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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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初めての討伐へ④

リリアンヌ視点



「陛下、お待ちください!」



「お父様っ…行かせてください…!」


叫んだロデオを、リリアンヌはすかさず止めた。



「お役に立てるか分かりませんが、加護を授かった者として、行きます…!」



「…おいで」


ロデオは素早くリリアンヌを抱き上げると、部屋の隅へ連れていった。


屈んだ父の後ろでは、すでに騎士や文官たちが慌ただしく動き始めている。



「リリィ、今回ばかりは、絶対に好奇心だけで行っては駄目だ」



「分かっています。好奇心で、こんなことは絶対に言いません」

リリアンヌは、真剣な表情で返した。



「…聞いただろう。被害が出るんだ。目の前で、人が倒れるかもしれない」



「分かって…います」


父が言葉を濁しているのは、分かっている。



「それでも…何か少しでも役に立つなら、私は行きたい」



「……」


ロデオは指の腹で目頭を押さえると、俯いたまま動かなくなった。



「…あの、お父様――」



「僕も、行きます」



「!」


はっと、ロデオの後ろへ目を向けた。



「父上。僕も討伐に参加させてください」


ブライアンが背中を向け、レックスの横に立っていた。



「お前を、連れては行かない」


国王の表情は、ブライアンに隠れ、見えなかった。



「ですがっ、リリアンヌは」



「リリアンヌは、加護を持っているから連れて行く」



「…僕は、邪魔だと言うのですか」



「成人するまでは、戦争にも討伐にも連れて行かない。そう言ったはずだ」



「…っ」


ブライアンの拳が、強く握られた。



「…陛下。今回ばかりは、私に討伐の指揮を任せてはくれませんか」


ロデオは跪いたまま、レックスたちの方へ体を向けた。



異形の存在(ゼノプーパ)の討伐は、絶対に俺が行く。お前は、王都を護れ」



「それならば、私も行きます」



「…おい、ロデオ。俺との約束はどうした」


レックスが、一歩こちらへ近づいた。



「約束は、絶対だ。娘を優先するな」


見下ろす眼差しは――どこまでも冷たかった。




「…厩舎まで連れてこい」


誰の返事も待たず、レックスは会議室の扉へ向かっていった。


その後ろから、エドガーとアランフォースが続いた。



「…リリアンヌ殿下。せめて着替えましょう」


いつの間にか、ルイージが近くまで来ていた。



「あ…そうですね…さすがに、ドレスでは行けません」


けれど、着替えられるような服もない。



「…僕が、稽古の時に使っていた服を用意させよう」

ブライアンが、さっと振り返った。



「軽くて丈夫で、帷子より硬い。軍服と同じ作りだ」


その表情は、普段と変わらなく見えた。



「…ご厚意を感謝します、ブライアン殿下」

ロデオは、跪いたまま頭を下げた。



「…気を付けて行ってこい」


ブライアンの視線は、リリアンヌへ向いていた。



「…はい」



「…先ほどの部屋に、服を運ばせる」


すっと目を逸らすと、そのまま人混みの中に消えていった。



「…行こう、リリィ」


ロデオはリリアンヌを抱え上げ、まっすぐ扉へ向かった。



「陛下は、何を考えていらっしゃるのだか」


「お可哀想にな…まだ、これからどこへ行くかも分かっていないだろう」


「死人が出るような場所で、一体、何ができるというんだ」


囁く文官たちを足早に追い越し、会議室を後にした。



「……」


リリアンヌは目を伏せ、ロデオの足元にだけ視線を向け続けた。




客間に戻ると、バルバラたちが慌ただしく服を抱えてやって来た。


白い上衣に、茶色いズボン。


肩も袖も、ぶかぶかだ。


けれど、軽くて丈夫ということは、袖を通してすぐに分かった。


髪は邪魔にならないよう、高い位置でひとつにまとめられた。


最後に、頭巾付きの大きなマントを羽織らせてもらった。


走っても熱がこもらない作りなのだと、着替えながらバルバラが教えてくれた。



客間の扉の外では、父だけが待っていた。


先ほどまで護衛してくれていた二人は、準備のため、もう厩舎へ向かっているのだろう。



父は王城を出て、まっすぐ第一城壁の正門の方へ向かった。


正門の前を右へ折れると、大きな厩舎が見えてくる。


その前では、黒い軍服の騎士たちが、静かに出陣の準備を進めていた。



ロデオは、騎士たちの手前でそっと娘を下ろした。



「…私はここまでだ」


そのまま屈み込み、優しく背中をさすった。



「…お前が心配すぎて、気が狂いそうだ」



「お父様…私、大丈夫です」



「お前の命は、何に代えても護らせる。それよりも、余計なものを見させることが嫌で仕方ない」



「余計な…もの」



「異形の存在には…絶対、近づきすぎるなよ」



「…はい」

リリアンヌは、真剣な面持ちで頷いた。



「エドガー!」



「はっ!」


ロデオに呼ばれた団長が、すぐさま自分たちのもとへ駆け寄った。


自分と同じような旅用のマントを、軍服の上から羽織っている。



「後は任せたぞ。絶対…何があっても、娘を連れて帰ってこい」



「もちろんです」

エドガーは即座に頷いた。



「リリィ…私は、もう行く」


ロデオの視線が、再びリリアンヌに戻った。



「いつもの…やってくれるか」



「…お父様、大好きです」

リリアンヌはすぐに両手を伸ばし、ぎゅっとロデオを抱きしめた。



「…王都に戻ってきたら、絶対迎えに来るからな」



「はい。ありがとうございます」



「…本当に、気を付けろよ」


ロデオは、ゆっくりと体を離した。


立ち上がると、そのまま厩舎から静かに離れていった。



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