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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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ちからを発揮するとき③

リリアンヌ視点



「!?ギャアアアァァァ…!」


異形の存在(ゼノプーパ)が、大きく身もだえた。




――反撃なんて、絶対、させるか…!




「ギッ…ギギギッ…ギィィィッ…!!」


前屈みに身を縮め、金切り声を上げた。


その体から、何かを噴き出すようなことはなかった。



「…っ…」


感じる。


異形の存在の体の中を。



(コル)を、感じる。



この感覚を、知っている。


あの時だ――



薬療院で、シルヴィアと同時に白のちからを使った時。


自分の使った白のちからが、シルヴィアの胸の奥にあった光と、ぐるりと混ざり合った。


あれと、一緒だ。




――白のちからを、“心”に送り込んで、押し出す…!




「ギィッ…ギィィィィ――ッ…!!」


異形の存在の胸元から、淡い光が浮かび上がった。



「…!」



「アラン!」


アランフォースは、エドガーの呼び止める声を背に駆け出した。



「…ぅ…くっ…!」


リリアンヌの体が、ふらりと揺れた。


震える足に力を込め、左手を右手に添えた。



想像以上に、体力を使う。


体が、後ろへ引っ張られるようだ。


それでも、ちからを緩めるわけにはいかない。



今、この瞬間だけは――



アランフォースは、駆けたまま背中から大剣を抜くと、


異形の存在の前で、強く地を蹴った。



胸元から現れた“心”に、大剣が差し込まれた。



「ギャアアアアア……!!」


アランフォースは右手を赤く光らせ、上から押し込むように大剣をねじ込んでいる。


“心”を包む光が、一気に膨れ上がった。



もう少し――



「ギィィィッ…ギ、ギ、ギ…ア、ア、ア…」


悲しそうな声が、辺りに木霊した。




――パリンッ…!



異形の存在が――ゆらりと、消えた。


村を覆っていた暗い雲が、一瞬にして消え去った。




「…っ!」


リリアンヌはそのまま、両手を地面について倒れ込んだ。



「リリアンヌ殿下…!」


すぐさまその体を、エドガーが支えた。



「はっ…はぁ、はぁ…っ、げほっ、げほっ…!」


苦しくて、口を開くこともできない。



心臓が、聞いたこともないくらい早鐘をついている。


空気が足りなくて、くらくらと目が回る。



なんとか…異形の存在のちからを押さえ込むことができた。


倒したのは、アランフォースだけれど…




「こんなに、あっさりと…」



「…はっ、はぁ、はぁっ…」


耳に届いた声に、涙目になりながら顔を上げた。



国王が、異形の存在の消えた場所を見つめていた。



「はっ、はぁ…」


今度は、後ろへ目を向けた。



誰も、動いていない。


国王と同じように、消えた異形の存在へ目を向けたまま固まっている。



「…んぐっ…けほっ…」


怪我をしている兵士は、いないのだろうか。


霊拝師(オランス)たちは、どこにいるのだろう。




「リリアンヌ」



「…はい」


ゆっくりと、顔を前に向けた。



「お前は、ちからの使い方を知っていたな」


レックスは正面に立ち、じっと見下ろしていた。



「何を隠している」



「陛下…!今はそんなこと、どうでもいいでしょう」

エドガーが鋭く言った。



「……」


レックスも、リリアンヌも口を開かなかった。




「リリアンヌ殿下」



「!」


はっと顔を横へ向けた。



アランフォースが、崖下から戻ってきた。


何事もなかったかのように、もう、大剣を背中に戻している。



「アランフォース副団長…!お怪我はありませんか」


エドガーの手を借り、ゆっくりと立ち上がった。



途中で目を離してしまったけれど、あんな高く跳んで大丈夫だったのだろうか。


ちからも使っていたはずだ。



「……」

アランフォースは答えず、素早く辺りを見渡した。



「…?」


何か、言いたそうな表情だ。



「…リリアンヌ殿下」


アランフォースはもう一度名を呼ぶと、目の前に跪いた。




そのまま――静かに頭を下げた。




「…!?あ、アランフォース副団長…!」



「我々は、討伐のたびに多くの同志を失ってきました。この戦果は、殿下がもたらしたものです」

アランフォースは、よく響く声で続けた。



「リリアンヌ・エラドリオール殿下に、敬意を表します」



「…!」



「……」


エドガーはリリアンヌから手を離すと、同じように跪いて頭を下げた。



「エドガー団長…!」

リリアンヌは、はっとエドガーの後ろへ顔を向けた。



伝播するように、騎士たちが次々と跪き、頭を下げた。


立っているのは、


レックスとリリアンヌだけだった。



「リリアンヌ」


唯一立っている人物が、一歩近づいた。



「…っ」

リリアンヌは構えるように、ぐっと肩に力を入れた。




「…見事だった。ご苦労」



「え」



「お前は、先に馬のところまで戻っていろ。さっさと帰って、お前の家族を早く安心させてやれ」

レックスはそれだけ言うと、すぐに顔を背けた。


そのまま、まだ跪いている騎士の間を進んでいった。



それと同時に、さっと騎士たちが立ち上がった。



「!?あ、あの」



「…なんだ」



「怪我された方は…!」


リリアンヌは言葉を止め、崖下へ駆けていく霊拝師たちを目で追った。



「…おい、なんだ」


足を止めていたレックスが、煩わしそうに振り返った。



「あの…私も霊拝師様について行ってもいいでしょうか」



「あ…?今度は何をする気だ」


レックスの声が、すぐに鋭くなった。



「…分かりません」

リリアンヌは、ぎゅっと胸元のマントを握りしめた。



「分からないから、知るために行ってきたいです」



「……」

レックスは、じろりとリリアンヌを見下ろした。



「……」


黙ったまま、リリアンヌはその目を見つめ返した。



「…俺は、村の様子を見に行く」


そう言って再び背を向けた。



「その間は、自由にして構わない」



「…!ありがとうございます!」


リリアンヌは勢いよく頭を下げると、


息を整える間もなく、霊拝師たちが向かった方へ駆けていった。



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