褒章授与式②
リリアンヌ視点
王城内は、いつもよりずっと騒がしかった。
誰もが、忙しそうに作業に追われている。
客間から入り口へ向かう間も、何人もの使用人たちとすれ違った。
どうやら、祝宴の準備を進めているようだ。
ルイージと護衛二人と共に馬車に乗り、第二城壁の大正門へと向かった。
たった数日前に、この門をロックに乗って、町へ抜けた。
もう、ずっと前のことのようだ。
その門は今、固く閉ざされている。
馬車から降りると、
ルイージは、大正門の脇にある螺旋階段を上がっていった。
その後ろから、リリアンヌは早足で続いた。
上がった先は、屋上だった。
屋上の手前側は一段低くなっていて、ここからでは町は望めない。
中央にある短い階段を上がれば、城下町を見渡せそうだ。
反対に町側からも、よく見えそうだけれど。
手前側には、すでに多くの人が待機していた。
文官や使用人たちも皆、忙しそうに動き回っている。
町側から、がやがやとした喧騒がここまで届いていた。
「……」
あの短い階段を上がり、人々の前に立つ。
ようやく実感が湧き、一気に緊張し始めた。
「…あ」
少し離れたところに、アイラが立っていた。
アイラはこちらに気付くと、小さく一礼した。
彼女を挟む聖守護騎士団の騎士たちが、一斉にこちらへ目を向けた。
「……」
リリアンヌは、そっとお辞儀を返した。
近づかない方が良さそうだ。
「まもなく陛下がいらっしゃいます。ここで待ちましょう」
ルイージが指した場所は、アイラたちのいるところと反対側の端だった。
護衛の二人が、リリアンヌの斜め後ろに立った。
「…あの、ルイージ宰相」
「なんでしょう」
「私は、これから何をするのですか…?」
あの上に立たされて、何をされるのだろう。
「…大変失礼しました。私も…些か動揺しているようです」
ルイージはモノクルを押し上げると、短い階段の先を指した。
「これから陛下が壇上に立ち、町民へ言葉を送ります」
「へぇ…」
あそこから町にまで、言葉が届くなんて。
だから、あんなにも声がよく通るのだろうか。
「その後、順に名を呼ばれ、陛下が冠を授与します」
「…冠?」
「ええ。受け取ったら陛下に向かい、礼をする。それだけです」
「……」
リリアンヌは、困ったようにルイージを見上げた。
「大丈夫です。難しいことは、何もありません」
「…分かりました」
とにかく、前の人の真似をすればなんとかなるだろう。
螺旋階段から、慌ただしく文官たちが上がってきた。
従者の格好をした人たちも、その後ろから続いた。
しばらくして、レックスが、騎士を伴い現れた。
ルイージの礼に合わせ、リリアンヌはドレスの裾を持ち、頭を下げた。
二人の前を、まっすぐレックスと騎士たちが通り過ぎた。
「…!」
アランフォースが足を止め、真横に並んだ。
「…あの、昨日は乗せてもらったお礼も言えず、申し訳ありませんでした」
リリアンヌは、おずおずと口を開いた。
「…いいえ。よほどお疲れだったのでしょう」
アランフォースは、ちらりとリリアンヌへ視線を向けると、小声で返した。
「体調は大丈夫なのでしょうか」
「はい。おかげさまで…その、たくさん寝ましたから」
帰路のことを、まったく覚えていないくらいには。
「それなら良かったです」
アランフォースは小さく頷くと、再び視線を正面に向けた。
「……」
リリアンヌも前を向き、口を閉じた。
もう、授与式は始まっている。
きっと、会話なんてしてはいけないのだろう。
その間にも、国王はもう壇上へと上がっていた。
辺りに、喇叭の音が鳴り響いた。
騒がしかった聴衆の声が、しんと静まり返った。
カッ…カッ…と、靴音だけが響いている。
国王が、壇上の最前まで進んだ。
その瞬間――
一斉に、わっ…!と歓声が上がった。
「国王様ぁー!」
「かっこいいー!」
「王様!万歳ー!」
拍手と歓声が、しばらく続いた。
国王が片手を上げると、歓声はすぐに小さくなった。
「皆に、大事な話がある」
レックスのよく響く低い声が、一帯に届いた。




