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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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初めての討伐へ⑦

リリアンヌ視点



「休憩は終わりだ!準備を進めろ」


エドガーが輪を抜け、座る者たちに向かって叫んだ。



「…また、後ほど」



「あと半分くらいですから、頑張ってください」



「ありがとう。リック、シャル」


二人が、準備を進める騎士たちの中へ戻っていった。



「…よし」


リリアンヌは倒木から立ち上がると、そっとお尻の感触を確かめた。



まだ、大丈夫だ。


あと半分くらいなら、なんとか耐えられる。



「…!」


視線を感じ、はっと顔を上げた。



「……」


アランフォースがすぐ傍で、じっと視線を向けていた。



「…ええと」


見られてしまった。


とても恥ずかしい。



「随分と仲が良さそうですね」



「…え?」



「部下たちと、いつの間に仲良くなったのですか」



「あ…リックとシャルのことですか?」


小声で喋ったつもりだったけれど、話の内容が聞こえたのだろうか。



「…そちらは、呼び捨てですか」


アランフォースの顔が、わずかに硬くなった。



「あっ…あの、ちゃんと許可は貰って」



「…私と、何が違うのでしょう」



「…へ」


何が違う…?



「あっ…ごめんなさい…!」

リリアンヌは、はっと慌てて謝った。



「私が話しかけて、二人を呼び止めてしまったのです」


アランフォースは、リックとシャルの名を呼んでいたのに、


自分が質問をして、二人を止めてしまった。




「…一体、何の話をしているのです?」



「…え…あれ?」



「…時間です。行きましょう」


アランフォースは視線を逸らすと、樹に繋いだロックの方へ進んでいった。



「…うぅ…」


部下たちに勝手に話しかけたりして、怒らせてしまったのだろうか。



「……」

リリアンヌは小走りで近づき、アランフォースの後ろにそっと立った。



「水筒を預かります」



「はい…ありがとうございます」



「道中でも、いつでも飲みたい時はおっしゃってください」



「…はい」


怒っては、いないようだ。



「何か…聞きたいことは、ありますか」



「…聞きたいこと、ですか?」


リリアンヌはロックに乗せられながら、きょとんとした顔を浮かべた。



「ええ…質問があれば、私に聞いてください」


アランフォースが大きくロックへ跨り、ぎしっと鞍が沈んだ。



「…どんなことでもいいのですか?」



「なんでも構いません。私が分かる範囲のことでしたら、お答えします」



「……」


それなら――




国王とエドガーの馬が動き出し、それに合わせるように一行が進んだ。


川沿いを、ドドドッ…と再び馬が駆け出した。



「…もう少し体を、私に預けてください」


アランフォースはそっとリリアンヌの肩に手を置くと、自分の方へ寄せた。



「体重を背中にかければ、体が浮くこともなくなるはずです」


ぴたりと、背中がアランフォースの胸板にくっついた。



「…はい。ごめんなさい」


やっぱり、シャルたちとの会話は聞かれていたみたいだ。




「あの…アランフォース副団長」

リリアンヌはアランフォースに背中を預けたまま、小さく口を開いた。



「質問をしても、いいですか?」



「ええ、どうぞ」



異形の存在(ゼノプーパ)について…教えてくれませんか?」


アランフォースは、直接、異形の存在を見てきた人だ。


聞いてきた話とは、違う答えを持っているかもしれない。



「ああ…そうですね。申し訳ありません、説明不足でした」



「突然現れる天災のような存在ということは、知っています」


同じことを説明される前に、自分から切り出した。



「瘴気をまとった黒い巨人で、人智を超えたちからを使うことも知っています」



「…それなら、説明すべきことはありません」



「…どういうことですか?」



「私が知っている異形の存在については、今、リリアンヌ殿下がおっしゃったことがすべてです」



「えっ…」



「付け加えるなら、異形の存在が現れる場所には、必ず暗い雲がかかるということくらいでしょうか」



「え、ええと…何ものか分からずに討伐をしているのですか?」



「ええ…被害を出すことは間違いないですから、倒すことだけを考えています」



「そ、そうですね…」


それは、そうだ。



「…どうやって討伐するのですか?」



「異形の存在は、胸元…心臓に相当する部位を貫けば、消滅します」

アランフォースは、迷いなく答えた。



「…心臓」


リリアンヌは、ぽつりと繰り返した。



「心臓を貫くために、まず、異形の存在を拘束する必要があります」



「あの大きな体を、拘束することができるのですか?」



「…ええ。そのために、拘束杭を使います。異形の存在の両足を拘束し、体の自由を奪うのです。その状態で胸元を引き裂き、心臓の部分を露出させます」



「!?でも、体の自由を奪っても、異形の存在は攻撃するでしょう?」


“物語”では、異形の存在を“弱体化”さえすれば反撃を防ぐことができた。


だけどできなければ、もろに異形の存在の攻撃を受けることになる。



「…よくご存じですね。その通りです」



「あ…」



「ですから、拘束杭を打つ者も、弩砲…胸を引き裂く者も、最後に心臓を貫く者も皆、命懸けです」

アランフォースは気にせず、淡々と続けた。



「ただ、我々国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)は、そのために多くの訓練を受けてきました。必ず仕留めるために向かっています」



「…国王直属騎士団が、到着するまでは?」

リリアンヌは、微かに震える声で尋ねた。



「近くには、村落があると言っていました。国王直属騎士団が到着するまで、異形の存在は放っておかれるのですか?」



「放ってはおきません。領内の現地兵が、留めているはずです」

アランフォースはすぐに答えた。



「…その弩砲というものを使って?」



「いいえ。あれは、我々にしか扱えません。彼らは拘束杭を打ち、異形の存在がその場から移動しないようにする役です。彼らもまた、そういった訓練を受けてきています」



「…っ」


目の前が、くらりと揺れた。


つまり、囮ということだ。



あまりにも、“物語”とは異なる倒し方――



だから…違う。


比べることすら、間違っている。



ここでは、攻撃を受ければ、誰もが傷つく。


死ねば、それまで。


やり直しなんて、存在しない。




「ですから…あなたが気負う必要はないのです」

アランフォースは、そっと囁いた。



「我々は、何度も討伐をしてきています。どうか、心配なさらないでください」



「……」


違う。


そんな優しい言葉をかけてもらう資格なんて、ない。



いつまでも、自分のちからを隠している場合じゃない。


早く、異形の存在が消せるかもしれないということを言わなくては。



…いや、消せるかは分からない。


スノウのちからをどう使うのか、まだ分からない。



だけど少なくとも、“弱体化”はできるはずだ。


加護を授かった白の使い手ということは、“マドカ”と同じ条件なのだから。



それなら、素直に国王に話せばいい。


弱体化とはどういうことなのか、説明すればいい。


…そんなこと、いまさら言ったところで、国王が信じてくれるとは思えない。



違う。


国王のせいにして、ずっと逃げているだけだ。



ただ…自分は怖いだけだ。


本当に、できるのか。



もし失敗したら。


誰かが傷ついたら。


誰かが…死んでしまったら。



それが怖くて、ずっと言えなかった。


結局、そのままここまで来てしまった。




…情けない。


“物語”のリリアンヌは、どこまでもまっすぐだった。


戦いから逃げず、いつでも最前に立っていたというのに。



あまりにも“リリアンヌ”とかけ離れた自分が――


情けなさすぎて、泣きそうになった。



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