表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
129/222

大国の王太子⑦

リリアンヌ視点



「…もう、四時ですか」


窓の外から聞こえた鐘の音に、ルイージが、はっと顔を上げた。



「今日は、ここまでにしましょう」



「ルイージ宰相、今日もありがとうございました」


リリアンヌはすぐにソファから立ち上がり、いつものようにお辞儀した。



「いいえ。長い時間、お疲れ様でした。ブライアン殿下、今日はご協力いただきありがとうございました。明日は、九時にこちらへ来ていただけますね?」



「ええ、問題ありません」

ブライアンは座ったまま、ルイージに頷いて答えた。



「…え」



「私は、先に失礼させていただきます。お二人とも、また明日」


呆然とするリリアンヌを残し、ルイージは速やかに扉から出ていった。



「…ブライアン様、本当に明日も来ていただけるのですか?」

リリアンヌはブライアンの横に立ち、申し訳なさそうに言った。



「僕は今日から、城に一週間滞在する。その間は、午前中だけ協力しよう」



「でも…また今日みたいに体力を使わせてしまいます」



「だから、これくらい問題ない」


ブライアンは小さく微笑むと、ゆっくりソファから立ち上がった。



「…ブライアン様、今日は本当に――」



「…行こうか」



「ありがとうござ…え?」


リリアンヌは、きょとんと顔を上げた。



「…久々に、裏門にある花畑へ行かないか」


ブライアンは、優しい笑みを向けていた。



「君が三歳になるまでよく行っていたが…さすがに覚えていないか」



「…いいえ。覚えています」


よく覚えてはいるけれど…



「ええと…これから?」



「この時間なら、裏門まで誰にも会わず行けるだろう。それに、花畑なら王家以外の者は来ない」



「でも…つい先ほど、ルイージ宰相から、ここから出るなと言われたばかりです」



「それは、君ひとりでだろう?必ずこの部屋へ送るから、安心してくれ。…それとも、僕と出かけるのは嫌か?」



「…!」


思いきり首を振った。


嫌だなんて、あり得ない。



「それなら、行こう」


ブライアンはそのまま扉へ向かい、少しだけ開いて外を覗いた。



「……」

リリアンヌは戸惑いながらも、その後に続いた。



「…そうだな、一時間ほどで戻ってくる」



「かしこまりました」



「よし…リリアンヌ、行こう」


使用人との話を終えたブライアンが、振り返って手を差し出した。



「…はい、ありがとうございます」

リリアンヌは、自然とその手を握った。



ブライアンに手を引かれながら、ちらりと後ろに目を向けた。


シャルとムロバンが、静かについてきてくれている。


だけど、それ以外は誰もいない。



「…ブライアン様は、いつも王城をひとりで歩かれているのですか?」


護衛がつくのは国王だけと聞いていたけれど、従者もいないのだろうか。



「普段は、ひとりだ」

ブライアンは短く答えた。



「普段は?」



「公務や行事があれば、僕にも警護がつく」



「玉座の間にもいらっしゃいましたね」



「従者は城にいるが…ほとんど部屋に置いてきている」



「置いてきている…?」


そんなこと、できるのだろうか。




「普段くらい…独りにさせてほしいからな」


静かな言葉が、耳に届いた。



「…!」



「…大広間を突っ切って行くか」



「…はい」


リリアンヌは何も言わず、階段を進むブライアンに続いた。



二人で手を繋いだまま、大広間を通って裏門を目指した。


ブライアンが一言告げると、門番たちはあっさりと裏門を通した。


門から続く大通りを進み、途中で左へ折れて木立を抜けた。




「…わぁ…!」



「…相変わらず、ここは綺麗だな」


二人の目の前に、辺り一面に広がる花畑が現れた。



紫と桃色と白の花が、どこまでも広がっている。


埋め尽くされた花の中央には大きな樹があり、そこだけ緑が映えていた。



「…遠くへは行かない。そこで待機してくれるか」



「はっ」


シャルとムロバンが、花畑の手前で足を止めた。



「あの大樹の下まで行こう」


ブライアンはリリアンヌの手を引いて、さらに奥へ進んだ。



「すごい…でも、踏んじゃいそう」


花が、細い通り道にまで溢れ出している。


足元を確かめながら進まなければ、せっかくの綺麗な花を潰してしまいそうだ。



「今は、ビューベラとアポマを植えているのか」


ブライアンも、同じように足元を見ながら歩いていた。



「色を揃えていて、とても綺麗ですね」


丸く広がる鮮やかな花と、薄い花びらを揺らす繊細な花が入り混じっている。


対照的な花なのに、驚くほど馴染んでいた。



ブライアンは大樹の根元で足を止め、手を離した。



「リリアンヌ、ほら。ここからなら、君も見えるだろう」



「あっ…」

リリアンヌは、はっと顔を上げた。



崖下に広がる湖が、視界いっぱいに映った。


広大で、どこまでも青く澄んでいる。



「綺麗…」


王都で暮らす人々にとっては、欠かすことのできないレイセント湖。


まだ、遠くから眺めることしかできない。



いつかは、直接この手で、あの湖に触れられるのだろうか。



「前は、抱えてもらわないと見えなかったのに」


三歳の時は、乳母に抱えてもらうことで、ようやく湖を見ることができた。



「成長した証だな」


ブライアンは張り出た根の上に跨ぎ、腰を下ろした。



「すまない…君が座るための敷き物を、何も持っていない」



「大丈夫です」


リリアンヌはハンカチを取り出すと、ブライアンの傍らの地面に敷いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ