」
「…はい」
それを言った相手は――ルイージだったはずだ。
「それなのに、“気がした”か。はっきりと分からないのか」
「はい。分かりません」
今度は、きっぱりと答えた。
スノウからは、どんなちからか教えてもらったことはない。
「……」
レックスは、探るようにリリアンヌを見据えた。
「……」
絶対に目を逸らさない。
もう、震えたりしない。
「能力増幅か…それなら、試すか」
ふいとレックスが視線を逸らした。
「!ならば、ぜひ霊拝師たちに――」
「先に騎士で試す。“特別なちからを持つ者”が多くいる」
レックスがすかさずスワハマの言葉を遮った。
「はあ…?今の話を聞いていなかったのですかな。リリアンヌ殿下のちからは、白のちからにしか反応しないと言っていただろう!」
「可能性の話だろう。騎士で違うようなら、次は専門職に就く者で試す」
「なんと勝手な…」
スワハマは、呆れたように首を振った。
「アイラに対してちからが反応したことは、はっきりしている!なぜそれを後回しする必要などあるのか」
「加護のちからを頼るな。霊拝師は、今までと変わらず働けばいいだろう」
「もう、こんな大々的に公表した!」
スワハマの叩くテーブルが、小さく揺れた。
「せっかくなら我が霊拝師と協力して、その名をもっと轟かせばよろしかろう!」
「あ…?名を轟かせたいのは、お前だろ」
レックスは、ぎろりと鋭い目で睨みつけた。
「ふん…騎士で試して、どうするという!戦争のひとつでもするというのなら、大賛成だが」
「スワハマ大教主、落ち着いてください。趣旨がずれている」
さっと、ルイージが間に入った。
「そんなことをしたら、精霊は消えてしまいます」
小さな声が、ぽとりと落ちた。
「……」
レックスは、ゆっくり視線を移した。
「加護のちからを使いすぎると、精霊は、消えてしまいます」
リリアンヌは、まっすぐにレックスを見返した。
その瞳は――怒りで、揺れていた。




