表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
133/235

初めての討伐へ③

リリアンヌ視点



「…!」


会議室に入ると、一番奥にいた父が勢いよく立ち上がった。



「…リリアンヌ、ここへ」


いつもより低い声で、静かに呼び寄せた。



「……」

リリアンヌは足を進めながら、怖々と室内を見渡した。



会議室は、騎士や文官たちで溢れている。


壁際まで人が並び、息苦しいほどだった。



あっという間に人に紛れ、ブライアンの姿が見えなくなった。



「リリィ、こんなところまですまない…ここに」


ロデオは椅子を引き、やって来た娘を隣に座らせた。



「…なぜ総長の娘が?」


「ほら…加護がどうとか」


「ああ…あの噂か…」



「……」


囁き声に、リリアンヌはきゅっと口を結んだ。




「全員、黙れ。会議中に、勝手に話すな」


鋭い声が、室内に響いた。



「遅いぞ、ルイージ」


中央の席には、すでに国王が深く腰掛けていた。



「…申し訳ありませんでした」


ルイージはレックスの後ろを通り、奥の席についた。



「…お前は、何も話さなくていいからな」


父は、国王の手前側の席に座っている。



「…はい」

リリアンヌはロデオ越しに、そっとレックスへ目を向けた。



三週間ぶりに見る国王は、こちらに見向きもしなかった。



「…あ」


国王の後ろには、黒い軍服の騎士が二人、静かに立っている。


そのうちのひとりが、じっとこちらへ視線を向けていた。



「…っ」


アランフォースと目が合っただけで、泣いてしまいそうだった。




「それで、被害状況は」


国王の声に、慌てて室内へ顔を向けた。



「早馬の者が言うには、異形の存在(ゼノプーパ)の動きはかなり遅く、今のところ人の被害はありません。

ですが、出現したのは半日前の話ですので、状況も大きく変わっていることでしょう」


深緑の軍服の騎士が、素早く答えた。


初めて見る色だ。



「ここからどう急いでも、ダコレアの森までは丸一日かかるな。まあ、被害も出るだろう」


文官よりも豪華な上衣を着た者が、断りもなく発言した。



「ダコレアの森の近くには、ダコマ村という小さな村落があります。

避難は済んでいるかと思いますが、被害が出るのなら、そこが一番可能性が高いです」


深緑の軍服の騎士は、国王だけを見据えていた。



「とにかく、時間が惜しいな」

ロデオが口を開いた。



「エドガー、国王直属騎士団の部隊はどう動かしている」



「すでに討伐特化部隊と戦術部隊が、討伐用弩砲を運び現場へ向かっています」


ロデオの問いに、レックスの後ろに控えていたエドガーが素早く答えた。



「他の二部隊は」



「いつでも出陣可能です」



「それなら、出陣は一時間後だ。すぐ準備に取りかかれ」



「お待ちください、陛下、ロデオ総長!」


ロデオとエドガーの会話に、別の声が割って入った。



「…!」

リリアンヌは、はっと息を呑んだ。



「そうやって、また力押しで終わらせるおつもりですか。まったく、何のための会議だ」


思っていたより近い席に、スワハマが座っていた。



「また陛下自ら、現場に向かわれるおつもりで?」



「当たり前だ」

レックスが短く答えた。



「いい加減、お立場を理解したらどうですかな。何のために陛下が行く必要があるのです」



「何のためにだと?俺の国で、得体の知れない化け物に好き勝手させないために決まっているだろ」


国王の声色は、すでに苛立っていた。



「ですから、そんなものは部下たちに任せればよろしかろう!」



「このくだらないやり取りをしている間にも、異形の存在は王都に近づいてきているだろうな」

レックスは、冷たい声でスワハマに返した。



「これ以上邪魔するなら、お前と聖守護騎士団(サークラグラディウス)で討伐に行かせてやろうか」



「…面白くもない冗談だ」

スワハマが、ふんっ…と鼻を鳴らした。



「我が騎士団は、大聖堂と霊拝師(オランス)のために存在する。そうなったら一体、誰が霊拝師たちを護るというのか」



「ちっ…頼まれても行かせねぇよ」


レックスは小さく舌打ちすると、苛々とテーブルを指で叩いた。



「ルイージ」



「…はっ」


レックスの呼び掛けに、奥に座るルイージが素早く返した。



「リリアンヌが何のちからを持っているか、分かったのか」



「…!」

リリアンヌは、一瞬で肩を強張らせた。



「…いいえ、まだです」

ルイージが短く答えた。



「もう、三週間も経った。何をしていた」



「申し訳ありません」



「……」


ルイージが頭を下げる必要なんてないのに。


この三週間、ずっと協力し続けてくれたのに。



「リリアンヌ」

レックスは、ゆっくりと視線をリリアンヌに向けた。



「はい…!」


咄嗟に、さっと姿勢を正した。




「お前を、連れて行く」



「…えっ」



「陛下!!」


ロデオの声が、会議室中に響き渡った。



「一体、何を考えている…!この子を、私が連れて行かせると思うか!」



「言っただろう。加護を持った者は国に尽くし、有事の際は参加する。例外はない」

レックスは、淡々と返した。



「まだ何のちからかも分からないのに、参加させる必要はないだろう!」



「現場にいなければ意味がない。実際に動けば分かるかもしれないだろう」



「そんなわけがあるか…!リリアンヌはまだ、八歳だぞ!」


ダンッ…!と、ロデオの叩いたテーブルが軋んだ。



「陛下、私もロデオ総長に賛成です」


手を上げたのは、濃灰の軍服の騎士だった。



「リリアンヌ殿下を連れて行かれたところで、騎士団の歩みを遅らせるだけです」


彼は、守衛隊のナイジェル隊長だ。


彼の後ろに立つ兄のサイラスが、深く頷いている。



兄がいることにも、気付く余裕がなかった。



「ふんっ…霊拝師はいくつだろうが、戦場にも被災地にも向かう。討伐の妨げになったこともないな」

スワハマが再び口を開いた。



「リリアンヌ殿下は、王族です。それに霊拝師は、一年かけて遠征の訓練を受けるでしょう」

ルイージが即座に反論した。



「ルイージ宰相、だから儂は言ったんだ。リリアンヌ殿下を大聖堂で指導するべきだとな」



「そんなこと、今は、どうでもいい」

ロデオが、怒りを隠さず言い放った。



「エドガー、さっさと準備を進めろ。一時間以内に、国王直属騎士団が出陣できるように――」



「い、行きます」


小さな震える声が、ロデオの言葉を止めた。



「討伐に、ついて行きます」


リリアンヌは、まっすぐにレックスを見つめたまま言い切った。




「…準備しろ。会議は終わりだ」


レックスが、静かに立ち上がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ