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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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ちからを発揮するとき②

リリアンヌ視点



「……」


レックスは、ゆっくりと振り返った。



「違う…っ!精霊と異形の存在(ゼノプーパ)は、全然違う!」


リリアンヌは、まっすぐレックスだけを見ていた。



「真実を知っているのに、どうして精霊のせいにできるのですか…!」


唯一、真実を知っているはずなのに。



瘴気は、精霊の呪いだと、


異形の存在を生み出したのは人間だと、


元凶は、自分たちの祖先である初代王だと知っているはずなのに――



どうして、精霊のせいなどと言えるのか。




「…お前」

レックスは、ぴくりと眉を寄せた。



「一体、何を――」



「陛下、お願いがあります」


リリアンヌは目を離さないまま、間に立つアランフォースの前まで進み出た。



「私に、異形の存在の討伐を任せてください」




「…あ?」



「ブァァァァッ…!」



――バシャッ…!



「…!」


咄嗟に、体をびくりと震わせた。



近くまで飛んできた酸が、


ジュワッ…と音を立てながら、草を溶かしていった。



腹の底から、怖い。


足が、震える。


今すぐ、逃げたい。



「おい…何のちからが使えるかも分からねぇのに、何をどう討伐するっていうんだ」


レックスは勢いよく屈み込むと、ぐっとリリアンヌへ顔を近づけた。



「冗談じゃ済まねぇぞ」



「…分かっています。こんなこと、冗談で言いません」


絶対に、目を逸らさない。


どれだけ怖くても、逃げては駄目だ。



精霊と異形の存在が違うということを、


絶対に、目の前の王に伝えなくてはいけない。



「…もし、余計に暴れたらどうする」

レックスは、鋭い目でじっとリリアンヌを見据えた。



「そんなこと、させません」



「随分、自信があるようだな」



「あ、あります」



「!」



「自信は、あります」

リリアンヌは、自信のなさそうな顔で答えた。




「…五分、お前にやる」

レックスが姿勢を戻し、静かに言い放った。



「試したいことをやってみろ」



「陛下…!正気ですか!」

エドガーが、素早く割り込んだ。



「自信あると言ってんだ。やらせてみればいいだろ」



「リリアンヌ殿下に何かあったら、どうするのですか!」



「こいつを、ひとりでどこかに飛ばせ。その間に、いつも通り討伐するまでだ」



「なっ…」



「エドガー団長、私からもお願いします」



「…っ」

エドガーは険しい顔を、ぱっとリリアンヌに向けた。



「あなたもあなたです。何を考えているのです…!」



「陛下のおっしゃる通りにお願いします。異形の存在を倒せなかったら、私をどこにでも飛ばしてください」


リリアンヌは、異形の存在に目を向けていた。



これから自分のやることは、ひとつだ。


“マドカ”と同じように――



「リリアンヌ殿下…!」



「!」


強く肩を引かれ、異形の存在が視界から消えた。



「一体、何をする気なのですか」


アランフォースの口調は、いつもよりずっと厳しいものだった。



「教えていただかないと、あなたを護れません」



「アランフォース副団長。お願いがあります」

リリアンヌは、必死な目をアランフォースへ向けた。



「…何でしょう」



「私が動いたら…そうしたら、すぐに異形の存在の…心臓を、貫いてほしいんです」



「…ですから、何をする気なのです」



「異形の存在に、ちからを使わせないようにします。胸元も、露わにできるはずです」



「…!」

アランフォースは、わずかに目を見開いた。



「お願いします…これは、アランフォース副団長にしか頼めない」


異形の存在の、“弱体化”とは――



マドカは白のちからを使って、


異形の存在の使うちからを押さえ込み、胸元に沈む“(コル)”を浮かばせることができる。


“心”は、異形の存在の要であり、弱点だ。


その浮かんだ“心”を、仲間たちが貫く。



スノウの加護があっても、異形の存在を消し去ることはできないかもしれない。


それに、ちからを押さえ込むことができても、暴れるのを止めることまではできない。


あの拘束杭が抜けて、踏まれでもしたら、ひとたまりもないだろう。


けれど――



「……」

アランフォースの目が、探るように揺れた。



「絶対に、アランフォース副団長を傷つけさせません」


アランフォースに何かあれば、即座に白のちからで治療する。


自分のせいで、誰かがまた傷つくなんて、絶対にごめんだ。



「私を…信じてくれますか?」


けれど、アランフォースなら――


“物語”の仲間なら。



絶対に、(コル)を破壊してくれる。




「…分かりました」


アランフォースは静かに立ち上がると、リリアンヌの横に並んだ。



「いつでもどうぞ」


その視線が、異形の存在に向けられた。



「……」

リリアンヌは、同じように正面へ視線を向けた。



アランフォースが、信じてくれた。


失敗は、許されない。



「スノウ…よろしくね」



「ホ~…!」


スノウは、これから何をするのか、分かっているようだった。



「ギギャギャギャ…!」


異形の存在は、まだ岩壁を叩き続けている。



「……」


リリアンヌは一歩大きく踏み出すと、まっすぐに右手を伸ばした。


何を心で願えばいいかは、もう、分かっている。




――あの異形の存在(ゼノプーパ)と、繋がれ…!




リリアンヌの体と、


異形の存在の体が、同時に白い光で包まれた。



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