表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
141/223

ちからを発揮するとき④

アイラ視点

※残酷な描写があります



信じられない光景を、目の当たりにした。



あの異形の存在(ゼノプーパ)が――


たった数分で、消えてしまった。



目の前には多くの騎士がいて、前列で何が行われているかは分からない。


見えたのは、白い光に包まれて動けなくなった異形の存在と、


いつものように、胸元から漏れ出た光を大剣で貫くアランフォースの姿だけだった。


異形の存在を包んだあの白い光は、一体――




突然、次々と騎士たちが跪き、首を垂れた。




「…!」


慌てて両膝をつき、同じように頭を下げた。


国王から、何か命令があったのだろうか。



跪く騎士たちの中で立っていたのは、


国王と、リリアンヌだけだった。



「……」


あの白い光は、彼女が放ったものだったのだろうか。



王城で行われた行事で、偶然出会った王弟の娘。


彼女と初めて会った時のことは、忘れられない。



噂に違わぬ美しさを持ち、何より、聡明だった。


自分もあの歳の頃は、あんなにしっかりしていただろうかと考えていると、


その彼女がいなくなったと、王城を出る前に騒ぎが起きた。



彼女は、少女の霊拝師(オランス)を探していた。


霊拝師の中に少女は、今はいない。


だからきっと、彼女の勘違いだったのだろう。



どちらにせよ、彼女は誰かを捜しているようだった。


それを、報告するべきだ。


そう思い城内に戻ると、今度は、彼女が精霊を見つけたと大騒ぎになっていた。




その彼女が、加護のちからを使ったのだろうか。


おかげで騎士たちは、誰も怪我をしていない。


いや…先に戦っていた現地兵たちは、傷ついているはずだ。



騎士たちが立ち上がると同時に、アイラは崖下に向かった。



異形の存在がいた場所から少し離れたところに、大きな天幕が張られている。


その中へ、アイラは迷いなく足を踏み入れた。



「…!」


その瞬間――小さく息を呑んだ。



「ぅ…ぐぁ…」


「いてぇ…」


「くそぉ…目が…」


腕が、溶けて失われている者。


顔に何かを浴びたのか、皮膚が爛れ、眼球が露わになっている者。


軍服が溶けて、腹の部分がぐずぐずに爛れている者――



天幕の中には、怪我をした兵たちが、折り重なるように横たえられていた。


…ざっとでも、五十人はいる。



「もっと包帯を持ってこい!」


「血止めは!どこ!」


「鋸!早く腕を切断しないと、全身に回ってしまうぞ!」


その間で、現地の療師(メディクス)助師(アーモナー)たちが、慌ただしく動き回っていた。



「……」

アイラは、静かに目を閉じた。


ここだけは、いつも通りだったか。



「アイラ様、お待ちください!」


「いっつも、ひとりで行かれてしまうんですから」


続々と、天幕の入り口から後輩たちが入ってきた。



「…霊拝師(オランス)様っ…」


大量の包帯を抱える助師が、こちらに目を向けた。



「先生っ、先生…!」



「ああ!?なんだ、今は他を対応できるような状況じゃ――!」


助師に呼ばれた療師が、はっとこちらに顔を向けた。



「……」


アイラは一呼吸入れると、目が合った療師のもとへ足を進めた。



「先生、忙しいところ失礼します。私たちは、王都から助力しに参りました霊拝師の者です」



「…あっ…ええ、はい。存じてます」



「ぅぐ…いってぇ…」


呆然とする療師の足元では、地に寝かされた現地兵が呻いていた。



「…単刀直入にお伝えさせていただきます。この中で、危篤者を五名。選定はお任せいたしますので、早急に集めてください。私が、治します」

アイラは、ちらりと足元に視線を向けながら続けた。



「五名も…」


助師が、ごくりと喉を鳴らした。



「……」


五名だけ、だ。


それ以上は、どう頑張っても治せない。



「…アイラ様」


療師は、意を決した表情を向けた。



「今、危篤状態の者は十名以上います。その中から治す者を決めるのは、アイラ様にお願いできますか」



「いいえ。判断は、現場の方にお願いします。特に危機的状況な方を優先してください」

アイラは、毅然として首を振った。



「体の部位を切除する方は、他の霊拝師が急ぎ出血を抑えます。ですから、明日まで持ちそうな方は後回しに。早急に、五名を選定してください」



「…分かりました。…おい、担架を用意しろ」


療師は頷くと、すぐにその場を去っていった。



「……」


これから、命の選別が始まる。


いつものことだ。



療師の言う通り、危篤者は多くこの場にいる。


後輩たちがちからを送っても、危篤者を“治す”ことはできない。


自分にしか、治せない。



明日まで生き延びてくれれば、また明日、選ばれた五名だけが生き残る。


自分が白のちからを送った者は助かるし、送らなかった者は、命を落とす。



――いつものことだ。




「アイラ様…!」



「!」


はっと、天幕の入り口へ顔を向けた。



入り口の前に、リリアンヌが立っていた。


ここまで走ってきたのか、肩を上下させている。


その後ろから、すぐにアランフォースが入ってきた。



リリアンヌは振り返ることなく、まっすぐにこちらへ向かってきた。



「あの、アイラ様」



「あまり、近づかないでもらおうか」


近寄ったリリアンヌの前に、さっと騎士が立ちはだかった。



「ブルック団長。いい加減にしてください」

アイラは、立ちはだかった騎士に鋭く言った。



「こんな緊急の時にまで、そんなことをする必要はないでしょう」



「……」

ブルックは渋面を浮かべたまま、リリアンヌの前から一歩退いた。



「……」

アランフォースが、静かにブルックを睨みつけた。



「アイラ様。お忙しいところ、申し訳ありません」


リリアンヌは二人に一切構わず、アイラのもとへ駆け寄った。



「…リリアンヌ殿下、どうされましたか?」



「これから、白のちからをお使いになるのですよね?」



「ええ、そうです」



「…あの」

リリアンヌは一度瞼を伏せると、力のこもった目を向けた。



「アイラ様が白のちからを使う時、加護のちからを送ってもいいでしょうか」



「え…?加護のちからを、誰に送るのですか?」

アイラは、小さく首を傾げた。



「アイラ様にです」



「私に…?」



「もしかしたら…アイラ様のちからを、底上げできるかもしれません」

リリアンヌは言いながら、胸元のマントをぎゅっと握りしめた。



「……」


自信がないのだろうか。



彼女の肩では、淡く体を光らせる小さな鳥が、首を傾げている。


この鳥が、精霊…



「どうしても何かしたくて…その、ごめんなさい」


先ほどまでの勢いが、みるみる萎んでいった。



「邪魔だけは、しませんから」



「…リリアンヌ殿下。それは、願ってもないことです。私からもお願いできますでしょうか」

アイラは、そっと口を開いた。



精霊の加護については習ってきたけれど、実際にどんなものかは分からない。


ただ、本当に自分のちからを底上げできるのなら――



今は、わずかな希望にでも手を伸ばしたかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ