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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
142/222

ちからを発揮するとき⑤

アイラ視点

※残酷な描写があります



「…!ありがとうございます!」


リリアンヌは、わずかに安堵の表情を浮かべた。



「…私は、何をすればよろしいのでしょうか?」



「アイラ様は、いつも通りに白のちからを使ってください。私はその間、アイラ様に触れさせていただきます」



「ええ…分かりました」

アイラは小さく頷き、視線を正面に向けた。


目の前に、療師(メディクス)たちによって危篤者が運ばれてきた。



「アイラ様…こちらの五名をお願いできますでしょうか」


腹部が裂け、内臓が露わになっている者までいる。


顔が全部焼け爛れ、ひゅう、ひゅうと、か細い呼吸をしている者もいる。



それでも、全員、かろうじて生きていた。



「…っ」

リリアンヌは、ひゅっと息を呑んだ。



「……」


少女には、残酷な光景だろう。



自分も、初めて戦場で死体や怪我人を見た時は、嘔吐した。


慣れるまで、何度も泣いた。


それに比べれば、リリアンヌは気丈だった。



「…行きます」

アイラは、静かに右手を危篤者の方へ向けた。



こうしている間にも、彼らは苦しんでいる。


救える者くらい、早く治してあげるべきだ。



「…失礼します」

リリアンヌは両手を伸ばし、そっとアイラの左手を握った。



「……」

アイラはちらりと左手を確認すると、すぐに正面へ視線を戻した。


いつものように心で祈り、白のちからを解き放った。




天幕中が――白い光で溢れた。




「…え」


この、ちからは――




「…ええっ!」


「な、なにごと…!?」


「何、この光!?」


後輩たちが、驚いている。



こんなことは、私も初めてだ。


眩しくて、何も見えない。



しばらくして、ようやく光が収まった。




「…えっ」


「…あれ」


「あっ!」


目の前で死にかけていた兵士たちが、一斉に飛び上がった。



「あ…あっ!?」


「目がっ…」


「嘘だろっ…」


「治ってる!」


さらに奥の兵士たちも、続々と起き上がった。



焼け爛れていた皮膚が、戻っている。


失ったはずの腕が、破けた服の先から生えている。


飛び出した眼球が、元通りになっている。



「なっ…い、一体、何が…っ」


「…え?…ええ?」


療師や助師(アーモナー)たちが、包帯を手に呆然としている。




天幕中の兵士たちが――


治り、起き上がった。




「治ってる…治ってる!」


「生きてる…!」


「お前っ…良かったなぁ…!」


兵士たちが、徐々に興奮していく。



「え、ええっ…!」


「あ、アイラ様…!?一体、何をしたんです!?」


後ろで再び、後輩たちが騒ぎ出した。


彼女たちの出番が、なくなってしまった。



「…!」

アイラは、はっと左に顔を向けた。



「…っ、は…はぁ…」


リリアンヌが、苦しそうに胸を押さえていた。



呼吸が乱れている。


大粒の汗が、額から滴り落ちていた。



「…あ、アイラ様」


視線に気付いたリリアンヌが、ふっと微笑んだ。



「良かった…成功、しましたね」



「…リリアンヌ殿下、大丈夫ですか」

アイラは眉を寄せ、そっとリリアンヌを覗き込んだ。



「だ、大丈夫、です」



「……」


どう見ても、大丈夫ではなさそうだ。



「アイラ様、汗が…」


自分より汗をかいているというのに、心配そうな顔をこちらに向けた。




「アイラ殿」



「…はい」


すぐに、顔を正面に戻した。



「このような奇跡的なちからを、我々のために使っていただき…誠にありがとうございます」


年かさの兵士が、目の前で跪いた。


二連エメラルドを襟元に付けている。


兵長だ。



他の兵たちも、その場で跪き頭を下げた。



「……」


その奥で療師たちが、立ったまま頭を下げた。



「…これは、私だけのちからではありません」

アイラは、静かに口を開いた。



「加護のちからを分け与えてくださった、リリアンヌ殿下によって起こされた奇跡です」



「…リリアンヌ殿下?」


目を瞬かせる兵長の視線が、隣に移った。



「加護…?」


「何の話だ?」


「リリアンヌ殿下って…?」


ざわりと、囁きが伝播した。



「……」


しまった。


彼女が精霊の加護を授かったことは、まだ公表されていない。


彼女自身も、黙ったままだ。



――けれど、


この奇跡を自分の手柄にすることだけは、絶対に違う。



「…どうぞ、この奇跡により助かった命を大切になさってください」


いつものように、決まり文句を口にした。



「精霊王オーリアの祝福が、皆様にありますよう」


右手で額に円を描き、胸の前で両手の指を絡めて組む。


後ろで、後輩たちが続く気配がした。




「わっ」



「!」


小さな叫び声が、隣から上がった。



前に倒れ込むリリアンヌの体を、アランフォースが手を伸ばして支えていた。


彼女の足が限界を迎え、立っていられなくなったのだろう。



「あ…あれ?アランフォース副団長、いつの間に」



「…失礼します」



「…!」


アランフォースが、片手で軽々とリリアンヌを抱え上げた。



「もう、戻りましょう」



「…はい」



「…リリアンヌ殿下。このたびは貴重なちからを貸していただき、ありがとうございました」


アイラは、抱え上げられたリリアンヌに向かい、丁寧に頭を下げた。



「あの…アイラ様。怪我人はもう、ここ以外にいらっしゃらないのですか?」



「……」

アイラは、ちらりと後ろに視線を向けた。



「村人は全員、避難しています。怪我人もいなかったと聞いています」

視線に気付いた兵長が、素早く答えた。



「良かった…」

リリアンヌは、ほっと溜息をついた。



「…あとは、我々が被害状況を確認しておきますから」


本来だったら、数日かかる仕事だ。


きっと、一日あれば終わってしまうだろう。



「ですのでリリアンヌ殿下は、どうか陛下と共にお戻りください」


いつも、国王は弔いが終わればすぐに帰る。


決して、自分たちを待ったりはしない。



「…行きましょう」



「あ、あのっ…アイラ様」


リリアンヌが、アランフォースの肩から顔を覗かせた。



「ありがとうございました…!本当に――」


天幕からアランフォースが出ていき、


言葉は、途中で途切れた。




「アイラ様…!す、すごすぎます!」


後輩が、興奮した声を上げた。



「加護のちからって、何!?」


「アイラ様のちからを底上げするとか言ってたよね」


「でもそれって、アイラ様のちからがあってこそってことでしょ!?」


「ここに五十人近くはいるのに、全員、治しちゃったよ…!」



「さすが、アイラ様…!」



「……」


アイラは天幕の入り口を見つめたまま、いつまでも動かなかった。



どういうことだろう…



リリアンヌは、何かちからを送ったわけではない。


自分には、何も感じなかった。



あの白のちからは、自分のものではない。


それなら、彼女のちからだ。




彼女は――白の使い手だ。


リリアンヌが、白のちからでこの場の全員を治してみせた。




なぜ、彼女が白のちからを使えるのだろう。


なぜ…隠しているのだろう。



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