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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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ちからを発揮するとき①

リリアンヌ視点



太陽が、真上近くまで昇っている。


川の水が陽に反射して、眩しい。



ダコレアの森側から早馬の兵たちがやって来て、一団を先導した。


途中、全員で馬から降りて、しばらく歩いて進んだ。



着いた先は、村の麓だった。



村は、岩山を切り拓くようにして築かれていた。


ごつごつとした岩肌に張り付くように、家が密集して建っている。


今は黒い雲に覆われ、全貌は見えない。


村の下は、切り立った崖になっている。


見下ろしただけで、足がすくみそうな高さだ。



その崖下に――異形の存在(ゼノプーパ)がいた。



「アハハハハ…ギィ…アアアァァ……」


笑いとも、悲鳴とも分からない不気味な呻き声を上げている。


黒い靄を全身にまとい、ゆらゆらと巨大な体を揺らしていた。



「……」


鳥肌が、止まらない。


離れていても、気持ちがざわつく。



これが、現実の異形の存在――



「リリアンヌ、来い」



「…!はいっ」


急いで駆け、一団の先頭に立つレックスの横に並んだ。



「異形の存在について、学んだか」

レックスは、異形の存在へ目を向けたまま口を開いた。



「え…は、はい」



「あの黒い靄は、瘴気だ。瘴気も知っているか」



「はい…近づきすぎると、感情が揺さぶられるものと聞きました」

リリアンヌは、レックスと異形の存在を見比べながら答えた。



異形の存在の大きさは、崖の半分くらいだ。


村には、まだ届いていない。



「フフフフ…アアアッ…!」


崖を登ろうとしているのか、


ダァンッ、ダァンッと手を叩きつける音が、辺りに響いていた。



崖の上から異形の存在に向かい、何本もの鎖が伸びている。


見えない村は、わぁわぁと騒がしい。



異形の存在が崖を登らないよう、


上から現地兵たちが、拘束杭を打ち込んでいるのだろう。



「ブッ…ブフファァァッ…!」


異形の存在が、体を犬のように震わせ、大量の水滴をまき散らした。



「…っ」


国王は、何を悠長に自分と話しているのだろう。



まだ、兵たちが異形の存在と戦っている最中だというのに。


あれでは、いつか攻撃を受けて怪我をしてしまう。



「!下がって」


エドガーが素早く、レックスとリリアンヌを庇う位置へ踏み出した。



――ビシャッ…!



エドガーの足先に、異形の存在が体から撒き散らした液体が届いた。


広がった液体から、ジュワ…ッと煙が上がり、辺りの草を溶かした。



「…毒か?」



「いえ…煙が上がっているので、毒ではないでしょう」


レックスもエドガーも、足元に広がった液体へじっと目を向けていた。



「……」

リリアンヌは、こくりと喉を鳴らした。



あれは、酸だ。


あの異形の存在は、酸を噴き出している。



「…触れれば、火傷じゃ済まねぇな」


レックスは、さらに一歩、異形の存在の方へ近づいた。



「陛下、それ以上は危険です」



「エドガー、討伐部隊は」



「いつでも出陣できる状態です」



「始めるぞ。上の兵どもに伝えてこい」



「…リョーマ!聞こえたな」



「はっ!」


エドガーに顔を向けられた騎士が、何人かを伴って村の方へ迂回していった。



「…陛下、リリアンヌ殿下をまず下がらせるべきです」



「リリアンヌ。お前は、あれを見てどう思う」

レックスは、エドガーの言葉を無視して続けた。



「どう…?」


どう思うも、何も。



今は――


怖くて、仕方ない。




「俺はな、あの化け物が、憎くて仕方ない」


レックスは、ゆっくりとリリアンヌの方へ体を向けた。



「なぜあんな化け物が、この世に現れたと思う」



「……」

リリアンヌは何も言わず、じっとレックスを見つめ返した。



「どれも…精霊のせいだ」


レックスの目が、静かに細められた。




『精霊の加護を求める声が、世界中に広がった』


『精霊狩りの始まりである』




「お前は、その元凶を見つけた」


じっと、紅い瞳がリリアンヌを見下ろした。




『精霊は殺され、時には自ら死を選び、次々と消えていった』


『悲しみ、人々を恨み、そして――呪った』


『呪いはやがて瘴気となり、そこから異形が生まれた』




「異形の存在を生み出した元凶を、お前は、拾った」


その瞳は――怒りで、揺らめいていた。



「お前の肩にいるのは――異形の存在(あれ)と、同じだ」




「ゲギャアアアァァァ――…!」



異形の存在の咆哮と同時に、


ビシャッ…!と酸が周囲へ弾け飛んだ。




「陛下、いい加減にしてください」


アランフォースが、二人の間に立ち塞がった。



「その通りです。戯れは、ここまでです」


さらに、エドガーがその横に立った。



「…後ろに下がらせろ」


レックスは興味を失ったかのように、ふいっとリリアンヌから顔を逸らした。



「フーリン!」



「はっ!」


エドガーに呼ばれたフーリンが、一団の中から駆けてきた。



「リックと共に、リリアンヌ殿下を一番後ろまでお連れしろ」



「分かりました」



「騎士の半分が使い物にならなくなったら、そこまでだ。私は、陛下とリリアンヌ殿下を――」



「ち、ちがう…っ」



「…!」



「…え?」


小さな声が、騎士たちの言葉を止めた。



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